第二話「ジャック死す!飛行機の中の死闘!」
:前回までのあらすじ:
バスに立てこもった自爆テロリスト、バスジャックの手によって、ジャックが死んでしまった! 今日は葬式だ!
先日、親友のジャックが死んだ。
バスジャックの自爆テロに巻き込まれたのだ。
ジャックは勇敢だった。
暴走するバスに残された数名の乗客を救い出し、
自分は暴走するバスをなんとかして、爆発に巻き込まれたのだ。
発見された死体は原型を留めてはいなかった。
他の死体との見分けも付かない。
そもそも、バスにはジャックとバスジャック、運転手の三人以外は残っていなかったのだ。
それに、ジャックの母親は間違いなく自分の息子だと泣き、縋り付いて泣いた。
実の親が見たのだから、間違いないだろう。
ジャックの葬式は盛大に行われた。
助け出した乗客の一人が石油王の娘だったのだ。
アラブではブイブイ言わせていた彼だったが、どうやら娘には弱いらしい。
ジャックの葬式は6千万ドルもの資金が費やされた。
フロリダの片隅に立派なピラミッドが建築され、4つの宗教団体から祈祷の電報も届いた。
ジャックも安らかに眠る事だろう。
さて、 私は現在、ジャックの葬式の帰り、飛行機の中にいる。
もうバスはコリゴリだからな。
飛行機の乗客は、皆ジャックの知り合いであるらしい。
まだすすり泣く声が聞こえる。
私も泣きたい気分であった。
ジャックはいいやつだった。
誰からも好かれ、人気者であった。
しかし、私は泣かない。
ジャックは暢気な男だ。
今にも、ひょっこりと顔を見せるんじゃないかという気すらしてくる。
窓に映る自分の目には涙が浮かんでいた。
違う、これは涙ではない。
汗なのだ。
そう言い聞かせつつ、私は窓の外を見る。
鼠色の雲が続いている。
暗がりに化け物でも潜んでいるのでは。
そんな気配すらする、不気味な雲だ。
もっとも、ここは飛行機の中。
化け物が出てきた所で、鋼鉄に守られた私には指一本触れられまい。
ふと、視界が灰色に染まり、飛行機がゆれた。
アナウンスが入る。
気圧の乱れに突入したのだ。
気圧の乱れ。
そういえば、葬式に来る前に、こんな話を聞いた。
このあたりの空域は第二次世界大戦当時は激戦区で、今でも飛んでいると、古いミグの機影を見かける事があるとか。
不気味に思った航空会社の社長は、ジャパンの和尚に連絡を取り、念仏を唱えてもらったらしい。
オショウは念仏を唱え終わると、空港の片隅に小さな神社を立て、悪霊を祀ったのだとか。
それ以来、機影の目撃例はピタリとなくなった。
しかし、この空域を丑三つ時に通ると、今度はメッサーシュミットの霊が化けて出てくるようになったらしい。
私はその話を聞いた時、馬鹿馬鹿しいと一笑に付した。
このサイエンシティな時代に幽霊など。
きっとゆらゆらと揺れ動く柳でも見間違えたに違いない。
しかし、今は丑三つ時。
葬式のあとでこうして移動していると、何やら不安な気持ちになってくる。
まさか、ジャックの霊が化けて出るのではないか……。
その時である。
「キャアアァァァァ!」
飛行機の前方より悲鳴が聞こえた。
何事か、もしや幽霊が。
そう思って前を見ると、スカジャンを来た頭の薄い男が、マシンガンをフライトアテンダントに向けて立っていたのだ!
「ハイジャックだ!」
誰かが叫んだ。
ジャックはジャックでも、来てほしくないジャックだった。
男は叫んだ。
「この飛行機は俺が占拠した!
乗客を皆殺しにされたくなきゃイギリスに向かいやがれ!」
そう言って、マシンガンをブッパなす。
天井には大きな穴が開いた。
その音を聞いて、キャディは震え上がった。
「ひぃぃ、イギリスなんて燃料が足りません、無理ですよぅ!」
「うるせぇ!」
バスジャックはガンガンと引き金を惹く。
ガオンガオンという耳障りな爆音と共に、どんどん天井に穴が大きくなっていく。
「いいからイギリスに向かえばいいんだ!」
「ひぃぃ、わかりました!」
キャディは震えながら、パイロットにイギリスに向かうように命令した。
絶体絶命。
と、その時である。
「まてぃ!」
天井の穴から、一人の男が飛び込んできた。
男は熟練のバリツで男の手首を打つ、マシンガンは暴発しつつも、バスの床を転がった。
男はバスジャックを打ちのめし、いとも簡単に組み伏せた。
「皆大丈夫か!」
男の姿を見た瞬間、私の目から涙がこぼれ落ちた。
ジャックだ。
ジャックは生きていたのだ!
「ヘッ、ちょっとお空の散歩をして戻ってくればこの有様とはな。
うちの近所も治安が悪くなったもんだぜ!」
ジャックはハイジャックの首筋に手刀を一発、ハイジャックは絶命した!
「何にせよ、危ない所だったな、俺がいなきゃ、危うくイギリスに連れて行かれる所だったぜ?」
「そんな事よりジャック! 君はどうして生きているんだい! 死体も見つかったのに!」
ジャックは鼻の下をこすりつつ、ヘヘッと笑った。
「あのバスが爆発する寸前、バスの床下に隠れていた奴が俺を天井に穴から脱出させてくれて、ギリギリ助かったってわけよ!」
そんな事があったとは!
さすがジャックだ、我らのジャックだ!
こうしてはいられない、今すぐにでも戻って、彼の生還を皆に伝えなくては!
と、その時である!
ガクンと飛行機が揺れた。
窓の外を見ると、凄まじい勢いでバスが加速している。
「おい、パイロット、何やって……死んでる!」
なんと、ジャックがハイジャックに襲いかかった時に暴発したマシンガン。
その流れ弾がパイロットの頭部を撃ちぬいていたのだ!
「ちぃっ!」
ジャックが操縦桿に取りついた。
しかし、すでにパイロットの体は死後硬直でガチガチに固まっていた。
操縦桿は固定され、スロットルは全開になっている。
「これはまずい、皆は先に脱出するんだ!」
「脱出って! どうやって! パラシュートもないのに!」
「いちにのさんで皆一緒に飛び降りるんだ! 何大丈夫、皆で飛べば怖くない!」
そうだ、皆でやれば怖くないのだ!
ほんの少し、勇気を出せば助かるのだ。
なけなしの勇気を皆でかき集めるだけ、ジャックはいつも僕らに当たり前の事を教えてくれる!
「わかった! でもジャック、君はどうするんだ!」
「この飛行機は核融合エンジンで動いている!
そして、飛行機の向かう先には小学校がある町がある、そこに突っ込ませるわけにはいかない!」
「ジャック! 君はまさか……!」
「ああ、俺が残って何とかしてみせる!」
ジャックの決意。ジャックの意志。
私達はそれ以上なにも言うことは無かった。
ただ、この場をジャックに任せ、飛行機から飛び降りることしか出来ないのだ。
「必ず、必ず生きて帰れよ!」
「ああ、もちろんさ、約束だ!」
私達は全てをジャックに任せ、皆で手をつないで飛行機から飛び降りた。
時速300キロを超えるスピードで走る飛行機から! パラシュートなしで!
もちろん、普通ならバラバラになる。
しかし、勇気のおかげでなんとかなった!
私達は超スピードで飛ぶ飛行機を見送る。
あの中にはまだジャックが。
せめて脱出してくれ。
そんな望みは…………絶たれた。
飛行機は町に落ちる直前、機種を高く上げて飛翔。
空中で巨大な爆炎球となって爆発四散!
深夜の夜空に真っ赤な太陽が発生した。
「ジャック……ジャックゥゥゥ!」
あの爆発では、いかなジャックとて生きていまい。
彼は、己の命と引き換えに、私達と、そして小学校を守ったのだ。
小学校に通う子供たちの生活の場と、教師達の職場を守ったのだ!
☆
ここはイギリス。
私はあの日の事を忘れないだろう。
もしかすると、あのジャックは、ピンチの私達を助けるため、
霊となったジャックが現れてくれたのかもしれない。
ジャックの死を無駄にしないためにも、私達は生きなければならない。
ジャックの葬式は、盛大に行われるだろう。
あのバスには、鉄道王の娘が乗っていたのだ。
7千万ドルもの葬式費用が支払われ、ジャックの亡骸は巨大なカテドラルに葬られるという。
しかし、私は、どうしてもジャックが死んだとは思えないのだ。
あのジャックが、タフでヤンチャでカッコよくてタフガイで体力があってマッシヴでタフなジャックが。
死んだとは、どうしても思えないのだった。
きっと、ジャックはケロッとした顔で再び現れるに違いない。
そう思い、私は死体に縋り付いて泣き叫ぶジャックの母親の肩に手を置いた。
(第二話「ジャック死す!飛行機の中の死闘!」完)
:次回予告:
ジャックの葬式の帰り、私はふらりと立ち寄ったトテモタカイ・ビルでテロリストに遭遇する! ビルジャックだ! 助けてくれ! ジャック! このピンチを救えるのはお前しかいないんだ! ジャック!
と、思ったけどめんどくさいのでここでおしまい。




