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いとこは聖女様。  作者: 空気鍋
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エピソード5~過去、未来、現在~

三つの時間を見てもらう、と言って最高神の息子神は隻眼の神を遠慮がちにおもっきり振りかぶった拳で殴った。突如とつじょとして隕石いんせきが降り落ち拳と共に彼の神を吹き飛ばした。……そう言えば昔、聞いた事がある。ボクシングというスポーツで極東の国、日本の選抜チームの一人が使っていた銭湫烏賊……なんとか……って必殺技が有る、と。只の人が必殺の技だからと言っても隕石をあやつるのだから此方こちらの世界はやはり凄い。……ん? …………あれ? あの人達(世界を救った英雄達)は、スッゴク苦労していたよ? ……そうか。じゃあ、必殺技って選らばれた人しか使えないんだね? そうだよね。じゃないと隕石がアチコチに落ちてボコボコに(大変な事に)なっちゃうモンね。

吹き飛んだ大神は我を取り戻し若干じゃっかん、赤い顔で


「情けないところを見せたの。」


軽く咳をする。

大丈夫です。へんに取り繕わない所がポイント高い(好印象)です。あの哀愁に満ちた姿は忘れられそうにありませんけど。


「…………何か変な事を考えている顔だの。……まあ、良い。これから見せるものは酷なものとなるだろう。……心して見るがいい。」


いつの間にか部屋には大きな水鏡が置かれ、それを三柱の女神が守るように囲んで立っていた。


「始めに私が過去を。」


切れ長の目と褐色の肌が特徴的な美()が妖艶に響く声で言った。


「次は、わたしが未来(さき)の事を。」


大きな目、元気な声の女神が片手を挙げて。


「最後は私が現在を、お見せします。」


薫るような笑みを浮かべた女神が、その笑顔にふさわしい声で締めた。

麗しい三柱の女神は、しかし今は私を断罪する為に此処に来たはず。


「……では、僭越せんえつながら…………。」


褐色の肌の女神が水鏡の上で手を踊らせ指を複雑に組み合わせた。



吹き叫ぶ風。

大地が歪み裂けた。

何処かで破裂音がして巨大な炎が上がる。

逃げる人達は安全に見える場所に向かって行くが。巨大な炎は強い風に乗り人びとを飲み込んでいった。数万人が暮らす街は僅かな時間で壊滅していまう。

私は何を見ているのか分からなかった。かつて私の世界に魔王がいた時、似たような光景を見たことがある。けど、安定した此方の世界では魔王は生まれないはずなのに。

轟音が落ちて炎と風を纏って周りに広がっていった。そして炎に飲み込まれた人達は黒い塊に変わっていき、やがてその形もとれなくなり崩れていく。その変わり小さな光のぎょくが次々と浮かんできた。私は思わず近くまで寄ってきた玉を両手で包む。


熱い熱い熱い熱い

痛い痛い痛い痛い

苦しい苦しい苦しい苦しい

助けて

何故、こんな事に


玉からは沢山の聞くに耐えない悲痛な思いが伝わってくる。


死にたくない


その思いを吐き出すと玉は急に姿を薄くしていく。


子供にもう一度、逢いたかった。

けど子供が巻き込まれないで良かった。

神様、どうか私の子供が幸せな人生が送れるように力を貸してください。


しかし、消える寸前、玉はそんな思いを私に残した。最後に満足したように揺らぎ。

消えてしまった。


「今の()は、貴女が連れていった方の親ですね。」


私はくちびるを噛みしめる。多分そうだろう、と思っていたが。

息子神は言葉を続ける。


「貴女は気軽に時間を戻せばいい、そう言っていたと聞きましたが、魂に時間は関係ありません。時間を戻すという事はつらい思いをした魂に、また辛い思いをしなさい、そう言っているのです。……今度は子供と共に。」


考えて無かった。

元の世界に戻せば、それで済むって思っていた。これも私が世界に引き込んだからおかしくなった事象の一つ。時を戻すという事は、救った人を見捨てる事にもなる。二度も辛い思いをした魂は救われたはずの子供が自分と共に死ぬのをどう思うだろう。


「次は、わたしね。」


片手を挙げた女神は、その手を水鏡に浸した。

水鏡に細波がたち、ゆっくりと誰かが表れてくる。

黒い髪を肩に触れるぐらいの長さにしている、いたずらっ子な顔つきの女性が同じように黒い髪をした男性と共に歩いている。二人共に白い服……女性はドレス、男性はタキシード。嬉しそうに腕を絡めて。誰の式なのか、どちらも私には見覚えがない。不意にそれを辛そうに見ている男性が映った。黒髪黒目のその青年は太目の眉、しっかりした肩、引き締まった腰、長い脚。

体は違うが魂の色は私の”聖女(ツカサ)“の色だった。


(ツカサ)は従兄の結婚式に来ているみたいね。本当なら、これが未来の姿だったのよ。」


涙を我慢するように震えて二人をじっと見ている。


「……この時間帯では、彼は最後まで従兄に告白する事は無かったの。そして色々な邪魔をしてかえって二人の仲を深める手伝いをしてしまって、後は見ての通りよ。……(ツカサ)には悪いけど幸せそうね! (ツカサ)は泣きそうな顔だけどね。」


女神が言いながら水鏡から手を抜いた。

今なら私の“聖女(ツカサ)”は何の問題もなく従兄に告白出来るだろう。私は彼を魂も身体も”女の子“に変えたのだがら。そして、もしかしたら上手く纏まってくれるかもしれない。しかし、それは本来一緒になるはずだった女性を押し退けて、になるのだ。


「最後に私が現在(イマ)をお見せしますわ。」


最後の女神が水鏡に両手をかざすと、そこに年嵩の男女が四人、話し合っているのが映った。


「……貴女の“聖女”の両親と“聖女”の想い人の両親です。この方達は貴女がおこなってしまった(性転換)を話しあっています。どうやら話しは平行線のようですね。無理もありません、姿も、年齢も、全く違うのですから。」


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