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いとこは聖女様。  作者: 空気鍋
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悪夢の終わりと破滅の始まり33

お約束とも言えるやりとりの後、昼飯を挟んでの話し合い。この時に、こんなに慌てて農作業を進めた理由が話された。

昨夜、ノッソリ現れたゾンビ達。

世界的なヒットとなった某ゲームのおかげで驚きはしたが、有りもしない腰の銃を捜す程度には冷静に対処できていた。臭いがしないから現実味が無かった、というのも有るけど。

数としては万に届く、それは毎晩現れ朝日と共に消えていく上、ほぼ、被害も無い。ほぼ、と言うのは彼らが現れる度に、たださえ苦労している農地が荒らされ使い物にならなくなったから。

だが、ここに”聖女“と呼ばれる”(ひじり)魔法“の使い手がやって来た。

もちろん、司の事である。

”聖魔法“とは、治癒魔法、回復魔法、光輝魔法、救護魔法、付加魔法等をまとめて指す言葉で正当な魔法の系統では無い。しかし、司は”聖女“の称号を押し付けられた時に使えるようになったらしい。

その司が使える光輝魔法。光り輝く魔法と書くが本当に光の魔法という訳ではなく、他の魔法が効き辛い邪なる者に対する魔法だからこの名前になったそうだ。

光輝魔法には死んだ者を救う除霊、救済、解呪、送還や強制的に排除する悪霊退散、退治 慈悲無き裁き、があり、司は更に結界と呼ばれる救護魔法の聖なる光、輝く世界、争い無き楽園も使える、今回のゾンビ騒ぎには打ってつけだ。

ただ、司はゾンビとか、動く屍体とか、幽霊とか、光る球とか。そんな感じのは全然ダメで、マンガで鬼の手を持つ教師が主人公のが有るらしいが、そのマンガの怖がりな女教師なみ、と言われている。いや、俺が嫌がる司を二十四時間耐久肝試しとか言って評判の高いホラー映画を見せたのが原因なんだが。ゲームでのあだ名は「ミチコ先生」。一時期は司を騙してホラー要素のある場所に行くのが流行ったほど司の怖がりかたが大袈裟で楽しんでいた。……本当に俺って最低な男……。当時はそれが楽しかったのだが今、考えると”好きな女の子にちょっかいを出す男子小学生“かよって思う訳で。

説明に司は、ある程度、予想していたのか動揺はしていなかったが頬がピクッとひきつったのは見えた。


「鴨が葱背負ってやって来た状態、ですね。正直、司くんが来るとは思っていなかったので、大変助かります。」


紫さんが、フワフワしたオヤジ臭くない笑い顔を、作り笑いを浮かべた司に向けて逃がすつもりが無い事を仄めかし


「つか……桜沼さんがゾンビを嫌がっている事はわかってたから、来るとは思ってなかったんだよな。」


苦笑いの赤谷。そしてゾンビがいる事を知っていて司に黙っていた蒼井さんを責めるような目で見ている。


「大丈夫よ、司君。何があっても私が守ってあげるわ。」


蒼井さんは堂々と言い切った。司に隠すつもりも謝るつもりも無いらしい。


どうしよう。ここに来てから俺の蒼井さんへの評価がストップ安なんだが。


連日の、というか毎時間で驚くほど落ちていく。これが株ならそろそろ会社が傾いていてもおかしくない。赤谷も流石に蒼井さんの頭に片手チョップを入れて


「ちょっと淳くん?」


と睨まれている。


「……最初に会った時は、こんな人だと思わなかったわ……。」


苺さんが小さく呟き、妹の七歌が「ホントよ。」と返して、紫さんが、蒼井さんには絶対聞こえないような声で


「赤谷君が司君と絡むとスイッチが入るんですよ。司君が赤谷君と距離を置きたがる理由のひとつですな。」


あー……つまり、蒼井さんは司に嫉妬していると。確かに赤谷は司に馴れ馴れしいからな。


「けど、直樹の家にいた時は如何にも“保護者”って感じでしたよ?」


紫さんに合わせてか小声で苺さんも返す。


「そうね。うちのアニキが大変失礼な事していても大人の対応していたし。」


七歌も“大変”に力を入れて、しかし小さく言った。


「赤谷君と司君の出会いがあまりにアレだったからねぇ。蒼井さんは最初は無視されていて、赤谷君は司君を……。」


フ~。ため息なのか深く息を吐いて首を横に振りつつ肩を竦める紫さん。そして、何やら重大っぽい事を言いかけ


「これは私から言うべき話じゃないな。いや、年をとると口が軽くなっていけませんね。」


チラリ、俺と司の顔を見ると、ゴホンと空咳をして話を無理矢理終わらせた。今の様子からは俺と司が関係しているようだが、俺に思い当たるところはない。


「……あー。」

「これは意識するかもしれないわね……。」


俺には無いのだが苺さんと七歌には思い当たる何かがあるらしい。司が目を逸らして吹けもしないから口笛を吹くなんてベタな事をし始めたし、これは俺より司に関係した事なのか?


「さて、こうしているのも時間の無駄でしょうね。ゾンビの発生源らしき場所は特定できています。あとは確かな聖魔法の使い手が居れば、その場所を浄化する事でゾンビの発生を無くす事ができる筈。司君、頼みましたよ。」


司が抵抗できないように両肩を抑え、グイグイ押していく紫さんに、司は憐れっぽい悲鳴をあげて抵抗した。


「ちょっと、直樹。あれ、大丈夫なの?」


苺さんが司を心配したように言ってくるが、ゾンビは毎晩現れるって言っていたし、せっかく作った水田を壊されるのも困る。


「……司……すまん。」


俺は司を見る事が出来ず、廃虚となったかつての都に謝った。

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