第14章
久し振りの投稿になり、すみませんでした。
父様の考えも少しは理解できた。自分の体が弱くなるに従って不安も大きくなっていったのだと思う。
だから自分にもしものことがあった時、妻子が助けてもらえるように、親類や友人達に恩を売っておこうと考えたのだろう。
しかし、世の中人から受けた恩恵に感謝する人達ばかりじゃない。当たり前だと捉えて感謝さえしない奴らだって大勢いるはずだ。
例の騎士団時代の後輩連中を見ればわかるじゃないの。恩を仇で返すようなクズもいるわ。
虐げておきながら厚顔無恥にも金を要求してくる親類も。案の定、うちの生活が苦しくなってからは近寄りもしないじゃないの。
「男主のいなくなった家には誰も寄りつかなくなるわ。付き合ってもメリットがないからね。
世間ってそういうものなのよ。だから他家の人間を当てになんかしてはだめよ」
以前、両親がいない時にサーラ姉様が私達兄弟に向かって言ったことがあった。
あの時はまだ幼くてその意味がよくわからかなったが、今ならその意味がよくわかる。
サーラ姉様やリーラ姉様があんなに苦労をしているのに、父様は一体何をしているんだ。
母様を守ろうと思うなら、その母様が大切に思っている子供を守ってよ!
初めて私はそんな風に思った。私は自分が満足していたから、姉様達の辛さを真の意味で理解していなかったんだわ。
私はルーディー君が好き。もし彼と口もきけないような事になったら辛くて耐えられなくなると思う。
サーラ姉様はマータン先生のことを学舎に通っている頃から好きだったのだろう。
でも付き合うことを禁じられていたから、たわいない会話さえ憚ってきたに違いない。
しかも先生に婚約者ができてからはなおさらだったと思う。
好きな人が婚約者と睦まじくしている姿を街中で見たり噂を耳にすることは、耐えられないくらい辛かったはずだ。
姉様は口数が極端に少ない。だからこそ口にした内容には重みがある。先の話もそうだ。
そう考えると、一年前に王都に出て騎士になりたいと言い出した時、それは思いつきで言ったのではなく、真剣に考え抜いた結果だったのだろう。
姉様は家計を楽にしたいから騎士として働きたいと言った。そして、ツーリィー兄様を学園に入れたいのだと。
でもそれだけではなく、ここにいたくなかったのだと思う。
マータン先生と顔を合わせたくなかったから。
姉様は父様に大反対されたことにショックを受けていた。でも、父様からすれば反対する理由はちゃんとあった。ならばそれを正直に伝えていれば良かったんだ。
私はその話をルーディー君に話した。
「父様が王都へ行くのを反対したのは、サーラ姉様やツーリィー兄様が人質に取られることを恐れたからだよね?」
「うん、そうだろうね」
「それなら、その理由をきちんと姉様達に話せば良かったのよ。
母様には内緒にしたとしても。そうすれば他の解決策も見つかったかもしれないのに」
「不器用なんだろうね」
「そんな一言ではすませられないよ。姉様が可哀想過ぎる。
私、ルーディー君に教えてもらったことを、上の二人の姉様達に話そうと思う。
サーラ姉様とリーラ姉様が今ここに残っているのって、無意識で私を守ろうという意識が働いているからだと思うの。
サーラ姉様のことだけしゃなく、リーラ姉様にも隣国出身の恋人がいてプロポーズされているみたいなの。それなのに、まだ早いって断っているみたいだから。
改めて振り返ってみると、私って姉様達にはとても大事にしてもらっていた気がするの。
キンペリー姉弟に暴力を振るわれそうになった時も、どこからか現れて助けてくれていたし、学舎を休んでいる時も、二人だけは責めなかったし。
申し訳ないんだけれど、ルーディー君にもそれに付き合ってもらえると嬉しいんだけれど」
可愛い子ぶりっ子するつもりはなかったのに、まるであざとい子のような上目遣いで彼を見上げてしまった。だって本当に恥ずかしかったんだもの。
すると、ルーディー君はすぐに了解してくれた。ただし、ちょっと考えがあるので、話をするのは一週間後にしてほしいと言われた。
そしてその一週間後、私はサーラ姉様とリーラ姉様に買い物を強請って家を出た。
その日に決めたのは、二人の休みが珍しく合っていたことと、ターリャ姉様が友人の家に遊びに行くことを知っていたからだ。
「何が欲しいの? 分かっていると思うけれど、高価なものは無理よ」
「何も休みの日にわざわざ出かけなくても、私の仕事がある日の休憩時間にお店に来ればいいでしょ」
「姉様達とお出かけしたかったんだよ。近頃どこへも出かけていなかったから」
私がそう言うと
「そういえばターリャと違って、ヨアンナには一緒に遊びに出かける友人がいないものね」
二人は笑みを浮かべて、少しだけからかうようにそう言ったので、私は少しだけむくれて言い返した。
「私にだって大切なお友達くらいいるんですよ。
実はね、そのお友達に会ってもらいたくて姉様達を外へ連れ出したの」
「まあ、お友達ができたの? それは良かったわね。でも、それならうちに呼べば済んだ話じゃないの?」
「父様と母様には知られたくない家の子なの」
姉様達はそれを聞いて顔を見合わせて、眉を顰めた。
顔立ちはあまり似ていないのに、よく似ている仕草をしたものだから、やっぱり姉妹なんだなあと思った。
二人とも、その友達が誰なのか察したようだった。
そして自分達も親に内緒の恋をしているので、私を咎めずに
「「あなたもなの?」」
と、二人同時にため息と共にそう呟いていたのだった。
すでに暦の上では秋になっていたが、昼間はまだ暑い。
露店で搾りたての果実水を四つ注文した。
サーラ姉様はリンゴ、リーラ姉様はオレンジ、私はモモとブドウを注文した。私は好き嫌いがないので、ルーディー君には好きな方を選んでもらおうと思った。
「ねぇ、どこで会うつもりなの?」
「聖堂の裏のベンチ。もうすぐ着くわ」
「裏といっても屋外で会うと目立つんじゃなくて? あの苛めっ子に知られるとまずいんじゃないの?」
「大丈夫よリーラ姉様。彼ね、魔法使いだから」
「彼だって」
「おませな子ね。私も一度言ってみたいわ。でも一生無理かも」
「そんなことないわよ。あんな奴さっさとあきらめれば、すぐにできるわよ」
「それができるくらいなら苦労しないわ」
姉様達とそんな会話をしがら聖堂の裏手に回ると、そこには既にルーディー君が待ってくれていた。
「姉様、こちらはルーディー=キンペリーさん。
春に王都からやって来た転校生で、私の大切なお友達です。
ルーディー君、こちらが一番上の姉サーラと、二番目の兄のリーラです」
「はじめまして。ルーディーです。僕はヨアンナさんの友人であり、聖龍騎士です」
姉達が固まった。しかしそれは彼の言葉に反応したわけではなく、近付いてきた彼の匂いに衝撃を受けたからだったみたいだ。
私達は聖堂の建物の陰になって日の当たらないベンチに二人ずつ座って、まず落ち着こうと果実水を飲んだ。
ルーディー君がモモを選んだので、私が思わず意外そうな顔をしたからか
「なかなか自分ではモモを選べないから。ブドウも好きなんだけれどね」
と言った。なるほどね。女の子だけでなく男の子も色々面倒なんだなと思った。
「この一帯には僕が魔法で認識阻害魔法と防音魔法をかけてあるので、気にしないで会話してください」
ルーディー君がこう言うと、姉達は再び絶句したのだった。
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