表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/32

第27章  ルーディー視点②


 父と共にツーホーク領の領都リューキへ向かう汽車の中で、父から突然

 

「お前は聖地へ行ってきたのだろう? どうやってたどりついたんだ?」

 

 と訊ねられた。

 なんのことですかと惚けようとしたけれど、母から無花果が美味しかったという話を聞かされていたらしく、誤魔化せないと判断した。

 こんな真冬に無花果の実が成るわけがないのだから。

 正直に話すと父は深いため息をついてこう言った。

 

「やはりお前が守り人だったんだな。

 ヒルデとマルクスにも多少魔力があるが、何しろ性格に難があってな、とても守り人の役目は果たせないと思っていたんだ。

 お前にも魔力があるのはわかっていたのだが、何も言わなかったから確信が持てなかった。

 普通魔力持ちからは自然とその魔力が溢れ出てくるものだから、同じ魔力持ちならそれを感じ取れるものなんだ。

 しかしわずかしか感知できかったから、上の子達と相違ないレベルなのかと思っていたんだよ。

 しかし体力強化までできるというのだから、普段はかなり自分の力をセーブしていたのだろう? どうやったんだ?」

 

「王城の図書館で認識阻害魔法を使用して閲覧禁止の本を読んでいた所を、魔力や魔物研究の専門家であるツートル=アンバー先生に見破られてしまったんです。

『君の認識阻害魔法では、魔力持ちの認識までは阻害できていないよ。何故なら魔力が漏れているからね』って指摘してくれて、僕の魔法の師匠になって下さったんです」

 

「認識阻害魔法まで使えるのか。凄いな。

 それにしてもツートル=アンバー……何勝手なことをしているんだ、あの爺さん」

 

 父がそう呟いたので僕は驚いた。まさか先生と知り合いとは思っていなかった。

 しかし、先生は魔法や魔物研究の第一人者だが、隠れ白龍姫研究者でもあるらしい。

 そもそも幼い頃から僕を可愛がってくれていた、父の先輩であるショータン=メシトウ卿の知人らしい。

 先生がワントゥーリ家の大型の宝石箱と称されていた封印箱に関与していたということを知ったのは、それから半年後の事だった。

 

 

 なぜ先生は父の知り合いだと隠していたのかな。いたずら好きな先生を思い出して、ただ楽しんでいただけかもしれないと思った。

 

「まあ、あの爺さんはどうでもいいか。変わり者ではあるが、悪い人間ではないし秘密は守ってくれるからな。

 しかし、研究者の持つ知的好奇心は計り知れないし、末恐ろしいものがある。

 だからこれから知り得ることは彼には知られない方がいい。分かったな?」

 

 そう言われて僕は頷いた。

 


 そしてその後僕は、我がキンペリー家を含む守護三家と白龍姫を産むオーリス家の秘密の繋がりを知ることになった。

 それは、守り人が次代の守り人にだけ語り伝える話だったようだ。

 

「父さんはヒラリス様と結婚しようとは思わなかったの?」

 

「正直なことを言えば、ヒラリス様のことは好ましいと思っていた。

 しかし守り人としては守れても、夫として支えられる力は自分にはないと、ケント先輩の姿を見てそう思い知らされたんだよ」

 

 そう父は言った。

 誘拐されたヒラリス様は家に戻ってきた後、人里離れた小屋で暮らしていたそうだ。

 何故ならいったん人は間の姿に戻ったものの、怒りの感情を持つと龍に変化しまい、すぐには人間には戻れなくなる、ということを何度も繰り返したのだそうだ。

 その度に、心身ともに疲労していき、その姿はそれはもう見ていられないくらいだったそうだ。

 

「このままではいくら千年の寿命を持つ龍とはいえ、娘は死んでしまうのではないか。どうか助けてやって欲しい」

 

 オーリス夫妻に懇願されたが、どうやって助けたらいいのかさっぱり見当がつかなくて私は途方に暮れたんだ。

 しかし私と違ってケント先輩は、法の裁きどころか神罰をも恐れずに行動したんだよ。ヒラリス様を苦しみから救うために。

 それを目の当たりにして、彼との思いの差を見せつけられて諦めたんだよ。彼には敵わないってね」

 

 ケント=ワントゥーリ卿は、白龍姫の角と牙、そして爪を切り落とすという暴挙に出たなのだという。

 神の体を切り取るだなんて普通は思い付かないし、たとえ命じられたとしても恐怖で実行できないだろう。

 神罰などくらったら死ぬより怖い。それを恐れず行ったというのだから、ヒラリス様への彼の愛情は、守り人としての使命の範疇を大きく超えているように思えた。

 

 ヨアンナと友人となってから、両親の仲が上手くいってないのだと聞いたとき、彼女の母親だけでなく、悪役になってしまった父親のことも気の毒だと思った。

 彼の妻への思いは神罰さえ恐れないほど強く純粋で、それこそ本物の真実の愛情なのにと。

 まだ子供の自分が他所の家庭の人間の秘密を口にするわけにはいかない。

 しかし、口を噤んでいることが苦痛で仕方がなかった。

 


 領都リューキで暮らすようになってから、僕は認識阻害魔法を使ってあちらこちらを歩き回っては、色々な知識や情報を仕入れた。

 なぜ魔法を使ったのかといえば、自分の容姿が目立つという自覚があったからだ。

 王都で暮らしていた頃も、マニアックな趣味を持つ老若男女に目を付けられて大変な目に遭っていたのだ。

 そのため、魔法を使えるようになってからは、一人で行動する時は魔法を使うようにしていたのだ。

 それに白龍姫について調べるのなら秘密裏にやらないと、国から派遣されている役人や騎士に目を付けられてしまう恐れもあったし。

 

 ワントゥーリ家の家族のこともこっそりと確認をしに行った。

 当主のケント卿は立派な体躯をした精悍な顔付きの男性だったが、体の具合が悪いのか、父と比べるとかなり老け込んでいて、疲れているように見えた。

 商店街の高級婦人服店で働いていたヒラリス夫人は、夫とは二つしか違わないとは信じられないくらいに若々しく、とても美しい女性だった。

 彼らの子供達は質素で地味な服装をしていたが、美男美女の両親の子なので皆容姿が整っていた。

 二番目のリーラ嬢を見た時、色目は違ったが、顔立ちが聖地で見かけた少女によく似ていると思った。

 やはり彼女はワントゥーリ家の末娘なのだろうと察した。

 しかし、その肝心の末っ子は姿を見ることはできなかった。どうして学舎に通わないのかと思っていたら、実際に自分が通い出してその原因がわかった。

 それは昼休みに裏庭で姉と兄にいたぶられていた時だった。

 

 この容姿のせいで、学舎に通い出した途端に僕が皆の注目を浴びてちやほやされているのが、姉達は気に入らないかったらしい。

 妾の子のくせに身の程を知れと罵られ、足を蹴られた挙句、二人に掌を向けられた。

 彼らはそこから炎を発射されることがでにる。それを父から教えられていたので、僕は大きく一歩後退した。

 二人を排除するなんて簡単なことだったが、人前で魔法を使うのは避けたかった。

 体力強化魔法を掛けて、炎の攻撃をされる直前に逃げようと思っていた。

 まあ、彼らの使う炎なんて薪一本を燃やせるかどうかくらいの威力もしかないらしいが、火傷するのはさすがに嫌だったから。

 

 しかし、そこへターリャ先輩が現れて二人を怒鳴り付けてくれた。

 

「たった一人で見知らぬ土地にやって来たばかりの弟を守るどころか虐めるだなんて、どういうつもりよ。

 あんたたち最低ね! 

 次にまたこんなことをしたら、今度こそハルトンおじさまに言い付けるわよ! ヨアンナを虐めていたこともね」

 

 姉達は、さすがに顔色を悪くして走って行ってしまった。

 それにしても、まさかヨハンナ嬢が姉達に虐められていたとは。そのせいで学舎を休んでいたのか!

 いくら知らないとはいえ、同じ三守護家の人間を虐めるなんて、それこそバチがあたるぞ。何やっているんだ。僕は頭痛がしてきた。

 眉間にシワを寄せて渋い顔をしていたからだろう。ターリャ先輩は心配そうに僕を見た。

 そして僕を井戸の所へ連れて行って、靴で蹴られて黒ずんでいる左足を漱いでくれた。

 

「保健室へ行く?」

 

 と聞かれたので首を横に振った。体力強化魔法を使っていたので、実際は血も出ていなかったし、それほど痛くなかったからだ。

 助けてもらった礼を言うと、当たり前のことをしただけだとターリャ先輩は笑った。

 とても綺麗な少女で、ヒラリス様によく似ているなと思った。

 彼女が次代の白龍姫じゃないかと父は言っていたが、そうじゃないことを僕を知っていた。

 

「私の妹があなたと同じ年なんだけれど、あの二人に虐められるから学舎に来たがらないの。

 守ってやってなんて無理なことを言うつもりはないけれど、せめて友達になってくれないかな。

 友達がいれば辛いことがあっても少しは頑張れると思うから」

 

「妹さん、友達がいないのですか?」

 

「妹のヨアンナはとても良い子なのよ。でも大人しい子で人見知りなものだから、自分からはなかなか声をかけられなくてね。

 自慢するわけじゃないけど、すごく頭が良いから、同級生達とは話が少し合わないみたいなの。

 あなたはかなり優秀だって先生達が言っていたから、話が合うんじゃないかと思うんだけど」

 

 その話は願ったり叶ったりだった。僕はヨアンナ嬢のことをもっともっと知りたいと思っていたからだ。

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ