長めのプロローグ1 3
俺は両手と両膝を床につけ項垂れている。
したくてしている訳じゃない。
ただ、立つ気力が無いだけだ。
俺は年下の女の子に嵌められ家族の前で自分の性癖を暴露したのだ。しかし、女の子を復讐にかりたてたのは、過去の俺が原因だった。過去の俺が“司”のゲームキャラを取り上げネカマをやらせて周りの反応を楽しんでいた事が全てであり…。
俺の自業自得だった。
俺の前に昔の俺がいたら首根っこをつかんで振り回してどぶに叩き落としてやるのに。それだけじゃ足りん。こ・の・う・ら・み・どうはらす・べ・き・か。
それにしても、この嫌らしいやり方“司“がいるみたいだ。もう俺には”女の子“が”男の子の司“にしか思えない。
それくらい衝撃的だったんだよ…。
床に崩れこんだまま動けない俺の頭を誰かが撫でた。顔をあげると“女の子”が優しく撫でている。
プスー。ねぇ、今、どんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち?
しゃがんで俺の頭を撫でる”女の子“は。
勝ち誇った顔で。
語りかけて。
俺の中で何かが燃え上がった。
雪辱は果たす。
いきなり立ち上がった俺を驚いた顔の“女の子”がしゃがんだまま、見上げた。
俺は負けない。負けられない。
「あー。あんたの本棚の裏にある薄い本。顔つきが子供っぼいのばっかよねー。」
「ベットとマットの間の本は可愛い服、着た子よ。」
「直樹。父さん、トイレに、あんなふくよかな胸の女の子の写真集を隠すのは感心しないぞ。」
かの詩人は言った。
神は死んだ。と
俺は再び崩れ落ち床に蹲った。
「凄いや、お兄ちゃん。みんな、お兄ちゃんの秘密、知ってるよ。僕、言うこと無くなったよ。」
もう、何も言わないでくれ。
虚ろに見上げた俺に輝く笑顔が降り注ぐ。
公開処刑終了。
しゃがんだままの”女の子“の笑顔に俺は項垂れた。
……俺、もう、泣いていいかな。
あ、……黒だ。
「…直樹は、この子が司くんで間違い無い、と思うんだね。」
父さんが、仕切り直した居間で問いかけてきた。俺はその言葉に頷く。
「このキャラを作った時の事はアイツ…司しか知らない。受け方、話し方も司と同じだ。俺はこの子は司にしか見えない。」
「お兄ちゃん…。」
俺がはっきり返すと司は目を潤ませて感極まった顔を向けてきた。
「あたしと同じで最初、信じてなかったけどね。」
何故か不機嫌な七歌の言葉にそう言えば、とジトっとした目になる司。
「それでは、司くん。君に何が有ったのかは分かった。次は、君がいない間の話をしよう。」
父さんは冷たくさえ聞こえる声で言った。司は軽く下唇をかみ、頷く。
「はい。お願いします。」
司は、今、覚悟を決めた、と自分では思ったろう。だが、覚悟を決めた、と思える程度の覚悟では、この先の話はついてこれない。
俺は七歌に目で合図を送った。
俺達で司を守るぞ。
七歌も頷いた。
当たり前よ。
そうして、司を心配そうに見る。
俺も司を見た。たぶん、七歌と同じ顔をしているだろう。
司は父さんの話を最後まで聞けるのだろうか。




