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いとこは聖女様。  作者: 空気鍋
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戸惑いと裏切りと7

 貴族で公爵で。

 顔立ちも良く頼りがいがある。

 少し子供っぽい所もあって照れたように笑えばポヤーッと見つめる女性達。

 クリストル家のアレクサンドという王家よりのメッセンジャーを連れて“勇者”赤谷の領地で元の荒れ果てた、現水田になった土地や京都や札幌を基にした街並みを案内しながら俺はため息をつくことになった。

 領地では、王都にいた行く先の無い避難民を全て集め領民としていただけに服とも呼べない布切れで身体を覆っている人がほとんどだったが、とりあえず向こうで買った運動着を配る事で統一感のある光景が広がっている。

 それを視察に来たアレクが大仰な仕草で褒めて、街中で唄うように喜びを告げると、驚いた女性達はこっちを、正確にはアレクを見て顔を赤らめうつ向くのだった。


ーこれが本当のイケメン(ちから)ってやつか。


 それは俺の知らない世界の片鱗だった。

 何かを見る度、知る度、()()だから昼間になる今になっても、大した案内は出来ていない。いい加減ウンザリなんだが実は公爵家と仲良くしておくと後々で上手く行きそうな感じがして邪険にはできず大人しく付き合っている。

 まあ俺も大学で実習中に、大学に出資している企業の偉い人や地方では有名な政治家が同じ事をしていたから何をしているのかは分かる。つまりは自分の名前と顔を売っているんだ。そして来る日には自分の支援をさせるつもりなんだろう。日本では企業のイメージアップや政治家の票集めの一環だったが、こちらの世界ではなんだろうか?


ー例えば復興した領地から赤谷を遠ざけて、自分が代わりになるとか。


 赤谷は秋の終わりに王都へ行き、領地の報告をしなくてはならない。その間は領主がいない訳だが、この期間に公爵が領主として振る舞い、領主の赤谷には違う土地をあてがえば領民は赤谷を領主と見るだろうか。公爵が赤谷は違う土地を領地にした、と告げられれば領民はたぶん、納得するのではないだろうか。

 この領地には赤谷達の人柄に惹かれ付いてきた獣人達が数世帯いるし、獣人達は避難民達を王都から護衛してこの領都でも助けている。実は、という訳でもないが赤谷の4人いる奥さんの一人は獣人の女の子だが、獣人そのものは“魔王軍”の先鋒隊として人類を苦しめていたから世界からは憎まれている存在だった。しかし、獣王と呼ばれた“魔王軍”の幹部の一人が“勇者”赤谷に討伐されると“魔王軍”から離反して大陸の各地に隠れてしまっている。俺と蒼井さんや紫さんは積極的に獣人を受け入れていく政策を新たな領民に伝えているし、領都にいる人はそれを受け入れた人達だが、領主が変われば獣人を受け入れなくても良くなると考える人は多そうだ。

 獣人と一緒には住めないが、領地には来たいという人の為に、領都とは別に司を頂点とした神殿都市を山側に造り、そちらでは水田ではなく果樹園を作ったが、まだ若い果樹園はまともな収穫は期待できない。勿論、先々では水田からの収穫より果樹園からの収穫の方が利益を産むのだが。それまでは“差別”を受けていると恨まれるだろう。

 そんな人達は領主が変わることを喜ぶだろうし、赤谷が違う領地を貰ったと聞けば戻って来ても受け入れはしないかもしれない。


「二本柳様。そろそろ次の予定地に参りませんか?」


 アレクの後ろには如何にも騎士な男達が5人引っ付いて無造作に近づく人を威嚇しているが、俺の後ろには、アキバ系の“メイドさん”ではなくホワイトブリムという白いヘッドドレスを付け紺色の汚れの目立たないエプロンドレスに白いフリル付きエプロンの昔のヨーロッパ地方で実際に使われていたような“お仕着せ”を着たメイドが片手に書類を挟んだバインダーを持ち立っていた。


「そうですね。アレク様、次はこちらの方になります。」


 俺は略称で呼ぶ事を許されているが、本来なら貴族を平民が略称で呼ぶ事はあり得ないそうだ。

 ……だからなんだって話だが。

 俺の呼びかけに不快な顔をしたのは5人の部下達。アレクは嬉しそうな顔をして


「直樹殿、この街は凄いですね!」


 と目をキラキラさせて言った。

 この街は俺と苺さんが下絵図を描き蒼井さんと紫さんと協力して下拵えしたのち、黄野さんと緑川さんが形を整えて、橘さんがチェックした計画を基に造られている。元大学生の赤谷は自分の領地で有りながら


「ごめん、任せた。」


 とだけ言って逃げたし、司はその頃ここではない神殿内の派閥の力関係に四苦八苦していたから相談していなかった。俺達が計画を練っている間は妹の七歌が司の愚痴を聞いていたが、七歌ですら怒りのあまり神殿に殴り込みに行きたくなったらしい位の虐めがあったようだ。

 司をこの領地に連れてきてから、色々なものに縛られた司を解放して元いた神殿には“聖女”の司は返さないと宣言してある。司の婚約者だったポート……ナンとか伯爵が、反乱の疑いを晴らす為に軍を率いて来たのも、それだけではなく司を連れ戻す為もあったのは間違いない。それを蹴散らした後の俺達に会いに来たアレクはポート……伯爵の首から上を持って


「英雄に牙を剥いた逆賊は討ちました。」


 と朗らかな笑顔で言った。

 それは俺に、この世界の命の軽さを教える事となったが、同時に司がそんな世界に生きてきた事も思い知らしめた。だから、俺は迷っている。

 俺が司の助けになるにはどうすれば良いのかと。


○○○


 一日中、領地を案内したが司のいる神殿都市までは案内が出来なかった。

 アレクは見渡す限りの水田と埋め立てされた浜と、その向こうの港湾施設。「ラララ、ラ~ラ。ラララ、ラ~ラ。」と蒼井さんが歌いながら創った水晶のような橋とその上に建つ巨大な城。橋の向こうにある大小様々な島々。島には自生していた木々があり、そこは心休まる休養地(リゾートハウス)やテーマパークになっているのを見てイケメンな呆然顔を見せてくれた。

 イケメンは口をあんぐりと開けっ放しにしたバカ面でもイケメンだって気づいた俺は世の中の不公平さに心で泣いていたが。

 男爵の筈の赤谷の城の中、戻って来たアレクは熱に浮かされた顔で夕食迄の間は休むと部下達を引き連れ部屋にこもってしまった。

 つまりは今日の俺の仕事はこれで終わりという事だと凝りまくった肩や腰を揉んでいると、後ろに付いてきていたメイドが掛けてもいない眼鏡をクイッとする仕草をして


「デュフフ。他人の()(はかりごと)の相談とは、拙者笑いがとまらないでゴザル。デュフフフフ。」


 今までのキリッとした顔から、だらしなく歪むオタク顔に変わり変な笑い声をあげる。

 このメイドは七英雄の中でも目立たない“神弓”橘。

 司の仲間で、家事見習いをしていた引きこもりニートらしい。しかし、この世界では“影姫”の二つ名をもつ陰の存在で主に諜報活動で司達を助けてきた人、と蒼井さんが言っていた。その弓の一撃で数多の敵を葬ってきた橘さんは、この城にいる10人程のメイドの頭をしていて人前ではこんな顔で話したりはしない。だが、感情が昂ると我慢出来ないらしくついつい素が出てしまうようだ。


「紫のとっつぁんに姫さんを(めと)らせ、代わりに自分(公爵家)には“聖女”を連れてくる。政略的な交換婚姻(コーカンコーイン)ですなぁ!」


 橘さんが“姫さん”と呼んでいるのは、紫さんの恋人である第三王女の事だ。形としては、王家と英雄と公爵家が婚姻をする事で国に英雄を縛りける“美人計”のひとつだが、良く考えると王家から王女が英雄に英雄から公爵家に司が動くだけで、王家には然程旨味がない。

 この第三王女だが、歌姫だった平民に産ませた庶子で王位継承権はないし、他の王子王女(兄弟姉妹)に虐められバラックみたいな家に住んでいるし、と酷い待遇を受けているのだが、明るい笑顔と芯の強さに紫さんが惚れ込んだらしい。“魔王軍討伐”の合間合間に会いに行きいつの間にか恋仲になっていた、と司が困ったように笑いながら言っていた。

 そんな第三王女は御年16才。司達がこの世界に来たのは5年前だから、初めて会ったのはじゅう……。

 たぶん(絶対)、犯罪だと思います。

 紫さんは会社で係長をしていて30を越えている。5年前も30を越えていた筈。

 お巡りさんコイツです!

 紫さんは第三王女が成人するまで手を出さずにプラトニックな関係を続ける宣言はしているが、そこに「待った」をかけたのが司の婚約者だったポート……伯爵で、司と王女を天秤にかけながら王家の乗っとり計画を企んでいた。

 橘さんはそこまで調べてポート……伯爵を蹴落とす手助けをしてくれている。


「それでどーね、直樹くん(コーメイ)。良き策は考えついたかね!」


 黙っていれば凛凛しい女性なのに、一言出てしまえば残念過ぎる女性、橘さんはイヤな笑い声をあげながら聞いてきた。

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