表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/32

第19章 父親視点③

 

 なぜハルトン=キンペリーが?

 彼は二つ年下の後輩で、やはり生徒会役員だった。

 明るい金髪に空色の涼しげな瞳のいわゆるイケメンで、学舎一のモテ男だった。

 彼は誰にも親切で優しかったが、ヒラリス=オーリス嬢に対する接し方は、他とは一線を画していた。

 彼が彼女をどう思っているのかは一目瞭然で、二人を見るともやもやしてしまうので、できるだけ近付かないようにしていた。

 

 彼もまた文武両道で優秀な男だったので、学園に入ったであろうことは推測できた。

 だからこそ驚いたのだ。彼もまた、遠方にいるというのにヒラリス=オーリス嬢が危機に遭遇したと感じ取ったのかと。

 彼も夢を見たのだろう。

 ああ。ハルトンもショータン先輩も三守護家の人間だったことを思い出した。父の言っていた話は真実だったのか。

 

「それでハルトンは家に電話をして、オーリス家の様子を見に行ってくれと頼んだようだ。

 そうしたら、ヒラリス嬢が行方不明になったと大騒ぎになっていたらしい」

 

「行方不明?」

 

 夢と同じだ。俺はベッドからおりて立ち上がった。

 

「先輩! おそらくヒラリス嬢は馬車で誘拐されたと思います。

 ああ、何となくですが、こちらに近付いて来ているような気がします」

 

 不思議だがそんな気がした。すると、何の根拠もない俺の話を先輩は素直に頷きながら納得していた。

 そして近付いて来て俺の耳元でこう囁いた。

 

「これはおそらく国が関わっている。もしかしたら騎士団も犯罪に関わっているかもしれない。

 だからあまり騒ぐな。俺達だけで行動する。分かったな?」

 

 先輩は何か確証があるようだった。俺は彼を全面的に信頼していたのですぐに頷いた。

 そして体調不良だからという理由で休暇届を提出した。

 俺はこの三年近く一日も休んだことがなかく、有休はかなり溜まっていたので、すんなりと了承された。

 

 俺は一着しかない私服を着て、ショータン先輩と共に繁華街の外れの古びた一軒の店に入った。

 そこはツーホーク領出身の夫婦が営む賄い付きの宿屋だった。

 学園に入学するために郷里から出てきた者が、王都で初めて宿泊する場所だという。

 そして困ったことがあるとまず相談する場所でもあるらしい。

 

 俺は誰にも相談することなく王都へ出て騎士団に入ったから、それを知らなかった。

 もし知っていたらどれほど心が慰められたことだろう。

 故郷に良い思い出なんか全くなかったが、初めて食べた郷土料理というやつは、なぜか懐かしい味がして美味かった。お袋の味なんて知らないのに。

 食べ終わった頃、相変わらず、いやますますイケメン度を増した姿でハルトンが現れた。

 

 

「先輩方、遅くなりました。ケント先輩、ご無沙汰しています」

 

「ああ。こちらこそ」

 

「先輩、ショータン先輩から話を聞いたと思うのですが、僕は一昨日というか、昨日の朝方夢を見たんです。

 ヒラリス嬢が数人の体格のいい男達に囲まれている様子を。

 それで心配になって家に電話して調べてもらったら、ヒラリス嬢が行方不明だとオーリス家では大騒ぎになっていたんです」

 

「彼女は護送用の堅固な馬車に乗せられた。あれはかなりスピードの出るやつだ。

 普通馬車だと王都まで五日以上かかるが、あれなら三日で到着するな。

 誘拐されたのが一昨日の午後だとしたら、明日の夕方までには王都に着くぞ」

 

「そんなに詳細まで分かったのですか?」

 

「あれが単なる夢でなかったら、だがな」

 

「護送車だとしたら途中で検問にも関所も関係ないから、人攫いにはちょうどいいな」

 

「なぜ国がそんな犯罪まがいの真似をするんですか? 彼女が白龍姫の可能性が高いからですか?」

 

 ハルトンは眉間にしわを寄せながら先輩に訊ねると、ショータン先輩は思いがけないことを言った。

 

「おかしいと思わないか?

 この国はドラティア神を唯一神として、それ以外の神を認めない。だから我々の故郷の白龍姫の伝承を断ち切ろうとした。ただのおとぎ話だとして。

 それなのに、なぜ今さら現世の白龍姫だと噂されているヒラリス嬢を誘拐したのか。

 おそらく真の目的は彼女というよりは、守り人である私達の方だと思う」

 

「「えっ?」」

 

 あまりにも想定外の話に俺とハルトンはあ然とした。俺達ってどういう意味だ?

 学生のハルトンともかく、俺は騎士でショータン先輩は国の役人だ。国の命令があればそれに従う。

 それなのに、なぜ犯罪を犯してまで彼女を必要とするのか。

 

「ケントは知っているだろう? 北方で魔物が増えているって話を」

 

「ええ。辺境騎士団と魔物討伐隊が対応しているはずですが、ずいぶんと長引いていますよね」

 

「一進一退を繰り返していると報道されているが、実際はじりじりと後退を余儀されているのだ。

 決定打が見つからず、このままでは数年後には都市部にも入り込まれるんじゃないかと言われている。

 報道規制がされているから、一部の人間しか知らないなが」

 

「相当まずいんじゃないですか?

 そんな状況では死者も増えているじゃないですか?

 俺はまだ耳にしていませんが、騎士団も応援要請をされているのでしょうか?」

 

「いや、今はまだないだろう。東の国が軍備を増強させているという情報もあるし、騎士団はそちらで手一杯だろうからな」

 

「それなら魔物討伐はどうするんですか?」

 

「それだよ。おそらくだが、国は魔力持ちにその対応をさせようとしているのさ」

 

 先輩の言葉になるほどと思ってしまった。たしかにそれは理に適っている。

 しかし、この国の魔力持ちなんてたかがしれているぞ。

 俺がそう思った時だ。ハルトンが怒りに満ちた顔をしてこう言った。

 

「つまりこの国は、ツーホーク領の守護三家の血を引く魔力持ちを魔物討伐の兵士に招集するために、我々の主であるヒラリス嬢を拐ったということですか?」

 

 なんだと!

 

「おそらくハルトンの言う通りだと思う。

 そしておそらく、その姑息で卑怯な策を考えたのは私の父だろう。半月前に父親が私にも告げずに登城していたところを偶然見かけたんだ」

 

「だからといって、必ずしも領主様が自ら提案したとは限らないのではないですか?」

 

 あの領主ならあり得る!と思ってはいるのだろうが、先輩を気遣ってハルトンはそう言った。

 しかし、先輩は哀しげな笑みを浮かべて力無く頭を横に振った。

 

「たとえ白龍姫の伝説を知っていても、国が特殊能力のある守り人のことを知っているとは到底思えないよ。

 四家の当主とその後継者しか知らない秘匿情報なのだから。

 父がわざとその作戦を売り込んだだろう。見返りはツーホーク領への援助だと思う。

 祖父の時代には上向きだった領地経営も、父の代になってからは自然災害が続いてかなり落ち込んでいて、領民の不満がかなり高まっているからな」

 

 前領主の父親同様にその息子である現領主も、どうやら同じく売国奴の鬼畜野郎だったようだ。

 自分の息子を含む守護三家の子孫を根絶やしにする気か?

 うちの父親とは正反対の考え方だが、クズ親であることは間違いない。

 

「私はケントやハルトンに比べると、守り人としての力はかなり弱いと思う。おそらく君達のような聖龍騎士ではないのだろう。

 それでもヒラリス嬢が危機状態に陥れば、胸を掻きむしりたくなるように苦しくなって、居ても立ってもいられない気分になっている。

 あの男が白龍姫の救出のためだとして兵士を募れば、多くの領民が志願してくるだろう」

 

「ふざけるな!

 そもそも自然災害が多いのは、四神の怒りだろう。あの罰当たり野郎!」

 

 年下のくせにいつもは余裕あるように見せているハルトンが、いきり立って叫んだ。まあ、俺も同感だった。

 

「私も父をさっさと引退させようと考えていたんだ。しかし、国の情勢が不安定なこの時期に、まさかこんな陰謀を起こすとは思わなかった。本当に腹立たしいよ」

 

「被害者が出ないうちに、俺達三人でヒラリス嬢を救出しよう。

 近衛の奴らに魔力持ちはいないと思う。だから俺達三人で対処できると思う。王都に入る直前の街道で待ち伏せするんだ」

 

 俺はそう提案した。俺はこの国の騎士の能力をよく分かっているのだ。

 何故なら、俺は普段自分の本来の力の十分の一も出さずに、色々な大会で相手を打ち負かしているからだ。

 もちろん全力を出し切っている振りはしてはいるが。

 おそらく、ショータン先輩やハルトンも学園では本来の力を出してはいないはずだ。

 それでも軽く相手をやっつけているに違いない。この三人がいればヒラリス嬢を救出できるだろう。

 そう俺は思ったのだ。

 

 ところが、予想外の事が起こった。馬車が突然走る方向を変えたのだ。

 これまで段々と近付いてきたヒラリス嬢が、むしろ反対に遠ざかって行くのを感じた。

 

「一体どこへ向かうんだ!」

 

 俺が思わずそう叫ぶと、先輩はきょとんとしだが、ハルトンも顔色を変えた。彼もそれを感じ取ったのだろう。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ