82.墓参り
俺は、敬吾と一緒にバスに乗った。マツバの墓が少し離れているためだ。
俺と敬吾は、バスの中で色々な話をした。マツバや病気の話だけじゃなくて、学校とか、高校はどんなところに行くのかとか、友達の話とか、成績とか部活の話とか。
「僕はさ、別に兄貴の夢を継ぐとかじゃないんだけど、看護師になりたいなって思ってる」
そう、優しい声で言った敬吾の顔が印象的だった。
きっと、敬吾も色々と思うところがあったんだろう。俺なんかよりずっと成績はいいみたいだし、敬吾みたいな優しい奴なら素敵な看護師になれそうだ。
「ハヤトはサッカー選手だろ?」
「もちろん! 中学で全国は行けなかったけど、高校では絶対行ってやるからな。有名になって、プロリーグに入ってやるから見てろよ!」
「すごいなぁ。今のうちにサイン貰っておこうかな?」
「プロになってからだって、いくらでも書いてやるよ! まぁまずは……高校が受かるかだけどな」
思った通り、スポーツ推薦は無理だったから、最近は真面目に勉強をやっている。母さんには勉強時間が少ないって言われてるけど。
そんなこんなを話していたら、目的の場所に着いたみたいだ。バスから降りて少し歩くと、墓場にやってきた。
墓の数は多くて広いけど、どこもかしこも綺麗に手入れされてある。雲ひとつない青空も手伝って、墓場だけど明るい雰囲気だ。
「ここに兄貴が眠ってる」
ひとつの墓の前まで来ると、敬吾がそう教えてくれた。敬吾は慣れた様子で、新しい花と水に替えている。
俺も線香をつけると、マツバの墓の前で手を合わせた。
ああ、やっと会えたなマツバ。
俺は退院して、元気にやってるよ。
ずっと応援していてくれて、ありがとうな。
俺はそうやって長い間手を合わせていた。
そりゃあ、最初に思い描いていた会い方ではなかったけど……それでも、マツバは喜んでくれている気がして。
「また、来るよ。頑張るから、見ていてくれよな」
そう言って、俺は手を下ろした。
空を仰ぐと、そこにマツバがいるような気がして。
俺は、太陽に笑いかけるようにして、その場を後にした。
敬吾に送られて旅館まで戻ってくると、ちょうど夕食の時間だった。
父さんも真奈美もみんなも、心配してくれてたみたいだ。一様にホッとした顔で俺を迎えてくれた。
「よし、じゃあ食おうぜ!!」
部活でもムードメーカーの智樹が、そう言って手を合わすと、さっさと食べ始めた。
「やべぇ、この海老の刺身うめぇええ!!」
そう言いながら、智樹は舟盛りの刺身をごそっと自分のお皿に移し替えている。
「智樹!! お前、取り過ぎだろ!!」
「こんなのは早いもん勝ちだ!!」
「あ、ずるいぞ!!」
舟盛り戦争が始まったのを、女子は呆れたように見ていて、父さんは楽しそうに笑っている。
「もう、颯斗……落ち着いて食べないと、変なところに入っちゃうよ?」
「智樹君も、いっぱい取り込むのは良くないと思うんだけど……」
そんな真奈美や篠原の言葉を無視して、俺と智樹は食い争った。
食われた悔しさなんか実はなくって、ただ面白くて。相手のおかずを狙って、ぎゃーぎゃー言いながら最後まで食べ進めたんだ。
こんなに笑いながらご飯を食べたのは、初めてだったかもしれない。
「うげー、もう食えねー」
「うえっぷ……俺もー」
「ちょっと、二人とも食べ過ぎだよ!!」
「けど、すごく量が多かったわね。私も食べ過ぎちゃったわ」
旅館のご飯はめちゃくちゃ美味しくて、みんなも大満足だったみたいだ。
少し腹がこなれてから、男女分かれて温泉に入り、その後は卓球で遊んだ。
当然のことながら俺と智樹は負けず嫌いなので、汗だくになりながら勝負した。最終的には俺が勝ったけどな。
汗臭くなったから、仕方なくもう一回温泉に入って出た後、みんなでトランプをして遊ぶ。
何回目かの勝負の後、俺は勝ち上がりの札を置いて立ち上がった。
「ちょい喉乾いた。やってて、ジュース飲んで休憩してくる」
「おい、勝ち逃げはナシだぞ!」
「おー、戻ってきたらまた負かしてやるよ!」
悔しそうな顔する智樹を見て笑ってやる。背中の向こうの智樹は、さらに悔しがってるだろうな。
俺は財布を持つと、旅館の廊下を歩いて自動販売機の前に立つ。
ガチャンと音がして、スポーツドリンクを手に取ると、近くに置いてあったソファーにゆっくりと腰を下ろした。




