エピソード2~番外編 誰かの独り言2~
ふおぉぉぉーっ!
違うのっちがうのっちがうのーっ
外から見えないわたしの部屋に戻って来たわたしは憤りを抑える事が出来ず、取り合えず前転してみた。長いスカートの内側が見えるようなはしたない姿だが、ここには、わたししかいない。
前転前転前転前転力の限り前転。
部屋の壁に頭を打ち付けて痛さの余り後転に変更。
後転後転後転方向を変えて後転ゴロゴロゴロゴロ。
飽きたわたしはうつ向きに寝そべり両手両足で床をドンドン。
凄い姿になっているって分かっているけどわたしの世界だもの関係ない。
違うのーっ!わたしの担当している世界を救った人達が辛い目にあっているのが嫌だったのー。
頭の中は最高神への愚痴で一杯だ。
ジタバタするのも疲れて仰向けになった。
あの時、最高神はわたしが来たのを知ると椅子を降りて近づき
「時間、大いなる力にして流れ去るもの。太古より繋がる時間を留める、戻す、は簡単な事ではない。」
深い静かな目でわたしを見た。その目に声も出ないくらい体がすくんでしまう。
「時間逆行は、間違いを正す為にするべきものではない。」
最高神は背を向け顔だけを、こちらに向けたまま、
「そなたには、するべき事が有ろう。」
全部で三言、残してわたしの言葉を待たず立ち去って行き。
わたしは何も聞いてくれない事に唖然として次に涙が出てきた。
わたしの”するべき事“は、あの人達を辛さから救ってあげる事じゃないの?
泣きながら戻って来たわたしは、落ち着いてくるにしたがい、フツフツと怒りが湧いてきた。
わたしが折角、勇気を振り絞って会いに行ったのに、あれで終わりなんて酷くない? 半端な気持ちじゃないんだからもっと話しを聞いてくれてもいいのに。会話をしようとしてないよね。帰る時も背中で語るみたいな感じでさ。格好いいなんて思ってんのかねっ。
部屋で最高神への愚痴を言い続けると頭も冷えてきた。そうなると自分への攻撃が始まってしまう。
この部屋から出て行く時、なんて言っていた? 最高神に掛け合ってくる? 一方的に言われて終わりましたが何か。話しをする処か声すら出せませんデシタ! 掛け合う? こんなんで何を掛け合うのよ。頭の中、入ってますかーっ!
そして”救われない人達“の事を想ってしまう。あの人達には、感謝なんて言葉じゃ足りないくらい感謝している。その人達を、わたしは、ずっと放ってしまっていた。彼らはわたしの事を恨んでいるだろう。わたしはそんなつもりじゃ無かったのだが最高神の助けがなければどうしてやる事も出来無い。時間を戻せれば手っ取り早いのだが……最高神はやらないと断言した。わたしでは試すまでも無い。けど、他に方法が見つからない。何をしてやればいいか分からず、会いに行くのも憚られ放ってしまう。放っておかれた彼らは、わたしを恨むだろう。わたしはそんなつもりじゃないのに!
考えが繰り返し始めたのを感じつつ手足を、またバタバタした。
違うのーっ! ちっがうーっ! わたし、間違いを無くするつもりなーい。わたしは助けたいだけなのー!
最高神のいけずーっ!
叫んでも空しいだけ。
ふっ、と気づき慌てて状態の確認をした。今、聞き捨てならないインフォメーションがあっ……た。
『状態変化 称号変更 神位変位』
管理神からの連絡。神位変位の言葉に顔面蒼白になる。神位なんて、そうそう変わるものではないのに、何があったの……。
『状態変化 世界創造神資格停止』
『称号変更 幸運と繋がりを司る女神 から 絶望振り撒くもの』
『神位変位 世界創造神 から 下級 担当 限定 補佐』
管理神の感情のこもらない声は、いつも嫌いだった。今日からはより一層、嫌いになれそう、で……エ、エヘヘヘヘ…………わたし……………”女神“じゃなくなった! 下級担当限定補佐ってようは大地の精とか空気の精とかの、あれ、なのよ。
身体中から力が抜けていく。比喩的な事では無く長い間、頑張って修行した努力の結果が失われていくのが分かる。
わたしは床に這いつくばり崩れて行く世界を見ていた。
ダメっこのままじゃ、あの人達まで世界の崩壊に巻き込まれちゃう!




