確執だらけのメインパート7
俺が、ようやく立てるようになった頃、七歌も落ち着きを取り戻し冷たい声で問いかけてきた。
「これから司に会いに行くけど、あんたに聞いておかなきゃならない事あるのよね。……聞いていい?」
問いかけてはきたが俺の返事を待つ事なく七歌は続ける。
「さっきも聞いたけど、改めて……あんたにとって、司は、なんなの?」
俺にとっての司は。
なんなの? って聞かれても……考えた事が無かったからな……。
「…………司にとって、あんたは”お兄ちゃん“では無いわよ。……分かるわよね?」
俺が”お兄ちゃん“じゃない? 俺は、そこまで司を怒らせたのか。だが、俺は司を他人なんて思えない。
「……俺にとって司は”もう一人の家族“だ。司が”兄“と思っていなくても俺はそう思っている。」
俺と司の関係なんて考えた事が無かったが言葉は素直に出てきた。どんなに嫌われていても、やはり俺にとって司は家族で間違いが無い。
「……”家族“……か……。あんたにとって司は”家族“でしか無いわけね。」
やや経って七歌が目線を落として呟いた。
「司があんたにした事は……”家族“だからじゃないわ。けど、あんたは……”家族“として見ていた訳ね。……残念ね。ま、大学に行けば彼女いるしね。そんなものかもしれないけど。」
いつになく刺々しい七歌の言葉に違和感を感じつつ、取り敢えず頷いた。司がしてくれた事が”家族“の為にしていた訳じゃ無い、と言われ胸中は複雑だったが。七歌はそれを見て大きくため息をついた、と言うより何か溜めた物を吐き出すように息を吐いた。
「……司にとって”意味の無い事“になるんだろうけど。……行きましょ?」
俺と七歌は鏡を潜った。
鏡の向こうで司が待っている。
俺が臭い消しのシャワーを浴びている間に七歌は司と話し合い段取りをつけていてくれたらしい。全く七歌といい、司といい、俺の立場が無くなるぐらい働き者である。何でこれで彼氏彼女がいないのか? 不思議なくらいだ。
「……あんた、変な事、考えているんじゃないよね?」
そんな目を向けていたら七歌が不意に言った。目線を向けていないのに俺の行動は、”お見通し“らしい。
「いや、別に……なにも……。」
咳払いしつつ通路の先に目を向けると突き当たりに扉があった。七歌は鼻を鳴らして顎を向ける。
「あそこに司はいるわ。……どーぞ、お先に。」
俺は扉に手をかけ一度、動きを止めた。
ふぅ、と息を吐き気合いをつけて扉を開く。部屋は奥に長い四角い部屋で中央に長机、本来はそこに椅子が並ぶ筈だが今は奥にまとまっている。
司はその椅子がまとまっている場所に守られるように座っていた。当然まとまって置かれている椅子には座っている人達がいて年齢も性別も違う彼等は俺を見つめ……いや、睨んでいた。初めて会うはずなのに明確な敵意を持った視線が突き刺さるようだった。
「司、連れてきたわ。」
七歌が俺の後から出てきて奥でもなく入口でもない所に椅子を引きずって座った。
「ありがとうございます、七歌さん。」
今まで、どうしても違和感があった司の”聖女“としての姿が違和感なく目の前に存在していた。柔らかく微笑んでいるように見える顔は冷たく輝くようにも見え、七歌に頭を下げる動きすら厚い壁の向こうに見える他人染みた符号のような動き。違和感を感じない最大の理由は乱暴で子供の口調では無い事。”ナナカねぇちゃん“ではなく”七歌さん“。違和感を受けないのが違和感になって座っていた。
「七歌さん、先程はいなかった人もいますので、改めて紹介いたしますね。」
司は6人の老若男女を一人一人、手で示して紹介した。俺もその人達を見る。
司の話しでは、此方の世界に連れてこられたのは自分を含め7人。此方にいた百万軍を号する”魔王軍“を、たった7人でこの世界で5年という長い時間をかけ”魔王“を倒す事で霧散させた。最後は各国も軍を出し壮絶な戦争の中”魔王“を倒した、と言っていたが、そもそも7人だけでやるような事では無いはずだ。そのせいで俺達の世界で3年も司は行方不明になっていたのだ。おまけにゲームのキャラに変わってしまうなんて何と言っていいか分からない。髪の色も白、金、銀、ピンク、緑、青、斑……実にカラフルだ。
「皆さん、私の……従兄弟で妹の七歌さんと七歌さんのお兄さんです。二人には小さい頃から、いろいろ助けてもらっていました。」
「……俺は三階堂直樹です。」
「七歌さん、お兄さんを連れて来てくれてありがとうございます。お兄さんも、わざわざ来ていただきお礼申し上げます。七歌さんには先に相談させてもらったのですが“爵位”を受ける事にいたしました。ご足労いただいた所に、このような事となり実に申し訳ありません。」
「……いや、別に……。」
「これからは、此方の世界の事は此方で処理いたします。宜しければ私が向こうの世界に行く時は、これまでと同じく手助けをしていただけると嬉しいです。七歌さん、宜しくお願いいたします」
司は俺を見ずに七歌に話しかけるように話している。そのうえ、俺が何かを言いかけると被り気味に司が返してくる。今まで見たことの無い司の態度になにか言う気力が消えていく。
「……先程、私の事を”司“と呼んでいただきましたが神殿内では”聖女“と呼ばれております。ただ”聖女“は称号ですので此方ではどうぞ”ルソラ“とお呼びください。」
それはゲームのキャラの名前だろう?
俺は自分で思うより遥かに深く司を傷つけていたらしい。




