確執だらけのメインパート6
更新が遅れて申し訳ありません。
俺は妹の七歌に言われ臭い消しのシャワーを浴びていた。温水では無く冷水を浴びて頭を冷やしつつ、司と会ってからの自分を振り返る。
俺にとって司は我慢強い小学生の男の子だ。そして年下の守るべき存在で家族に言えない事も話せる無二の親友でもあった。俺が引きこもりから立ち直ってからも、なにかと面倒をみてくれて年上で高校生な尊厳は粉々になったが司がいてくれたから今、こうしていられるんだ、というのは間違い無い。
司に依存していた事に気づいたのは司が消えてから大学受験をする頃。無気力になり引きこもりになりつつあった俺を父さんが殴り飛ばした時だった。
「司くんがいないと、こんな程度なのか。」
父さんの言葉に言い返せなかった俺は司に依存する事を止めた筈だった。
さて、この数日の俺と司を見てみよう。
司が俺の部屋に入ってきた時、司とは思わなかった。司は姿も年齢も性別も違っていたのだから納得する迄、長かったのは当然だろう。むしろ司本人だと分かった事は褒められていいはずだ。だが「次は俺の番だ」と決めていた俺が”大神官“がどうの、”貴族“がこうの、で七歌に任せて相談事から逃げたのは駄目だろう。更に一晩中、待たせたあげく遊んで帰って来た。
司が怒る訳である。
冷水で頭も冷やし、落ち着いて考えると、どうも俺は司が帰ってきた事で”浮かれていた“のだと思う。だから子供が親に我儘を言うように俺は司に我儘したのだと……思う。
‐あぁうおわぁ-~。
そこまで考え俺は崩れ落ちた。顔を両手で隠して当然、足は揃えて横座りだ。指の間から脛毛だらけの自分の足が見えたが、それより自分の余りの情けない行動に顔が赤くなった。
‐つまり、俺って年下で未成年の司に駄々こねて泣かせたのかよ。
今、ようやく分かる己の所業。
そのまま項垂れて、どのくらいシャワーを浴びていただろう、浴室の向こうに人の気配がして
「あんた、何時まで入ってるのよ。女の子かっ。」
七歌の声に俺は慌てて横座りを止めた。
俺は鏡の前で向こうの様子を見ながら悩んでいた。鏡の向こうには白い石で作られた部屋が見えていて壁にある燭台の光が明るく照らしていた。ただ燭台には蝋燭のようなものがある訳では無く光る何かが、ふわふわと浮かんでいた。
向こうに行きづらい俺は偶然、司が部屋に入ってくるのを期待して覗いていたのだが、そんな偶然がある訳が無い。
「何してんのよ。さっさと行きなさいよ。」
後で背中を押しながら七歌が苛々と言う。俺は窓の縁に手を当て抵抗しながら
「ちょっと待て。まてまてまて、今、行くから、ちょっと待て。」
往生際悪く言った俺に背中を叩いた七歌は小声で文句を呟き
「あんた、いい加減にしなさいよね。……いい? 司は泣いていたんだからね。あんたに嫌われたって思い込んで泣いていたのよ。……分かる? 分かってる? あんた、司に安心させてあげようって思わないの?」
七歌の言葉は突き刺さるようだった。確かに俺は「大キライ」と司に初めて言われたが、それが本音では無いのはあんなに動揺していたのだから分かっている。
「嫌われたって。……馬鹿だな司は。アイツが俺を嫌う事があっても俺がアイツを嫌う事がある訳が無いのにな。」
独り言のつもりだった。頭の中で考えていた事が口から溢れ落ちた、そんな意識していない言葉だった。だが七歌は俺の言葉に
「オイ! いい加減にしろっつたろ? てめぇが、それを言うかぁ? あぁ?」
七歌は俺の胸ぐらを掴んで振り向かせると下腹部に膝蹴りをいれた。俺は情けない声をあげて前屈みに崩れ落ちた。
「………司がどんな気持ちなのか、考えた事ある? ……あんたにとって司はなんなの? ”次は俺が助ける番だ“? 口先だけじゃない! あんた、司を何だと思っているのよ。司はあんたの奴隷じゃ無いのよ。」
七歌は俺が下腹部を抑えて蹲っている間、自分に暗示をかけるように「落ち着け。あたしは冷静。大丈夫、あたしは冷静。」と繰り返し呟いていた。
「…………七歌。……俺が悪いのは自覚した。けど、出来ればここだけは止めて欲しい。」
俺の”お願い“の声は七歌に届いただろうか……?




