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第4章

 

「ヨアンナ、あんたキンペリー姉弟に虐められているんでしょ」

 

 ターリャ姉様にそう指摘されて私の足は止まった。

 しかし、姉はグイッと私の手を掴んだまま学舎に向かって進んだ。

 

「ターリャ姉様、何で?」

 

「あんたの担任の先生に皮肉を言われたわ。妹にだけ父親の看病をさせて君は看病をしなくてもいいのかって。軽蔑されたわ。

 母様も先生から話を聞いて、あんたが一人で父様の面倒みているって感謝してたわよね。

 私達には学校へ行くと喘息の発作が起きるから休むと言っていたくせに。

 リーラ姉様も腹を立ててたわよ」

 

「ごめんなさい。でも、それも嘘じゃないもの。学舎へ行くと発作が起きるんだもん」

 

「それ、喘息じゃなくて動悸でしょ?

 キンペリー姉弟に虐められるから動悸が起こるんだよね?

 それをちゃんと先生に言わないと解決しないよ」

 

「言ったって解決しないよ。ガバナー先生はキンペリー家に逆らえないもん」

 

「あの先生はだめだよ。メシトウ先生にでも言わなきゃ」

 

「メシトウ先生には何も言わないで。あの先生いい人だから、キンペリー姉弟を叱って、あの家に睨まれてしまうわ。

 そうしたらどこかへ飛ばされちゃうかもしれないでしょ。

 そんなことになったら……」

 

「何心配しているのよ。メシトウ先生は領主の息子で伯爵令息なのよ。

 ガバナー先生やキンペリー家に睨まれても大丈夫よ」

 

「でも領主様ってみんなに嫌われているから、メシトウ先生も他の先生方に避けられているじゃない。

 私が迷惑をかけたら、先生を困らせるなって慕っている人達に憎まれて、私はますます虐められちゃうわ」

 

 私の言葉に姉様も一理あると思ったらしく黙り込んだ。 

 しかし、その後とんでもないことを言い出した。

 

「同じ虐められるにしても、二人ならまだ耐えられるんじゃない?

 あいつらの弟も上の二人に虐められているのよ。その子と一緒にいればまだましじゃない?」

 

「はっ?」

 

 弟って誰? あの人達は二人姉弟じゃなかったの?

 

「あんたは一月以上学校サボっていたから知らないでしょうけど、王都からあいつらの弟が引き取られてきたのよ。

 お母様が亡くなられたのですって」

 

「???」

 

 ええと。

 キンペリーさんの奥さんって、たしかに去年亡くなったのよね? それで半年前には新しい奥さんと結婚したと思うんだけれど?

 その時まだ九歳だった私には意味がわからなかった。

 すると、二つ年上の姉はふぅーっと大げさにため息をついて説明してくれた。

 

「キンペリーさんの女好きって有名でしょ。王都にもお妾さんがいたのよ。それと子供もね。

 そのお妾さんが亡くなったたのよ。それで子供が一人残されたからってこっちの本宅に引き取られたのよ」

 

 すごい。キンペリーさん。そんなにもたくさんの奥さんがいるなんて。

 ヒルデとマルクスの性格が悪いのは、そんな複雑な家庭環境のせいなのか。少し同情しかけたが姉がこう言った。

 

「同情する必要なんてないわよ。優しい母親が生きている頃から性悪だったんだから。

 父親は女好きだけど、家庭は大事にする人みたいよ。亡くなった奥さんだけでなく、今の奥さんもいい人らしいし。

 あのおじさん、面倒見が良いから女性にモテるらしいの」

 

 へぇ。

 ターリャ姉様は色んなことをよく知ってるなあと思った。まあ、情報源は二番目のリーラ姉様だと思ったけれど。

 

 リーラ姉様は商店街にある一番人気の大きなお店に勤めているから、とにかく情報通なのだ。

 まだ十七歳の乙女だというのに、完全に耳年増。

 まあこの姉のおかげで、世間知らずと呼ばれるほどおっとり世間知らずばかりの我が家も、なんとか暮らせているのじゃないかしらん。そう思って感謝しているけれど。

 

「それでね、その引き取られた子の名前はルーディーというのだけど、案の定あの性悪達に虐められているのよ。

 それを偶然見かけて助けてから懐かれたの。

 それでその子はあんたと同じ年だから、友達になったらいいと思ってね」

 

 友達……魅惑的な言葉だ。私には友達がいないから。たしかに苛められっ子同士で傷を舐め合うのもいいかもなんて、思ってしまった。

 まあ、それは私の勘違いだったんだけど。

 だって、そのルーディーって、見かけは儚げで守ってあげたくなるような可愛い子だったけれど、本当はすご〜く強くて逞しかったんだもの。

 そして私の初恋の相手となったのだ。

 

 それにしてもターリャ姉様には頭が上がらないなあ、と思った。

 六人兄弟の五番目だというのに、一番しっかりしているというか、姉御肌だった。

 正義感が強くて、曲がったことが大嫌い。人情に厚い。

 頭が良くて口が達者。運動神経も飛び抜けていて、しかも美人だ。

 母様と同じプラチナブロンドのサラサラヘアーに大きな赤い瞳。

 あの大嫌いなおじさんは、下へいくほど美人だと言ったけれど、後でよくよく考えみると、その姉妹の中に私は含まれていなかったのだと思う。

 自分で言うのもなんだけど、私は美人というより可愛いのだ。

 チョコレート色のふんわりヘアーにこぼれ落ちそうだと言われる大きくて薄茶の瞳。

 兄達に言わせるとリスのように愛らしいそうだ。馬鹿にされている気もするが。

 

 

 一番上のサーラ姉様は父様と同じ豊かな黒髪と切れ長の薄茶色の瞳をしていて、キリッと整った顔付きをしている。

 

 二番目のリーラ姉様は金髪碧眼。丸顔で一見おっとりして見えるが、性格は寡黙な姉とは対照的に明るくてにぎやかで少し毒舌家だ。

 色目は違うけれど私とこの姉は容姿が一番よく似ていると思う。性格は正反対だと思うけれど。

 

 ツーリィー兄様はブラウンのサラサラヘアをきちんと短めにカットし、大きな瞳をしている。

 容姿はそこそこいいのだが、あまり体が丈夫ではない。

 しかも上に逞しい姉が二人いるせいなのか、長男だというのにおとなしくて影が薄い。

 ただし頭は良いし、真面目な性格だ。

 

 モーリ兄様はそれこそ父様に瓜二つだ。

 黒髪と切れ長の薄茶色の瞳をしていて、かっこいい。

 性格も厳格な父様とは違って明るくさっぱりしていて物事にこだわらないので、男女ともに人気が高い。

 

 

 こんな風に我がワントゥーリ兄弟は、イケオジな父親のケントと超絶美人な母親のヒラリスの血を引いているために、顔面偏差はかなり高いのだ。

 しかしその中でもターリャ姉様がダントツ美人なのだ。母様と同じくらいに。

 

 あの意地悪キンペリー姉弟だってさすがにターリャ姉様には敵わなかった。

 貧乏人、子沢山、没落一家、落ちた英雄の子供だとか、そんなことを言われても

 

「だから何?」

 

 とあの綺麗な顔で睨まれると何も返せないでいる。

 その反動なのか、姉様に気付かれないように私を含めて弱い者虐めをしている。

 それを思い出し、同情なんかするんじゃなかったと後悔した私だった。

 

 


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