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いとこは聖女様。  作者: 空気鍋
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長めのプロローグ16

打ち込み途中で投稿してしまいました。

申し訳ありません。

俺と妹の七歌は家から裸足で出ていった司を追いかけていた。

司は俺の父さんに叔父さんと叔母さん、つまり自分の家族が、あの日からどうなったを聞き。

耐えきれず逃げたのだ。

しかし、当たり前だろう。司は異世界ここではない どこかで仲間とは言え、知らない人達と共に、魔王という存在(ファンタジーな敵)と戦ってきたのだから。おまけに姿・形・性別も変わってしまって一目では司と分からない。俺にしたって金髪の美少女が司とは信じられなかった。断言はしたものの本当は、まだ疑っている所は有る。

司も気づいているだろう。それを気づいていないふりをするのは凄い精神的圧迫ストレスのはずだ。そして父さんと話してついに爆発してしまったんだろう。

出ていく司の泣く事も出来ないで引きつった悲痛な顔を思いだしため息をついた。


「ちょっと、あんた、バカップルの兄の方(ツカサ検定一級)。」


うろんな顔つきで七歌が変な事を言い出した。バカップルって男女が付き合っている時に使うんじゃないか?俺も司も男同士だぞ。


「ため息なんてついて、司の居場所、分かっているんでしょうね?今更、分からないなんて言おうものなら……。」


七歌が指をポキポキ鳴らしながら近寄ってくる。

男は正直、七歌が司の行き先が分からない事を驚いていた。

七歌は司を本当に弟のように可愛がっていた。だから、行き先も気づいているだろうと思っていたのだ。


「意外だよ。…七歌。お前だったら、こんな時どこに行く?帰りたくても帰れない、漸く帰って来たら帰る場所が無くなっているって聞いたら、お前なら、どうする?」


そういえば七歌は俺の横で付いて来ているだけだったな。七歌なら知っていれば先に行って「遅い!」って怒鳴るはずだしな。


「司は“自分の家”に行っているんだよ。叔父さんと叔母さんに会って“ただいま”する為に。」


自分の居場所を確認する為に、な。


「……司。…あんた、何してんのよ。急ぎなさいよ。」


七歌はかつて司の家が有ったマンションの方を見て、いきなり走りだした。俺はふぅ、と息をつき裸足の司が影で踞っていないか見ながら追いかけ、ちょっと考える。

マンションにどうやって入ろう。



「いい加減にしてください!」


女性の怒鳴り声と共にドアの閉まる音が響いた。

マンションにたどり着いてエレベーターに乗り、降りてすぐ聞こえたのがそんな声だった。


「司!」


七歌が司に駆け寄る。司は茫然とドアを見ていたが突然へたりこんだ。


「…ここ、僕の家なのに。…お父さん、まだローンあるって言ってたのに。」


目は家の入り口から動かさずに囁くように


「きっと、冗談なんだよね。お父さん、そーゆーの好きだし。」


今にもドアの向こうから出てきてくれる、そんな顔つきをして、しかし諦めた目でドアを見ていた司は徐々に項垂れていく。


「冗談、だよね。…嘘、だよ…ね。……こんなのって、無い…よね…?」

「司…。」


信じたくない。けど、自分で見てしまった。

このマンションの、この場所、帰るべき家には、知らない人達が住んでいる。

そこに自分の居場所は無い。

司は理解してしまった。“叔父さん(俺のオヤジ)の嘘”にしたかった自分の幻想と“嘘”ではなかった現実。向かい合う事から逃げた自分。待っていてくれなかった家族と間に合わなかった自分。

そんな泣く事も出来ず、能面のようになった顔をした司に言うべき事がみつからず黙ってしまう七歌。


「取り合えずマンション(ここ)から出よう。近くの公園で少し休んでから、俺達の家に戻ろう。」


司は頷き立とうとしたが、身体に力が入らない様子で立ち上がりかけてはペシャっと潰れた。

俺は司の右側に立ち司を支える。

何も言わなくても七歌は左側から支えていた。

‐俺はここにいるよ。大丈夫だ、司の隣に俺は立つよ。

言葉は必要ない。司は弟ならば俺と七歌は兄であり姉。ならツカサが倒れそうであれば隣で支えるくらいするのが当たり前。

俺達はマンションから近い公園である中央東公園に移り、力無くもたれかかる司に父さんが伝えなかった話しをした。

叔母さんは今も司を探している事。

叔父さんはマンションを買い直す為に仕事に打ち込んでいる事。

決して諦めた訳じゃない事。


「それに司の居場所が無い訳じゃない。ここには俺がいる。俺が司の居場所になってやる。」


俺は司の青く変わってしまった目を見て言った。司は目を見開きそして。

此方に戻って来て、初めて泣き出した。


「おかえり、司。戻って来てくれて、うれしいよ。」

「………お兄ちゃん。」


司の俺を掴む手に力が籠った。顔を上げて更に近づいてくる。


「…お兄ちゃん……。」


司の吐く息が熱い。

顔は赤く涙が零れた目は潤んで。

俺を視線で縛り付け、司はゆっくりと近づいてきた。


「そーねー。あたしも司が帰ってきて嬉しいわー。」


唐突に棒読みな七歌の声がして司の頭に七歌の手が乗る。そのまま司の顔は遠ざかっていった。何となく複雑な気持ちを持ちながら七歌を見ると能面のような無表情な顔になっていた。


「…ナナカ……ねーちゃん…。」


司の怨嗟えんさに満ちた低い声。


「…ちっとは空気、読めよ!」

「うるさいわね。読んだから邪魔したのよ。」

「っ!いっつも邪魔ばかりして。こんな時ぐらい、いいじゃん。」

「何時も邪魔しなきゃならないような事をしたのは司でしょ。どんな時でも無しよ。」


こんな時は止めようとしても無駄だ。黙って終わるのを待つしかない。

しかし。だけど。そして。

口撃打ち合う(じゃれあい)する二人を見て実感した。

‐やっと、司が帰ってきた。


10分も続いたのか、言い合いは七歌が司に抱きつき


「戻って来てありがとう。もう、なにも言わないでいなくなったら駄目よ。」


その言葉で終わりになった。司は七歌の甘えたような態度に驚いて


「う、うん。」


なんて答えているが。

俺には七歌がペロッと舌をだしたのがみえた。どうやら今回は七歌の勝ちらしい。


「叔母さん達にも説明しなきゃ。…納得してもらえるか分からないけど。その間ならあたし達の家も司の家にして良いわよ。」


明るい声で七歌が言った。司が俺を見たので軽く頷く。司はまた、泣き出した。それを七歌が慰める。

俺達は何時もこんな感じだった。

司は強気な癖に泣き虫で。

七歌は嫌がる癖に構いたがり。

俺は黙って見ていて、行き過ぎたら止めて。黙って見ていたら責められて。止めても二人がかりで責められて。無視したら親も入って責められて。

あれ、俺って……がんばれ、俺…。

理不尽な”何時も“に肩を落とした。


「あんた。何、落ち込んでるのよ。帰るわよ。」


司は涙を袖口で拭き取りながら自分で立っていて七歌が司を庇うように立っている。

もう、大丈夫なのか?

七歌に目線で問いかけた。

大丈夫よ。

頷いた七歌に頷き返して司を呼び寄せた。


「じゃあ、帰ろうか。俺達の家に。」

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