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いとこは聖女様。  作者: 空気鍋
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戸惑いだらけのメインパート10

更新が遅くなり大変申し訳ありません。

フッと目が覚めた。

起きたてのボーッとした頭のまま思わず呟く。


「見慣れた天井だ……。」


どうせなら有名な“あの言葉”を言いたかった。そんなくだらない事を考えていた。別に口癖では無いのに何故、今、この言葉が出たんだろう……とボンヤリ思っていると突然、記憶が戻ってきた。

風呂に入っていた時。

父さんに言われた事を湯船に浸かりながら考えて。

考えていたら急に視界が閉じていき。

―あー。俺、逆上のぼせたんですね? ワカリマス。

ひたいの上に置かれた冷たい塗れタオル。冷えピタじゃないタオルからは水が垂れてきていて髪も濡らしている。しかし、それが気持ちよくて上半身を起こしてタオルで頭全体を濡らした。体にかけられていた毛布がずれ落ち腰の辺りに溜まる。裸の上半身に頭から垂れてきた水が流れくすぐったのがなんか面白い。

俺は髪を掻き上げて部屋の隅でこそこそしている司と蒼井さんを見つけた。二人ともこちらに背を向けひそひそ話している。漏れ聞こえる声からは司が蒼井さんにからかわれているようでクスクスしている蒼井さんは顔を真赤にしている司の頬を指でツンツンしている。


「良かったわね? 司くん。」

「……あおいさんのばかぁ。」


なんか司は泣きそうになっていた。俺はそう言えばと思い出す。司は意地っ張りな癖に泣き虫で我慢強い割に崩れるときは即、だったけ。お化け屋敷で怖くないって言いながら途中で目を閉じて動くなくなって七歌に笑われていた司をなんとなく思い出していた。


「司。」


あの時、俺は司を背負ってお化け屋敷から出たのだった。七歌には“甘やかしィ”と怒られたが司が泣いているのは嫌なんだから仕方がない。今もからかいが少し酷く見えて助けるつもりで声をかけていた。

俺の呼び掛けに司と蒼井さんも話しを止めてこちらを見た。


「あ、目が覚め……ひゃあっ!」

「あらあら。赤谷君の方がたくましいわね。」


司は慌てて両手で顔をおおって蒼井さんは余裕ありげに視線をずらした。だが、蒼井さんの目は横目で俺を見ているし司は手をパーの形に広げているから指の間から好奇に満ちた目が覗いて俺から離れない。っていうか司はこんなモノ(男の体)は見馴れてるだろ? そして赤谷は俺より凄いのか……なんでそれを蒼井さんが知っているのかは気づかないふりをしてやろう。

1。

2。

3。


「うぉわぁーっ。見るなーっ!」


4。を数える頃、ようやく頭が動き出した。カバッと毛布を肩まで引き上げ体を隠すと蒼井さんがガッカリした顔で小さく舌打ちして背を向けた。司はやっぱり指の間から見ながら


「お兄ちゃん。……えっと、その…………見えてる、よ? あの……全部。」


顔を青森の林檎(銘柄 サンふじ)より赤くして視線を下へもっていく。俺も下に目を向け、丸出しな部分を見てしまった。


「うひぁおーっ!」


なんと言う事だろう。俺は慌てて毛布を引き上げるあまり腰の辺りのカバーを忘れていたのだ。おまけに男が風呂で逆上せた時は血流が良くなりすぎるのか、起立してしまう。それも見られた。

毛布をかけなおし全身を隠してなおかつ太ももで肝心な部分を隠した。

俺は半泣きになっていたかもしれない。そんな内股で毛布を体に巻き付けた俺は


「見るなーっ! 早く出てけーっ!」


野太い声で叫んでいた。



俺が精神的にも身体的にも落ち着いて部屋の扉を開けるとずっとそこで待っていたのか司と蒼井さんがニヤニヤしながら視線を向けてくる。


「お兄ちゃん、ごちそうさまでした。」


司が言いながら両手を合わせてお辞儀をしてきた。所謂いわゆる“ごちそうさま”のポーズだが何が“ごちそうさま”なのか。知らない風をよそよいながら握り拳を司の頭に落とした。


「ヘブッ。」


油断していたのか“聖女(乙女)” としてどうかと思う声を出して司が廊下にうずくまった。


「僕、お兄ちゃんのそーゆー(暴力に訴える)とこ、直した方がいいって思うんだ。」


そんな声が聞こえたが気づかないふりで蒼井さんを見て蒼井さんは俺に1つうなづいて大人らしい態度で言う。


「男の生理現象だから仕方ない事、て貴方のお父さんが言っていたわ。なかなか面白い方ね?」


―く、クソ親父。


「お兄ちゃんが起きたら、まだまだ子供だな。って伝えてくれって言ってたよ? なんかすっごいため息ついてた。」


―あーはいはい。済みませんね、子供で。ええ、自分でもビックリですよ。

父さん(クソ親父)の顔に一撃くれながら(パンチを叩き込み)強引に話しを変えた。もう、俺に残った“プライドを守る方法”はこれしかなくニヤニヤ笑いが止まらない蒼井さんに


「それで何のようですか?」


話しかけると蒼井さんは笑い顔の下半分を隠して


「じゃ、中で話しましょう? 少し長くなりそうなの。」


真剣な顔をしようとして失敗した変な顔のまま俺の部屋に入っていく。司はその後を追いかけ入る時に


「今度は隠さなくてもいいね。」


一言ひとことが余計なんだよ。

握り拳を振り上げると司は悪戯っぽく悲鳴(キャー)をあげて部屋に入った。


「さて、始めるわね(仕切り直しね)。」


蒼井さんはレポートを書く時しか使わない机に肘をかけ足を組んで椅子に座って真面目な顔になり


「司くん。話しが終わるまでイジるのは無しね。」


司に釘を刺した。


「まず、初めから話した方がいいのかしら?」


そう前置きをしてから話し出した。


「魔王の討伐が終わってからの話しになるわ。私達は“自称女神”に連れ出され“自称女神”によって戻される筈だったのだけど。貴方も知っての通り時間がずれているわ、かかった時間は戻せないわで戻ってもろくな事にならないのは分かっているから向こう側に残る事にしたの。実際、私達で連れ出された当時高校生だった子が一度戻ったんだけど信じてもらえなかったのよ。司くんは凄く幸運ね。」


確かに俺も姿、性別の変わった司が間違い無く司(本人)だと確信したのは会ってすぐでは無かったしな。


「ただ、魔王を倒した“英雄”というのは私達が思ったより大きな影響を周りに与えたのよ。人界最強の7人とか言われているだけで私達が住んでいる王国は諸外国に強く出ているしその王国では王家と貴族が私達の取り込みに必至だわ。」


おおう。いきなり理解できなくなった。いや、言葉は分かる。だが貴族とか王家とか話しがいきなり大きくなりすぎだ。


「私達もこうなるなんて思ってなくて慌てて権力から逃げたんだけどね。司くんが騙されてね。」

「……一度だけ神殿で信者に祝福を贈ってほしいって大神官てのが土下座してきたんだ。で。一度出たらもう、抜け出せなくなっていたんだ……。」


蒼井さんの言葉と司の説明にガクッと肩を落とした。間違い無く詐欺というか引っかけというか。司も分かっているのだろうベットに座る俺の隣で「あーあー失敗した」なんて言っている。


「神殿は表向き王権とは別の神権()によって独立している。けど神殿はポートプルー伯爵という“成金貴族(国一番の金持ち)”のいいなりなのよ。司くんを神殿に入れたのは一番年が若くて取り込み易かったのと司くんが好みだったからでしょうね。」


…………今、聞き流せない事があったのだが。

俺は隣の司を睨んだ。


「直樹君? 待ちなさい。話しは最後まで聞いて。……私達は司くんが取り込まれた事に気づいて豚伯爵(ポートプルー伯爵)の邪魔をしつつ司くんに“聖女”として神殿で活動させたわ。結果としては神殿内の権力構造が最大の“聖女()”派、次いで神殿長派、大神官派の三つに分割する事に成功して司を即座に豚伯爵に渡さないようにした。豚伯爵は私達が目障りになったんでしょうね、今度は恩賞という手で貴族の称号と遠方の領地を渡してきた。迷ったけど私達はこれを受け取った。」


司の相談事はこんな裏があったのか。そして七歌は司のあの説明でこの話し(権力争い)を嗅ぎとった訳か。

俺は司を見ることが出来なくなっていた。こんな話しでは俺が司に何か言えたとは思えない。しかし何も言えなかったとも限らない。

俺が床を黙って見ていると蒼井さんは言葉を続けた。


「豚伯爵としては私達が領地経営に失敗するのを待って影響力を排除した後で司くんを好きなように料理するつもりでしょうね。だから、私達は絶対に失敗出来ないの。ところが私達に割り当てられた領地は魔王軍に完膚無き迄に打ち壊され領民が皆殺しになったかつての港町だったのよ。港町なのに港は燃やされ跡形もなく建物は瓦礫がれき農地は海水が蒔かれ草も生えない状態。」


ふう。蒼井さんは息を吐いた。


「もう、諦めて違う国に行こう、という話しもあったのだけど紫が反対してね。ここだけの話しだけど紫は第二王女とま、そういう関係だから嫌がって。まったく場所も構わずイチャイチャするもんだから、困るわよね。」


一度だけ会った紫という人はもっと理性的に見えたんだが。だが確信をもってアンタ(蒼井さん)には言われたくないと思っていると断言してやる。初めて会った、しかも司を振ったあの時あの場所あの雰囲気でイチャコラしたのはアンタらじゃあ!


「けど諦めなくて良かったわ。まさか司くんの……親戚の貴方が農学部専攻しているなんて。」


最近は農業が熱いとか言われて大学にくる連中も多いが俺がこの大学に入ったのは全ての農家の努力を知ってからだった。そして農業全体が苦しい状況にあるのを理解して何とかしたくて入った……のはいいが別に実家は農家ではない。卒業した後の就職を考えた俺は農家(本職)で更に修行するか手近な(会社)に就職するべきか悩んでいた。大学まで入った不安定な農業。安定しているけど大学に入った意味がなくなるサラリーマン。

そんな俺に手をさしのばす蒼井さん(第三の選択肢)


「貴方なら知っている(私達は貴方が)じゃないか(必要なの)しら。」

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