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いとこは聖女様。  作者: 空気鍋
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戸惑いと裏切りと21

 僕は、ざわめく大衆食堂みたいな喫茶店で偶然にも出会った、苺さんと向かい合っていた。

 苺さんは、お兄ちゃんの彼女で、僕が”女神“に拐われた後、お兄ちゃんを支えていてくれてたって聞いている。僕がこっちの世界に帰って来た時に、付き合いを始めてから3年くらいになる人だってお兄ちゃんに教えられた。

 僕からしたら、いない間にお兄ちゃんを盗られたって感じなんだけど、目の前で「奪ってやる」宣言しても「やれるならどうぞ」って軽くいなす、すごい人で邪魔な筈の僕を(けな)したり遠くに追いやったりしない。そう、僕が昔やったみたいに、お兄ちゃんを“独り”にして辛い思いをさせるような事はしないんだ。実はそれだけでも「お兄ちゃんといても(仲を認めてる)いい」って思ってた。もし、僕が今もまだ、男だったら「お兄ちゃん」を任せて身を引くくらいはしていただろうなって苺さんを見ていると考えてしまう。

 僕は、お兄ちゃんを“幸せ”にするって決めたんだ。その為には僕が傍に居れなくなっても、いい。


「貴女の“お兄さん”は、こちらの世界にいる意味はあるのですか?」


 僕は、その言葉を忘れられない。

 お兄ちゃんをこの世界に呼んだのは僕だ。僕が、神殿の高司祭や大神官に騙されて神殿に囚われたから、赤谷や蒼井さんが僕を助けるために王家の無理難題をこなさなくてはならなくなって、荒れ果てた領地をどうにかする知恵を求めた時、僕がお兄ちゃんを推薦したんだ。

 赤谷や蒼井さん達は、元の世界に戻っても家族に本人って信じて貰えなかったから、こっちの世界に帰って来た人たちで、その意味でも押し付けられた荒れ地をどうにかしないと、こっちの世界でも居場所が無くなる。それなのに僕は、みんなの事を考えない、自分の事を優先した想いだけで、お兄ちゃんをこっちの世界に引き込んでいた。お兄ちゃんに言った「みんなの為に領地を豊かにする」なんて、ただの理由つけだったんだってカッコつけの(公爵家の)腹黒野郎(嫡男)に言われるまで自分でも気づいていなかった。

 だから、これはその罰だと思うんだよ。

 お兄ちゃんを“幸せ”にしたい僕が、お兄ちゃんに“不幸せ”を運ぶような真似をしちゃった罰。昔したみたいに、お兄ちゃんを独りにしちゃうような事をした僕が、お兄ちゃんと一緒に歩くような事、出来るはずがないじゃないか。

 僕は苺さんをジッと見てみる。

 僕が“幸せ”に出来なかった、お兄ちゃんを“幸せ”にしてくれるだろう人。苺さんみたいな人なら、お兄ちゃんを支えて一緒に歩いていけるんだって僕は思うんだ。

 僕が見るかぎり何時も隙の無い服装だったのに、今日に限ってちょっとした風でもなびくワンピースに七分丈のブラウスって隙の大きい服装で、困ったようにしている苺さんは、僕とはまったくの逆のタイプなのに今さら気づいた。

 僕の今の身体は、お兄ちゃんが高校生の頃に、ただのゲームだと思ってた実は“女神”の罠だったアナザーワンってゲームで、背の低くて胸の大きいキャラデザインをしたアバターを成長させた身体だ。もともとが“背の低い”と“胸の大きさ”に特化したデザインだったから、僕の時間で5年経っていてもたいして背も延びてないし胸はもいで捨てたくなるような重りになったけど、苺さんは、スラリと背の高いシルエットの綺麗なモデル体型だったりする。そして、お兄ちゃんは苺さんを彼女って僕に紹介してきたんだから、お兄ちゃんの好みの(ひと)は、高校生の頃とは違うって僕にも分かっていた。

 それでも僕は、無駄になるかもしれない、けど諦めきれないって気持ちで、今まで邪魔したりこっちの世界に居場所を造ったりしたんだけど。

 もう、終わり……だね。

 お兄ちゃんは、僕のアピールを“柳に風”と受け流して、そうしている内に蒼井さんが見つけてきた「僕を(ないがし)ろにしない契約結婚を求める貴族」に捕まってしまったんだ。


「考えようによっては、その方が良いのかもしれないけどね?」


 自分で納得はしてない、でも僕がお兄ちゃんを“幸せ”にするより苺さんの方が“幸せ”にしてくれるんだろうなって気持ちが、僕に一人言を言わせた。

 僕はお兄ちゃんを“幸せ”にする。それだけは間違えない。

 そうやって考えれば、お兄ちゃんが水洗トイレもない世界で、泥だらけ汗だらけで田んぼを作ったり、まだ大学生のお兄ちゃんが、人の揚げ足取りに命をかけるような老獪な貴族たち相手に立ち回って、銃剣持たない平和な世界から「闇に囚われし小人(ゴブリン)」みたいに人を襲う魔物がいる世界に、お兄ちゃんを連れてきたのが間違いだってよくわかるんだよね。なら、お兄ちゃんは本来居るべき世界で彼女の苺さんと一緒に暮らすのが“幸せ”じゃないか。

 そんな風に考えた僕が、下らないけど(お兄さんの家族)無視できない(に不幸が起こらな)脅しの言葉(いと良いですね)を吐いた公爵家の嫡男との契約結婚を受け入れるのは当然だった。

 そして僕は、出会ってから困ったように曖昧な笑みを浮かべる苺さんに


「お兄ちゃ……お従兄(にい)さんをよろしくお願いします。」


 もう、手出しはしない。そう宣言したんだ。

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