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第17章 父親視点①

 

 俺はほんの子供だった頃からずっと、大人になっても結婚はすまいと考えていた。だから当然子を持つなんてあり得ないと思っていた。

 俺は守り人欲しさに父親が無理に作った子供だった。

 父は家のしきたりを重んじただけかもしれないが、そのせいで母親は死んだ。

 母親を亡くした兄や姉達は、生まれてきた俺を憎んだ。母親の身内もだ。

 国の命令に反することだから、父は身内にも守り人のことは秘密裏にしなくてはならなかった。

 だから、彼らは俺が生まれた経緯を知らなかった。それ故にそれは仕方のないことだっだのかもしれない。

 

 しかし、父親はさっさと再婚してその継母に俺を任せて庇ってもくれなかった。

 幼い頃から喘息持ちの上にすぐに熱を出す俺を継母は鬱陶しがったが、実の子ではなかったのだからそれも仕方のないことだっただろう。

 それよりも、こんな弱い子は守り人のわけが無い。こんな子のために妻を亡くしてしまったと、言い放った父親を俺は一生許す気はない。

 そもそも俺の体が弱かったのは、生まれてすぐに放置されたせいだ。

 それを教えてくれたのは俺を取り上げてくれた産婆のケリーさんだった。

 

「あんたの母親は嫌々あんたを産んだじゃないよ。

『どの子も自分の子は可愛いが、このお腹の子は特別に愛おしく感じるの。

 そう。特別な子だと思う。優しくて強くて、たくさんの人を助ける人間になるわ』

 そう、言ってたよ。だから母親の期待を裏切ったらいけないよ」

 

 彼女はそう俺に言った。それは本当の話だって、ずいぶん後になってわかった。

 なぜあの時ケリーさんのその言葉を信じなかったのかと、俺はその後酷く悔やんだよ。

 しかし、当時ひねくれていた俺にはとても信じられなかった。

 ただ哀れな俺を慰めようと作り話をしただけだろうって。

 守り人がどんなものなのかも知らなかったしな。

 

 俺は死なないように最低限の飼育だけはされていたが、そこに家族の愛情なんてまるでなかった。

 そんな育てられ方をした俺が、まっとうな夫や父親になれるとはとてもじゃないが思えなかったのだ。

 

 とにかく俺は早く家を出たくて、一生懸命に勉強し、体も鍛えた。

 運がいいことに学舎に入ってからはいい先生や先輩方に出会えたのだ。

 特にショータン=メシトウという名の三つ年上の先輩にはよく面倒を見てもらった。

 彼は領主の跡取りである侯爵令息で、本来ならいくら名家とはいえ、平民になってしまった家の息子の俺が関わっていい相手じゃなかった。

 

 ところが、メシトウ家は領民からは嫌われていた。彼の祖父がこの地を裏切って隣国と手を組んだせいで、独立国から他国の一領土になってしまったんだからな。

 以前より豊かになったのはほんのいっときだけで、それ以降は徐々にまた貧しくなっていった。

 そのことで、領民の不満は全てその裏切り者の家へと向けられるようになっていたのだ。

 ただし、当時の当主も相当強気で決して退かない性格だったから、表立って批判する者はいなかった。

 そのため、人々の鬱憤は彼の子供達へ向けられた。もちろん領主の子女に対して攻撃するような愚か者はいなかったが。

 周りの人間達はただただ無視を決め込み、彼らに命令や指示をされても生返事でやり過ごしていた。

 

 祖父や父親と似たような性格の次男は、そんな領民に対して怒りを露わにしていたが、彼を相手にするような者がいなかったので、一人空回りしていた。

 ところが嫡男であったショータン先輩は、文武両道の優れ、その上性格も素晴らしかった。

 穏やかで優しく、誰にも公平に接していた。どんなに相手に疎まれていたとしても。

 

 当時、彼自身が守護三家の人間であることを自覚していたのかどうかはわからないが、俺の環境は理解していたのだと思う。

 だからこそ同情したり哀れむのではなく、やる気があるなら教えてやるよ、というスタンスで勉強や剣を教えてくれた。

 毎日無理のない程度にコツコツやるのが一番だと彼は言った。

 体の弱かった俺が徐々に丈夫になれたのはそのおかげだったと思う。

 

 十二の頃には魔法も使えるようになっていた。それは体力強化と、いわゆる「緑の手」と呼ばれる植物の成長を促す力だ。

 俺はこの緑の手の力でずいぶんと助けれられた。家族に度々嫌がらせをされて食事を抜かれることがあったからだ。  

 そんな時は芋類や果物の木の成長を促して、それを採取して飢えを凌いでいたのだ。

 

 この力を知っていたら、父は俺が守り人だということに気付いたことだろう。

 しかし、俺は自分の能力を家族にはひたすら隠し続けた。利用されることを恐れたからだ。

 学舎を卒業した俺は王都へ出た。

 兄や姉達のうち、試験に合格した者は王都の学園に入学していた。

 それ故に一応名前だけの息子である俺にも試験を受けてみろと父は言った。俺の成績が良かったために、世間体を気にしたんだろう。

 

 俺は素直に旅費と受験料、そして宿泊費を受け取って王都へ向かった。

 しかし受験したのは学園じゃなくて騎士団だった。俺はあの家とは縁を切りたかったからだ。

 そして俺は筆記と実技の両方でトップの成績を取って見事合格したのだ。

 

 自慢ではなく俺はあっという間に頭角を現した。二年後には准尉となり小隊長になっていたからな。

 准尉といえば、下士官の最高位であり、少尉や中尉などのエリート士官よりは下ではあるが、実力で言えば上である。

 つまり実際は彼ら上官を指導する立場であり手当ても多かった。

 

 なにせ魔力持ちで体力強化ができたので周りの誰よりも強かったのだ。この国に魔力持ちはほとんどいなかったからだ。

 まあ魔力など使わなくても、剣術などの武道大会で優勝を総なめするくらいの腕前だったが。おそらく、将軍クラスと戦っても負けなかっただろう。

 

 しかし、力を持っていたからといって俺は分をわきまえていたから、本気を出してわざわざ目立つ真似や、偉そうに振る舞うことはしなかった。

 職場では控え目にし、誠実に仕事をこなしていたので、上司な仲間からの信頼も高かったために出世も早かったのだろう。

 

 そんなある日、突然俺は激しい胸痛に襲われた。呼吸ができないほどの痛みで、脂汗が浮かぶほどだった。

 はあはあと荒い呼吸を繰り返しているところを仲間に発見されて病院へ運ばれた。

 ところが俺の体に異常な点は見当たらず、精神的なことが原因だろうと言われた。

 精神的なことと言われても自分にはさっぱりその要因が思い付かず、俺は困惑したんだ。

 

 

 

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