確執だらけのメインパート10
俺と司は”いとこ“ではあるが、その一言で関係の全てを説明できる訳では無い。
俺の母さんの妹が司の母親だから”いとこ“。母さんと叔母さんは仲が良くて、歩いて通える位、直ぐ近くに住んでいる。いわゆる”ご近所さん“だ。当然、司は”生まれた時から知っている“だけではなく初めは哺乳瓶から後には離乳食を司の口に突っ込んだし、赤ん坊の司のおむつを取り替えていた事もあるから”家族“で”弟“でもある。司がある程度、成長してからは遊びやら勉強やらで一緒にいる事が多かったから”幼馴染み“と言っても良いかもしれない。
俺が引きこもりを止めれたのは司のおかげだし司が陰に日向に何も言わずに支えてくれたから大学にも入る事が出来た。人生のターニングポイントを無事に通過出来た”お礼をするべき相手“であり”いつか恩返しをする“相手でもあり。
俺は”いとこ“と言っているが司は”従弟が従妹に性転換した“複雑な”いとこ“だ。此ほど複雑な関係を”いとこ“の三文字で言える訳もない。
そして今、更に複雑になる関係が増えた。
司は俺が”好き“だと。”家族“では無く”家族以上“の存在として見ていた、と言ってくれた。しかし、俺は司と同じくらい大事にしたい女性が既に居て……断るしか無かった。司にとって俺は”小さい頃からの憧れ“で”いない間に彼女を作った“で”それを理由に断られた“、仲の良い”親戚“。こんな関係を何と言えばよいのだろうか。
俺はようやく、動けるようになった体に力を入れ立ち上がった。両足はプルプル震えてまるで生まれたての子馬のよう。司の渾身の一撃は「痛いなんてモノ」じゃなかった。まだ、内臓が浮いているような感じが残っている。
‐この痛みと司が受けた痛み、どちらがキツいんだろうな。
今まで泣いて逃げるっていう事をしていない司がそうしたくなるキツさは想像するしかないが。
グイっと口から垂れた汚れを上着の袖で拭き取ると結構近くでため息のような呆れた声のようなものが聞こえ、
「洗浄せよ《クリーン》。」
その違う言葉が重なって聞こえる言葉に振り向くと斑の髪を腰まで伸ばした女性がほっそりした指先で床の汚れ《吐瀉物》を指していた。”言葉“は汚れを白く泡立つ何かで包み込んで汚れと共に消えていく。
「清浄とせよ《クリア》。」
今度は俺に掌を向け、また二か国語放送を聞いているかのように”言葉“が響くと青白い光が照らした。肌が焼けているのかチリチリとした感覚があり服についていた汚れが消えていくのを口を半開きで見た。
「最近の本に倣って”生活魔法“って名付けたわ。こちらの世界では初めての利便魔法になるわね。」
黒髪に金と銀が混じっている彼女の瞳は左右で色が違っていて右目が輝くような赤、左目は透き通った青。肌の色は真っ白で所謂、先天性色素欠乏症を模したのだと思うが色々、盛りすぎではないだろうか。この人も司と同じでこちらの世界に引きずり連れ込まれた人だからこの派手な外見も自分でデザインしているはずだけど、もう少し大人しく出来なかったんだろうか?
「ジュンくんもそうだし。男の子って仕方無いわね。」
そんな事を考えていると女性はため息をつくような声で言い出した。
「……ちょっと待てって。何でそこで俺が出てくる訳?」
「あら。……聞こえたのね? ご免なさい。ジュンくんだけじゃなくって男の子全般って意味だったんだけど。」
椅子に座っていた細い癖に筋肉質な男性が立ち上がり文句をつけたが流され、唇を尖らせた。
‐俺と同じくらいで随分、子供っぽい奴だな。
俺はソイツをそう思って見ていたが
「ジュンくん? その顔、やめなさい。子供っぽいわ。」
やはり、そう思うよな?
「何だよ。」
「ふてくさらないの。子供じゃないんだから。」
「あー、あー、どーせ俺は子供だよっ。」
「……ジュンくん!」
「和子さんは何時もそうだ。俺、二十過ぎたんだぜ? 子供扱いするのもいい加減にしてくれよ。」
「ジュンくんッ!」
ふぅ~……。
強く呼んだ後ため息を小さく吐き独り言のように呟いた。
「そこが子供っぽいって言うのよ。」
しかし、想いが込もっていたのか、意外に声は響いた。
「……和子さん!」
「…………ァッ……ち、違うの。そうじゃなくって……。」
自分の声に驚いたように口元を押さえ動揺して後ろに下がり。男の子は女性に一歩、近寄る。勢いに押されてか女性は更に下がる。その繰り返しで”和子さん“は見る間に壁に押し付けられた。
「ジュンくん……。」
遂に背中が壁に当たった”和子さん“は観念したように身をすくめ、”和子さん“が逃げれないように”ジュン君“は片手を”和子さん“の顔脇に置き片手で長い髪を弄んで焦らしてから
「和子さん。俺、子供じゃないんだぜ。この間、成人式も済ませたんだし、もっと男扱いしてくれよ。」
「……! ジュン!?」
”ジュン君“は”和子さん“に顔を近づけ耳元で囁く。”和子さん“は”ジュン君“の言葉にか態度にか、顔を真っ赤にして悲鳴じみた声をあげた。
て、いうか……。
”この間の成人式“はどなたとですか? とか、お二人ともおつきあいされているんですね? お幸せに。とか、そもそも、”和子さん“がケンカ売ってましたよね? 犬も喰わないってヤツですか? ゴチソウサマです。
突っ込みたい所も言いたい事も有るのだが俺はいきなり始まった青春? 恋愛ドラマに口をパクつかせるのがやっとだった。自然、目は助けを求めて残りの二人を見る。
厳つい男性は、こんな状況下でも腕をくみ悠然としていた。もう一人の髪の幸が薄い中間管理職っぽい男性は苦笑を浮かべていたが俺の目線に気づくと軽く咳払いをした。
ハッとなって固まる”和子さん“と”ジュン君“。今にも口づけを交わそうとしていた二人は石像が無理矢理、動いているような動きでこちらを見ると磁石の同極同士でも、そうはならないだろう、という勢いで距離をとった。
暫く、何も言わずにいた”和子さん“だが身だしなみを整えると
「さっき、紹介されたけど改めて。蒼井和子よ。……初めまして。」
うわっ、無かった事にしたよ。この人。




