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いとこは聖女様。  作者: 空気鍋
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戸惑いと裏切りと19

 僕は、七歌姉さんに色々言われてどうかしていたのかもしれない。

 七歌姉さんが、アレクとのケッコン理由を聞いていたのに、僕は。


「だって僕は、男なんだよ。」


 って言っちゃたんだから。

 僕は、小学校の高学年もうすぐ中学校になるって頃に“女神”が現れてゲームだと思っていた世界へ連れられてしまった。その時の僕は確かに男だったんだ。けど、ゲームの世界が現実になった世界では、僕もゲームで使っていた女の子のアバターになっていて、それから異世界で“魔王”を倒すまで5年近く“女の子”をしていた。

 向こうで5年だけど、こっちの世界では3年しか経っていない事が判ってから、年齢も合わなくて性別も違う僕をお兄ちゃんは解ってくれるのか心配していたんだけど、お兄ちゃんは滑稽無糖(荒唐無稽)な話を信じてくれて、僕を受け入れてくれたんだ。

 他の仲間は家族にも友達にも判って貰えなくて、せっかく帰れた場所から逃げるように戻って来ていた中で、僕だけはお兄ちゃんに信じてもらえたって、それだけでどんなに嬉しかったことか。

 それなのに、お兄ちゃんには僕がいない間に彼女()さんが居て、二人(ふたり)で分かり合ったみたいにしていて、僕は居なくてもいい人になっていたんだ。

 苛立ちもしたし、悲しかったし、お兄ちゃんに振り向いて欲しくて馬鹿な事も口にしたりしたけど、お兄ちゃんは苺さんを大事にしていて、苺さんはお兄ちゃんを守るように支えているのが判っちゃってからは、どうしたら良いのか、僕は迷うようになっていた。

 そんな僕が自分の事を考えた時に、つい思ったのが“僕は男”だったんだ。何年も“女の子”していたけど、僕は男なんだから邪魔するのは違うのかも知れないって思う様になってきていたのは、自分でも自覚している。

 もし元男の僕のせいで、お兄ちゃんが“幸せ”になれないなら、僕はお兄ちゃんの傍にいる意味は無いんだ。それなら僕はお兄ちゃんから離れても、お兄ちゃんが“幸せ”になれるなら、その方が良いじゃないか。

 そんな気持ちを一言(ひとこと)で言った僕に、七歌姉さんは呆れたって顔で見つめ返していた。


「まあ、言いたいことは山盛りよ。」


 ……ハァ……。

 疲れたわぁ。

 やけに不満げに言った七歌姉さんは


「とにかく! 司は、アニキとちゃんと話すこと。良い? 結婚とかの話はその後よ! わかった?」


 ちょうど良く電車は大学前駅に着いて、ここからは歩いて10分くらいで大学に着くみたい。七歌姉さんは、大学に着いてからの心得って言うか、お兄ちゃんと会ってからの話題や話し方についてレクチャーしてくれたけど、僕は大学を見上げて


「ここが、おに……いとこのおにいさんとかのじょの苺さんが通う大学なんだね。」


 何時もお兄ちゃんって呼んでいたから、なんて呼べば良いか詰まって棒口調で言ってしまう。そんな僕に


「まったく。」


 と呟いた七歌姉さんは、


「とりあえず、アニキを探してくるから、あそこのオープンカフェもどきで待ってなさい。」


 僕も一緒に行こうとしたんだけど


「アンタみたいにロリ巨乳(男の願望)連れて歩いたらいつまでたっても探せないのは、駅からここに来るまでの道でよぉーく分かったわ。」


 七歌姉さんの言葉に何も言い返せなかった。

 実際、大学の生徒って言えばいいのかな? 歩いて10分の距離なのに群がる男子大学生のせいで3倍の時間はかかっている。しかも、その大学生の視線は(はか)ったようにみんな同じで、胸、顔、腰、脚、また胸って舐めるように動いて気持ち悪かった。

 判るんだよ、顔は動かさないで目が上から下に動いて、また上にきて、顔じゃない地点で留まるってばれない訳ないじゃないか。だんだん目が血走ってきて興奮したみたいに鼻息荒くなったり、口調がキツくなったり、強引にきたり、冗談に紛れて触ろうとしてくるし、変に近づいてくるし。下手に誤魔化そうとするから余計に怪しい動きしてんだよね。

 七歌姉さんは、気持ち悪さのあまりに何も言えなくなった僕の代わりに群がる男子を蹴散らしてくれたんだけど、流石に30分もやっていれば疲れたみたいで黙って座っていろって事らしい。


「ごめん、七歌姉さん(ねーちゃん)。」


 つい、何時もの呼び方をしてしまうと、驚いた顔の七歌姉さんが嬉しそうに片手を上げて了承の合図をして大学の校舎に入っていく。僕はその背中を見送ってからオープンカフェと言うには中途半端な喫茶店に入った。

 人の入りが3割くらいの喫茶店の中は、大学の構内に有るにしては雰囲気のあるお店で、だけど客層は大盛カレーをバクバク食べる学生やバケツみたいな器に入ったラーメンをすする学生や何人前分か判らない巨大な皿に盛られたパスタをパクパクしている学生とか。とにかく山盛りになった食べ物をおしゃべりしながら食べているような”残念“な学生が多くて、お店の雰囲気にまったく合ってない。


「なんか、ここってスィーツが充実していそうな雰囲気なんだけど。」


 入り口に有った食券売場。自販機になっている食券売り機には、親子丼、牛丼、豚丼、鶏丼、海鮮丼、玉子丼、ラーメン、カレー、ソバ定食、ウドン定食。

 どんぶり物がメインみたいだ。飲み物もコーヒー、ウーロン茶、ココア。なんか種類が少なくて喫茶店らしくない。それにスィーツの類いは無かった。なんとなくショックを受けながら、唯一甘いココアの食券を買って厨房に出すと、大盛かどうか聞かれた。

 いや、ココアの大盛ってなんだよ?

 聞いたら小盛りがマグカップで普通盛りがどんぶり、大盛はラーメン用の器に淹れるんだって。そんなに飲めないからって小盛りでお願いしたら


「嬢ちゃんみたいな客ばかりならなぁ。」


 って大食い大会しているみたいなお客を見て、料理をしている人がため息をついていた。

 ココア片手に席に着いたら、ちょっと離れた場所で山盛りパスタを食べていた女の人が、


「こっちー。」


 って手を上げて誰かを呼んだ。自然、僕の目は入り口に動いて


「苺さん?」

「……司さん……。」


 僕が苺さんを見つけたのと同時に苺さんも僕を見つけていた。

滑稽無糖「こっけいむとう」じゃなくて荒唐無稽「こうとうむけい」の事です。

間違えて覚えているだけです。

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