確執だらけのメインパート5~妹は大変~
あたしは、ため息をつく。
我が兄ながら、何やってるんだか。
あたしの兄は高校の時、引きこもりになった事がある。あたし達が何もできなかった、その時まだ男だった司が兄を連れ出してくれた。兄は今でも司に恩を感じているみたいだ。
司は長い間、行方が分からなくなっていたが、ついこの間、戻って来た。……金髪碧眼白い肌が眩しい女になって。そこに、かつての司の面影は全く無いのに、体の動かし方、言葉の話し方、兄のいぢり方に司の影を見た。なにより兄がこの女を司と認めたのだから司で間違い無いのだろう。
そんな兄と司だが見ていて苛つく程ギクシャクとしたやりとりをしている。司は会えなかった時間を取り戻したいのか、やけに攻めている。そんな司に引いているのが兄。兄にしてみれば司は男なのだから当たり前かもしれない。男だった司の距離感と女になった司の距離感の違いに戸惑っているように見える。
ただねぇ。だからといってアレは無いだろう。
司が相談事を持ってきた時、逃げたのは、どうかと思う。あたしだって“貴族”とか“爵位”とか言われても、なんかキナ臭い話しをされても、対応に困るけど……走って逃げていく兄を見る司の悲しそうな顔を見たあたしは何を言ってやれば良いと思う?
それでも司は我慢したのに。
兄は司を一晩、ほったらかし…………。
帰って来たのは朝、体調が回復した、あたしが学校に向かう時間。
酒臭くて煙草臭くて。
……最低なのが女臭いっていう事。
呆れたあたしは、あえて司が部屋にいる事を教えなかった。
玄関口にいると案の定、司の叫び声が。
‐少しは反省すると良いのよ。
……そう思っていた時がありました。
あたしの兄は部屋のベットで着替えもしないまま高鼾をかいていました。
学校が終わって、心配になったあたしは帰ってきて兄の部屋に直行して。
そんな兄を見て。
疲れが数倍になった気がした。
あんたは何をしてんのよ……。
苛立ちの余り鳩尾に足を落とす。
兄は呻いた。
もう一度、今度は膝を落とす。
兄は呻きながら起き上がった。けど、まだ目付きがアヤシイ。
三度目は腰をひねって鞭のようにしなった一撃を叩き込む。
さすが、あたし。蛸八足と言われた蹴撃は今だ衰えていない。兄は口を押さえ部屋を飛び出した。
戻ってきた兄は酒が抜けたのかさっきよりは、ましな顔になっていたが司に会いに行くには臭いが酷い。その女臭いの何とかしないと司に会っても話しなんか出来ないわよ。適当に理由をつけるとシャワーを浴びさせる。
あたしはその間に司に会っておかなくちゃ。兎に角、話しをしないと拗れそうだし。兄に任せたら更に拗れそうだし。
あたしは、ため息をつく。
我が兄ながら何をやってるんだか。
仕方がない。ここは妹のあたしが何とかして見せましょう。
けど、今回だけだからね?
次は無いからね?
今回は司が可哀想だし。
あたし、あの人、嫌いだし。
あんたがあんまり情けないから助けるだけだからね?
何時も何時でも助ける訳じゃ無いからね?
兄よ。今回の見返りは期待しているよ。
まったく、もう。




