確執だらけのメインパート8
俺は”俺のした事“で司に謝りにきた筈だった。
司は俺を姿を見ないようにして
司は俺の声を聞かないようにして
司は俺を無関係な人と決め付けをして
司は俺の名前を呼ぶ権利も奪い取ろうとした。
その”初めて見る司“の態度に何かをしようとする気力が削がれ、黙って司を見返すだけの俺がここにいた。
‐俺は、こんなにも司を傷つけていたのか。
再会してから、まだ一週間にもならないうちに他人扱いしたくなるほど司が傷ついている事にも気づかず自分の日常を続けていた俺は一種の天才じゃなかろうか。自分のした事が形となり目の前に返ってきたのを感じつつ何を言えばいいのか分からなくなった俺は無言で静かに司を見ていた。
「……あたしは、どうでもいいんだけどね。」
七歌が呆れた顔で呟いた。
一見、司と俺が睨み合っているような、この部屋は十人近い人がいる割りには静かで、呟やきとはいえ七歌の声は全員に届く。
「ホント、どーでもいーのよ。」
「……七歌さん?」
七歌の言葉に司が不審げに眉をひそめた。
「あたしは、あんたが”司“でも”聖女“でも”ルソラ“でも、どうでもいいのよ。ただ、あんたが呼べって言うなら、その名前で呼ぶだけよ。」
七歌は呆れた顔のまま司を見て
「だから、これからは”ルソラ“って呼ぶわ。それでいいのよね?」
何処と無しに向けていた司の目が七歌に向けられた。しかし、七歌は止まらなかった。
「あたしにとって、”ルソラ“はもう一人の家族よ。勿論、直樹にとってもね。」
ピクっと司の肩が震えた。七歌が俺を見て目で何かの合図を出している。訳も分からないまま、七歌の言葉に頷く。
「ああ。俺も七歌と同じようにお前を家族だと思っている。俺の大事な、大事な、家族だと。」
ここは押し時だと考えた俺は大事な事を重ねて言った。
「……”ルソラ“。それでいいのよね? 直樹にとって、あんたは妹。あんたは、それで満足なのよね?」
七歌もしつこいほど確認をしている。
司は俯いて。
「…………ま、直樹には大学に入ってから、彼女が出来たから今更、遅いんだけどね。」
不意に七歌が変な事を言った。その言葉にザワっ! と応えた司達。
「昨日のお泊まりも、たぶんその彼女だし。」
「な、七歌?」
確かにその通りだが何故、今言ったし。
俯いていた司が、この部屋に来て初めて俺を見た。瞳孔が開いた目で俺を見ている。
「…………。オニイチャン?」
問いかける、感情のこもらない声に背筋を冷やしつつ逃げれない事を覚って
「や、お泊まりのどうのは兎も角として。あ~。……うん。まぁ、…………います。……苺って言うんだけど……機会があれば紹介するよ。」
ピィーンと張った部屋でなんでこんな事を言わなければならないのか。そうは思っていたが司の目が俺を捉えて離さない。嫌な汗が流れ出していた。
「ソウ、イチゴサンッテイウノ。」
ぞわっ! 司の言葉に妙な不安感と不信感が沸き起こった。これは司が時々、なっていた”容赦なしモード“。司を囲んでいた人達も然り気無く距離をとった。
「ああ。……良い奴だよ。俺には勿体ない奴だ。」
司がこうなったら下手に逃げたり嘘をついてはいけない。もし、してしまったら“暴走”モードに移行してしまう。
「司も会えばわかる。」
「………………。」
「司?」
司は黙って立ち上がり俺の前に来た。
「…………オニイチャンニトッテ、ボクハ、カゾクナンダネ。」
平坦な司の声に頷くと司の目から涙が溢れだしてきた。
「ケド、ボクハ。……僕は、家族に……なりたく…………なかった……。」
それ以上になりたかったの。
司の声にならなかった言葉が聞こえた気がした。




