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15話 渚のシンドバット


 遅くなりました。




 ――どうしてオレはここにいるのだろうか?

 砂浜に陣地を作りながらオレは、今に至る出来事を思い返しつつそんな感想を思い浮かべていた。

 まあ分かるよ? 初仕事でケチがついて暗い雰囲気になったチーム内の空気をバケーションで吹き飛ばそうって考えは。ただ、壱火のスーパー強引な行動にみんな振り回されて戸惑っているのだ。これも、まあ分かる。一度バケーションに入ったら暗い雰囲気は邪魔なだけ、とにかく動いて楽しんでしまえ、って考えかもしれない。

 もっとも、アイツがどこまで考えて行動してこんな事になっているのかは本人じゃないと分かるはずもない。案外何も考えていない可能性だってある。

 こんな風に事の経緯については理解している。でも、納得はしていない。だから最初に出てきた感想が頭に浮かんでくるのだ。


 砂浜の陣地作成の定番、レジャーシートとパラソルを設置して、シートの上に重し代わりの荷物を載せればひとまず陣地完成だ。

 日本だと紫外線対策としてテントを陣地に使う人がいて、砂浜に幾つもテントが張られているのを見たことがある。対してジアトーの砂浜は、そういった物が無くデッキチェアやシートとパラソルが鉄板だ。オレ達の陣地もその鉄板に沿った形になる。


「いやぁ、昔の日本のビーチを思い出すな。あの頃は小麦色の肌が人気だった。どいつもこいつも日に焼けようとビーチに繰り出していたもんだ」


 オレのすぐ近くで作業に勤しんでいるレイモンドのオッサンがそんな事をしみじみとした口調で言っていた。おっさんが言っているのは一体何年前の話なのか、作業しながら語る彼の目は遠いところを見ている。

 そのオッサンの言葉に誘われてオレはビーチを見渡した。作業で下がっていた視線を上げれば、飛び込んでくる光景はこれぞ夏っ! といった全周囲夏色全力全開の風景だ。

 青い海を背景に良く整えられたビーチが広がる。そこに花のように色とりどりのパラソルが幾つも咲いて、水着姿の海水浴客がそれぞれにおもいおもいのスタイルで海を楽しんでいる。

 その海水浴客の中には、かなりきわどいデザインの水着を着ている女性とかがいて、オレは慌ててそこから視線を逸らしてしまう。いやいやあんな格好、凝視できる訳がないって。


「ははっ! 若いなーボウズ。分かるぞー、俺も昔はビキニのネエちゃんにドキドキした。トレーニングで砂浜をランニングしていた時も、走りながらそんな水着のネエちゃんを眺めていたなぁ」

「オッサン……オレ、オッサンはもっとストイックな感じだと思っていた」

「そりゃあ、トレーニングは真剣さ。けど、綺麗な女性を求める男の心理は自然なことだと思うぞ。そこにストイックもヘドニズムも関係無いと思うけどな」


 昔を懐かしむような口調のまま、オッサンは作業を続ける。彼の仕事はバーベキューの準備で、今は金属の串に次々と具材を刺しているところだ。かなり手慣れている様子で、すでに十数本の串が完成している。持ち込んだコンロも準備が済んでいて、何時でもバーベキューが出来そうだ。

 陣地の設置が終わったので、オッサンを手伝うため彼の横に並ぶ。料理に使っている作業台は拠点にあった折りたたみテーブルだ。軽く手を洗って串を手に取り具材を刺していく。肉、ピーマン、肉、タマネギ、肉の順番で刺す。さらに軽く塩とコショウを振る。

 しばらくオレとオッサンの野郎二人が黙って作業する時間が過ぎていく。可愛い女の子の嬌声や幼い子供のはしゃぐ声が聞こえて賑わうビーチの片隅、黙々と串に肉を刺す作業をするオレ達はどんだけシュールに見えるだろうな。


「賑やかっすね」

「そうだな。今は海のシーズン真っ直中だし、この辺りはリゾート地としても有名な土地で人も集まりやすいと聞いた。さらに俺達のような転移者が色々とやらかしている。ほら、女性陣が着替えに行った海の家なんて転移者が営業しているところだぞ。この世界の人達も物珍しさでやって来ている。賑わうのは当然だろう」


 ビーチの端に軒を連ねているバラックの店。『氷』と書かれた垂れ幕といい、店先で店員が鉄板でヤキソバを作っている光景といい、全体的に妙にひなびた雰囲気といい、コテコテにステレオタイプなザ・海の家がオレ達の視線の先にはあった。海外にも海の家に相当する施設はあるとネットで見た記憶はあるけど、あそこまでコテコテなのは日本の事を知っている転移者の仕業で間違いない。客の入りは結構なもので繁盛している様子だ。

 そしてオッサンが言っているように、ルナさん達女性陣は着替えのためにあそこに入っていった。時間を考えるとそろそろ出てくる頃合いだろうと思おう。

 …………着替え、か。どんな水着買ってきたんだろう? 壱火はセクシーとか言っていたけど、どんな風にセクシーなのやら。だいたいアイツ、元は男だったクセにやけにノリノリで女の生活を楽しんでいるよな。そういう奴がセクシーと言うのだから相当な代物が出てきそうで、変に期待感が膨らんでくるぞ。


「おい、手が止まっているぞ」

「っ! スンマセンっす」

「なんだ、女性陣の水着姿でも想像していたか?」

「エスパー!?」

「いや、そんな心読む超能力なんて修得していないさ。お前が分かりやすいだけだ。ちなみに誰を想像していた?」

「あー、特には……三人全員それぞれ?」

「欲張りだな、分かるが。だが、一つ言っておく。壱火、娘に手を出そうとは思うなよ?」

「りょ、了解っす!」


 バミューダパンツ風の水着を着た上半身裸の筋骨隆々のリザードマンに睨まれた。その迫力は半端無く、それなりに鉄火場を潜ったオレもビビるしかない。返答はハイ一択だ。

 どうみても一人娘を心配する親父にしか見えないオッサン。息子が娘になった事にある程度折り合いをつけると、今度は娘の振る舞いを心配しだしてことある事に壱火に口を出しているのが最近のレイモンドのオッサンだ。壱火の方でもそんな風に口を出されるのを嫌って反発している節があり、こちらもどう見ても父親を煙たがる年頃の娘といった風情だ。

 外見はリザードマンと人狼族と全く違う種族なのに、二人の在り方はどう見ても親子にしか見えない。それがオレには少し羨ましいやら眩しいやらこそばゆい感じに思えた。そういえば、オレの父さんと母さんは今頃どうしているんだろうな。オレが居なくなって慌てているのは確定だろうけど。

 今や外国よりも遠くになった日本にいる両親を思い浮かべて、直後に慌てて頭を振って振り切った。ホームシックに駆られて今を楽しめないのはダメだ。こんなイベントを用意したみんなに対して申し訳が立たなくなる。


「お待たせーっ! ボク参上!」


 今の季節のような突き抜けるほどに明るい声がオレ達にかけられた。その声に釣られて目をそちらに移し、次の瞬間には驚きで手に持っていた串と肉を落としてしまった。

 視線の先にはどこぞのヒーローの変身ポーズを決める壱火。基本的にノリの良さの塊みたいな奴で、奇妙なポーズをするのは良く見かける。問題はその格好がオレ達男性陣にとって刺激の強いものだったってところだ。


「おい、壱火! お前何て格好している!」

「何って、水着だよ?」

「もう少し大人しい物を選べなかったのか」

「むーりー。それにこれでも大人しい方と思うよ。さっきすれ違った人なんかスリングショットを着ていたし」

「……なんと」

「父さん、今鼻の下伸ばさなかった?」

「するか! 呆れただけだ。第一この身体で鼻の下など伸びないぞ」

「えぇ、本当でござるかぁ?」

「ござるって何だ、まったく――」


 やって来るなり毎度の親子漫才めいたやり取りをオッサンと交わす壱火。その格好は一言で言えばエロい。二言目には彼女の宣言通りにセクシー、である。

 正面からぱっと見だと腹の部分がざっくりと開いたワンピースの水着に見える。けれど脇から背中にかけて大胆にカットされていて、健康的な肌が大きく露出している。たしかこういう水着ってモノキニって言うんだっけ? 青空の下でもくっきりと鮮明な赤い色はビーチでも一際目立って、現在進行形で周囲の注目を浴びている。

 かくいうオレも壱火の水着姿から目が離れない。陽気で活発な印象の彼女と、赤く大胆なデザインの水着はとてもマッチしていてこれ以上ないくらい似合っている。普段の格好も露出が多い方だけど、水着になるとさらに増えて露出強(誤字にあらず)である。エロくセクシーに見えて、それでいて健康的なエロさに収まっているのは壱火の気性によるものだろう。だからこそオレの目も自然と引き寄せられていた。

 これまた一言で言うと魅了されていたのだ。


「あなたも鼻の下が伸びていたようね」

「うおっ! 水鈴か。驚かすなよ」

「そんなつもりはないわ。壱火に見とれて気が抜けていたんでしょ」

「う、ぐ」

「エッチ」

「ぐぅ……」


 後ろからかけられた声に振り向くと、そこには水着姿の水鈴がいた。こちらはシンプルに青色のビキニを着ている。普通に見られる一般的なビキニの水着だけど、妖狐族のフサフサの尻尾と耳が特徴的なアクセサリーになって人目を引きやすくなっている。

 普段は一本にまとまっている水鈴の尻尾は何本かに分かれてユラユラと揺れている。どうも人の視線を受けて緊張しているらしい。そういえば、オレやオッサン相手には普通に接しているから忘れていたけど、こいつかなり男嫌いだったけ。緊張するのも無理は無いか。

 それはそれとして、水鈴の水着も良く似合っている。こちらも健康的な魅力が前面に出ていて、壱火が動なら水鈴は静の雰囲気を纏っており、良い対比になっている。後、水着になった事で意外に大きな胸部装甲を持っているのが分かった。うん、オレは大きくても小さくてもイケルぞ。


「……私までそういう目で見るんだ。スケベ」

「いや、不可抗力かと思うんだけど」

「だから男は苦手なのよ。ある程度は我慢するけど」

「スマン」

「やっぱりビキニは止めておくべきだったかな……」


 両腕で身体を隠すような仕草をして後悔するような声を出す水鈴だけど、心底嫌っていう訳では無さそうだ。その証拠に彼女の表情は明るい。開放的な海という空間を楽しんでいるのが傍で見ていても分かるくらいだ。

 ところで……壱火、水鈴と来てルナさんは? そんな考えが浮かぶなり、オレの目は二人がやって来た方向へと移動していた。


「ああ、もう陣地出来ていたんだ。レイモンド、何か手伝う事はあるか?」

「お、おう。今ボウズと一緒にバーベキューの串作りだ。手伝ってくれるのか?」

「うん……魚介類が乏しいな。海に来たからにはシーフードが欲しいけど、今からじゃ遅いか」

「ウチは若い奴が多いから肉を用意しておけば大丈夫って思ってな。次の機会があればリクエスト通りにシーフードにしようか」

「分かった。マサヨシ君、隣使わせてもらうよ」

「……」

「? マサヨシ君、どうした?」


 この瞬間、オレのあらゆる感覚がルナさんに向って集中していた。夏の強い日差しも、周囲の騒がしさも、手から落ちたままになっていた串と肉も全く気にならなくなっていた。

 ルナさんの着ている水着はシンプルなセパレートタイプで、色も黒地に白いラインが入っているシンプルさだ。壱火の様なエロいデザインでもないし、水鈴のようなケモ耳と尻尾によるアクセントがあるわけでもない。日本の浜辺に居ても違和感のない出で立ちをルナさんはしていた。なのにオレは目が離せない。

 ルナさんの全身のシルエットは細く、曲線を主体とした肢体が女性らしさを主張している。普段は丈の長いシャツとパンツを着ているためか、いざ露出が多くなると彼女の肌色は際立って印象深い。

 身体のラインがクッキリと出る格好だけにその控えめな胸とか、くびれて引き締まったお腹とか、ほっそりとしていながら逞しさを感じる太ももとか、それらが余すことなくさらけ出されている。個人的にはくびれてキュッとなったお腹辺りは特に注目したいところだ。

 色合いはいつものモノトーン調なのに、水着になっただけでここまで違って見えるとはオレ自身思いもよらなかった。多分、普段とのギャップが印象深さに拍車をかけているんだろうと自己分析している。

 あれやこれやと長々語ってしまったけど、要するにルナさんの水着姿が眩しすぎて硬直してしまい、オレの頭の中が空回っているって事サ! 笑えよ。


「マサヨシ君?」


 すぐ隣に居て身長差から見上げる形でこちらを見てくるルナさんは、普段の数倍魅力的に見える。上目遣いでこちらを見てくる金色の目、それと目が合うだけで魂が吸い込まれてしまいそうになる。


「ベネ、ディ・モールト・ベネ!」

「なぜイタリア語なのかな」

「あ、いや、それだけ感動したって訳っす」

「そう。まあ、いいけど。バーベキューの串作りまだ残っているんだよね? 手伝う」

「うっす。お願いします」


 思わず口から歓喜の声が出てしまい、ルナさんから変な目で見られてしまった。だけど後悔はしていないするはずがない。周りのみんながニヤニヤとした顔――水鈴だけは睨んでくる――をして見てくるけど、後悔なんてするものか。


「ぷふー、笑う。マサヨシ緊張し過ぎ。んじゃ、ボクはちょっと運動してお腹空かせに行ってきまーす! 水鈴も一緒にね」

「えっ!? ちょっと待って、引っ張らないで! 私はルナと一緒に串作りがしたいのに」

「今回はマサヨシに花持たせようぜ。ビーチボール持って来たし、それでバレーでもしよー」

「ううっ! 分かったわ……マサヨシ、ルナに変なコトしたら承知しないんだからっ」


 壱火が遊びに行くと言いだして、水鈴の手を引っ張って場を離れだした。壱火の顔を見るに「お邪魔虫は退散するよ」と言っている。一方で引っ張られる水鈴は渋顔だ。いや、待って欲しい。ニヤニヤとした顔も渋顔もされるのは嫌だが、この場を離れられるのは困る。

 というか水鈴、そんなに渋い顔するくらいならもう少し粘ってくれよ。


「ふむ……ボウズ、粗方の準備は終わったからオレも少し泳いでくる。壱火と水鈴の害虫避けもしないとな」

「え、オッサン?」


 続いてオッサンまで場を離れていく。やっぱり「邪魔者は去るさ」と顔に書いている。いやいや、待って欲しい。貴重な男組のメンツまで行ってしまうのは非常に困ってしまう。


「ルナの嬢ちゃん、コンロの用意は終わっているから後は簡単な串作りだけだ。お願いして良いか?」

「了解した。壱火を見張って来るといい」


 ルナさんまでオッサンの離脱に賛成して、この場にはオレ達二人きりになってしまった。いやいやいや、待って欲しい。ルナさん、いくら強くても少しは危機感持とうよ。いくら周囲が開けたビーチでも男と二人きりって普通はもう少し慎重になるものじゃないのか?

 出会った当初から思っていたけど、オレはルナさんから異性として認識されていないみたいだ。


「肉は……ああ、結構な量があるな。マサヨシ君、肉は大きめの方がいいか?」

「え? あ、うっす。それなりに大きく切り分けて串に刺して貰えればいいっす」

「良く見ればこの肉、ラージエルクのだ。そういえばかなり余っていたな」

「そうっすね。みんなで周囲の知人にお裾分けしてしても余ったから、ここで在庫処分するつもりじゃないっすか」

「燻製や干し肉にして保存食にするにしても限界はある。こういう機会で消費していくしかないか」

「もしくはレストランとか食い物関係に伝手を作って、そこに卸すっていうのはどうすか? それなら現金収入増えるし」

「そうなると今度は安定して目的の獲物を狩れるかという話になる。品質の話も出てくる。地球でのハンターと一緒だ」

「世知辛いっすね」

「全くだ」


 ルナさんと世間話をしながら肉を切り分け、野菜をカットと作業を進めていく。向こうが変な意識を持っていないのだから、こっちが意識しないよう努めれば会話は非常にスムーズに進む。

 振り返って見れば、出会った当初のルナさんは没交渉気味な人だった。それが今やキチンと会話が進んでいくではないか。言葉が少なめでポソポソ話すのは相変わらずだけど、ある程度気を許した相手なら冗談を飛ばすくらいはしてくる。それだけルナさんとの仲が深まったというのは純粋に嬉しく思えた。

 そして人間というやつは欲深いもので、もっともっとと思ってしまう。オレも例外ではなく、もっとルナさんとの仲を深めたいと思ってしまうのだ。

 そういえば、オレはルナさんの事を余り知らない。彼女は自分の事をほとんど語らないし、これまで腰を落ち着けて語り合う時間が無かったせいでもある。これはかなり良い機会ではあるまいか? 思い至ったオレは少し彼女に踏み込んでみた。


「ルナさんってハンターの事を知っていたりしていますけど、地球にいた時は何をしていた人なんすか?」

「……無職」

「へ?」

「収入のある仕事はしていなかった。狩猟と射撃は趣味」

「そ、そうなんすか。収入のある仕事はしていないって事は、ま、まさか主婦とか?」

「いや、だから無職だよ。ここ十年仕事に就いていないし、就職する必要もなかっただけだ」

「そ、そうなんすか」


 ルナさんからの返答にオレの気持ちは乱高下しまくる。無職だったことに驚き、専業主婦とかではなかったことに安心し、十年という部分に引っかかりを覚えたりと忙しなく心が揺れる。というか、十年?

 ええっと、ルナさんの言い回しからすると十年以上前は何らかの職に就いていたような感じだ。彼女が年上なのは言われなくても理解していたけれど、急に具体的な年齢が気になってきた。

 一般に言われるように女性に歳を訊くのは禁句だと分かっているけれど、どうにもオレの口は自重しなかった。


「十年無職って、失礼っすけどルナさん歳いくつっすか?」

「ん? 37、いや今年で38か」

「あ、アラフォーっすか」


 予想以上にお歳を召していて驚かされる。二十代ぐらいかと思っていたら、三十代、それも四十手前のアラフォー……それで一人称が僕っていうのはどうなのか? と考えるが、今のルナさんの容姿なら似合っているので深く考えないようにした。

 オレがルナさんの年齢に思い悩んでいる間、ルナさんは黙々と作業を進めている。重い沈黙がこの場に降りてきた。いや、重く感じているのはオレだけか。

 周囲は夏の浜辺で、海水浴客で賑わっている。なのにここだけが切り取ったように静かに感じるのは錯覚だろうか?

 こうしている間もオレの手は串作りをしている。そして串の具材が尽きてもうすぐ作業終了という時、ポツリとルナさんから言葉が漏れた。


「それにしても、元が男だった僕が主婦というのは無いな。それとも主夫か?」

「え? ルナさん、今なんと?」

「ん? 主婦というのは無いと」

「そっちじゃなくて、元男?」

「そうだけど。おや、言わなかったか」

「……」


 ―――――――――――――――――――――――――――。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ファっ!?




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