戸惑いだらけのメインパート1
更新が遅くなって大変申し訳ありません。
俺の部屋には相変わらず黒く何も映さなくなっている姿見が壁に立て掛けられている。
俺が向こう側から帰ってきた翌日には黒くなっていた。鏡の表面を触っても僅かに沈みこむのみでざらついた何かに邪魔をされ、それ以上入らない。
俺はぼんやりと鏡を見ながら向こう側にいる司や司の仲間達の事を考えていた。あの時、司の仲間達は「司が会いに行く迄、待っていてくれ」と言っていた。けど、あれから一ヶ月が過ぎようとしている今、向こう側に行く事も連絡を取る方法も無くなり選択は間違い無かったのか、本当は司に何を言われても向こう側に残るのが正しい選択だったのではないか。
ここ最近は、そんな事ばかり考えて大学で講義を受けていても内容を覚えていない状態だ。何をしても上の空な俺を心配してか苺さんが頻繁に家にくるようになった。
今日も心配そうな顔で部屋に入ってきて俺に話しかけてくれている。その顔が、行動が俺が引きこもっていた頃、司がしてくれていた顔と行動と被り思わず苦笑した。
‐本当、二人共、俺には勿体無い人だ。二人共、俺なんかの何処が良くて好きでいてくれてるんだろう。
私が直樹と初めて会ったのは大学の新入生歓迎会の会場だった。いきなり会場で腕を掴まれ
「司っ!」
叫ばれたのが始まりだった。この時、離さないというかのように力強く掴まれた腕は痣になって私の怒りは頂点に達していた。次に会ったのは、翌々日のお昼で混雑の学食の中。また、いきなり出てきて目の前で頭をつけて謝ってきた。私の怒りは臨界突破。あれからいろいろあって何故か付き合い始めたけど、今だにあの事は赦していない。
だから私は直樹を“馬鹿”だと思っている。周りが見えていない“直情馬鹿”。それさえなければ理想の彼氏なのだが。女性にしては高い身長の私より頭半分以上、背の高い直樹は私が秘かに憧れていた“彼氏に上目遣いをする”や“頭をナデナデして貰う”が簡単に出来るし、正面から見ればモデル体型の私と細マッチョな直樹は似合い過ぎているカップルに見えるらしい。後ろから見れば仲の良い男同士にしか感じられないらしいが。
出会ってから3年。付き合い始めてから2年。たった2年かも知れないが色々と凝縮された時間は直樹を理解する為に使われた。その上で私はこの人とならずっと一緒にいられる、そう思っていた……のに。
最近の直樹は私を見ると“ため息”をつき“辛そうな”、“申し訳なさそうな”目を向けてくる。
‐何でそんな目で私を見るの?
いっその事、問いかけてしまいたい。けど聞いたら“終わり”そうで聞く事が出来ない。だから、今は不安を押し殺して何も気づいていないふりをして直樹の様子を伺っている。
ふ、と。インテリアの黒い鏡をぼんやり眺めていた直樹が苦笑いを浮かべた。
‐苦笑いも笑いの内よね。
この一ヶ月の間、見なくなっていた直樹の笑い顔に何か安心をしてしまう。直樹はどんな顔をしていても“良い”がやっぱり私には笑顔が一番に見える。
出来れば早く苦笑いじゃなくちゃんとした笑い顔を見たい。
最初。
あたしがある事で文句をつけに兄の部屋に来たとき。
まだ明るい時間帯。
日射しは強く部屋に差し込み。
若い男女が一緒にいるにも関わらず。
……暗い。暗いわ。暗すぎよ。
何か街中でも明らかに誰も住んでいない建物って独特の暗さがあるけど、兄の部屋に漂っていたのは、そんな暗さだった。何時もは明るい兄の彼女さんも当てられたのか斜線の引かれた顔をしているし、兄なんか、司を振ったあの日から海より深く後悔、山より高く反省って感じで。あたしに言わせれば「何を今更」の一言で終わらせてしまうんだけど?
いつまで落ち込んでんだか。
大体、自分で気づかない鈍感さが酷すぎるのよ。
司は“家族”でしょ? 家族と会えなくなったから落ち込んでいるの? 「何を今更」
まったく、ニブすぎ。
イライラしながら二人の邪魔をした方がいいのか、どうしようか悩んだ時、兄が口元に小さく笑みを浮かべた。それを見た“兄の彼女さん”もニコッと笑う。あたしはイライラを通り越してムカムカしてきていたが表に出さないように笑顔を作り“兄の彼女さん”へ笑いかけるようとして。
黒くなっていた鏡から腕が出てくるのを見た。
ゆっくりと伸びてくるそれは分かっているあたしでも引くぐらい……気持ち悪い。あたしに気づいた“兄の彼女さん”もあたしの視線を追いかけてそれを見てしまった。
「……? ……! ……!! ……っ!」
人は本当に驚いた時は声が出ない、と聞いた事があるけど目を剥いて口をパクパクさせている“兄の彼女さん”は暫く固まっていたが
「……ゃ…………ぁ……き……ゃ…………きゃ……ああ……ああぁぁぁぁぁーっ!」
息をするのも絶え絶えになって悲鳴をあげた。その頃になって、ようやく兄が鏡を見る。
「司っ!」
勢いよく駆け寄る兄は“彼女さん”に止められた。
ま、普通、止めるわよね。普通、鏡から出てくるものなんか無いわけだし。
「直樹、危ない!」
「大丈夫だ!」
「ダメだって!」
「大丈夫だ!」
「ダメ!」
「大丈夫だ!」
「ダメよっ。」
「大丈夫だ!」
うん、人って自分より混乱している人を見ると冷静になるっていうよね。興奮して「大丈夫だ」しか言わない兄をみて目が据わってきた“彼女さん”はあたしが昔から知っている司にそっくりな仕草で司なら言うであろう言葉をこの人の言葉で。
「直樹っ。私の話しを聞きなさい。」
あたしがこの人を好きになれないのは他人の癖に“司”そっくりな所があるから。
指を一本立て、やや前屈みに兄の前に立つ“彼女さん”は気圧された兄に詰め寄る。
「危ないのに、いきなり近づいたらダメでしょ!」
あぁ、それも“司”が言いそう。この人は“司”の立ち位地で“司”が出来なかった事をする。
……なにか、ズルい。
その頃になると鏡からは女の人が出てきていた。女の人は部屋を見渡すと
「あら……。ごめんなさいね。司くんじゃないのよ。」
困ったように笑って言った。
更新が遅れた件について
言い訳になりますがスマフォの調子が悪く送信手前で固まって消えたのが二回、打ち込み途中で固まったのは数知れず。
ようやく更新出来ました。
バックアップや保存はこまめにしましょう。いや、ホントに。消えた瞬間のあのなんとも言えないやるせなさ…………。




