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いとこは聖女様。  作者: 空気鍋
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戸惑いだらけのメインパート4

少し前、苺さんはずっと後を着いてくる男が怖い、と俺をボディーガードの代わりにしていた事がある。その男は俺と“お話し合い(教育的指導)”をして、円満解決となったのだが苺さん的には男を簡単には赦すつもりは無かったらしく次に会ったら殴ってやると息巻いていた。

その時用にいい技がないか、と聞かれて教えたのが肝臓打ち(レバーブロー)だった。

相手に近づいて膝を伸ばす力と一歩踏み込んでからの腰の回転力を肩を介して腕、そして軽く握った拳へ伝え相手の体側面へ打つ。

身長が高い方の苺さんとはいえ男が相手なら届かないかもしれない上より急所や脛、足の甲等、対処のしやすい下より油断していると即、終了にもっていける脇腹がいいと思ったのだけど、たいして教えていないのに鋭い振りを見せる苺さんに恐怖感を覚えてはいた。殴りなれていない女の子は手加減をしないと聞いた事が有るし。

結局、その後、男が再び現れる事が無かった為、今まで封印されていたが、ついに解かれる事になった。よりにもよって教えた俺自身が俺自身の余計な行動で、その一撃を受ける羽目に。

打ち抜かれた脇腹が抉られたかと思う程強烈な一撃に床に顔を付け唸る事もできないまま、抉られたと思った脇腹周辺を手探りした。……あった。ちゃんと肉が有るのを確認して手を少し上にずらす。

骨折し(イッ)たかも。

近くを触る事もできない、息を吸う吐くするだけで走る激痛。痛みのあまり浅い呼吸を繰り返し顔から浮き出る脂汗が床に染みていく。激痛で途切れる意識を必死につなぎ止めて。

ぷりーずへるぷみ(誰か助けて)ー!

俺の“お願い”は誰にも届かなかった。

女の子達(蒼井さん苺さん七歌)言い合い(ケンカ)の真っ最中だった。

俺が床にうずくまっている間、七歌が今までの事を苺さんに説明していたようだが、あまりに滑稽夢想な(嘘っぽい)話過ぎて苺さんが信じられないらしく七歌に再三さいさん説明を繰り返させていた。

元々、仲の良く無かった二人は説明不足な七歌の言葉を苺さんが問いかけ直し、と三歩進んで二歩下がる会話をしていたのだが進まない説明に蒼井さんがぜ返してしまったようなのだ。二人の普段の様子(冷戦状態)を知らないのだから仕方がないが、不用意(余計)な一言で戦争勃発せんそうぼっはつ。間に立ってしまった蒼井さんはうつろな目で貼り付いたような笑顔をしていた。

蒼井さんは二人がピリピリしながらやり取りをしている時に雰囲気(空気を)を読まず歌うように呟いていた。


「昔、昔、そのまた、昔。とある小学生の可愛い男の子がゲームの中に、以下略!」


だが蒼井さんの言葉は二人の逆鱗に触れた。凄い目で蒼井さんを睨むと、


「真面目にやれっ!」


二人は同時に叫び、また同時に顔を見合わせる。それが合図(ゴング)になった。


「……だって、あたしらは鏡の向こう側に行ってきて帰ってきた経験者なのよ。あんた(苺さん)が知らない世界を見てきたのよ。」

「待って、待って、待って。そんな話、信じられない。」

「ハイハイハイハイ、あ~もう。あんたが思うとおりでもういいよ。」

「思うとおりでいいのは分かったから本当の事を言いなさい。」

「だから、さっきから言ってるじゃない。あんた馬鹿? 話を聞く気が無いなら聞くなよ。」

「七歌さんが、おかしな事を言うからよ。いい? ゲームの中は2次元。平面な世界なの。現実(ここ)は3次元、立方体の世界。立方の世界から平面の世界に行ける訳無いでしょう?」

「そんなの知らない! ただ、あたしらは行ってきた。それだけ。あんたが何言ってもね。」

「開き直ったわね?」

「開き直ったからどうしたっ!」


二人が“仲が良く見える”止まらない口論(コウゲキ)に元凶になってしまった蒼井さんは遠くを見る目になっていた。その顔には“鳥になりたい”と、鳥になって飛んでいきたい。そう書いていた。

あー……。不味い。

将来に蒼井さんが鳥井さんになるかは分からないが、とりあえずは役に立たない事は分かった。しかし今、子供のケンカ(おこちゃまの戦い)になってしまっている苺さんと七歌を止めないといけない。このまま放って置いては二人に修復出来ない溝が……。

蒼井さんは鳥井さんになりきっているようだ。窓の外から視線が動かない。

そして俺は胸の痛み(骨折)や腹の痛みで病院に行きたい。

彼女(苺さん)(七歌)は激しさを増して言い合いをしている。

―仕方がないよな。ここは俺が止めないと。

震える足を叱りつけ。

力を入れると走る激痛を堪え。

逃げようとする意識に怒鳴り。

力の入らない体で立とうとした。

彼氏(兄貴)はつらいぜ。

あの日本一有名な的屋稼業の彼が呟いた有名な言葉を俺も呟やき最後の一押しを……。


「……お兄ちゃんっ!」


最後の一押しは金髪碧眼の姿に合わない男の子言葉の。

ずっと会いたかった“聖女”様だった。

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