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再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜  作者: 長岡更紗


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80.旅行したい

「ダ・メ・で・すッ!!」


 母さんが、鬼のように目尻を釣り上げてそう言った。

 俺は今、仁王立ちしているそんな母さんの前で正座している。

 石川県へ智樹や真奈美と一緒に行きたいと伝えたら、やっぱりというべきか、母さんはものすごく怒ってしまった。


「子どもだけで一泊旅行なんて、三年は早いッ!! しかも真奈美ちゃんも一緒に?! 許可できるわけないでしょ!!」

「別に、なにもしないよ」

「当たり前でしょ!! よそ様の女の子に手を出すような真似、責任が取れる年になるまで許さないからね!!」


 母さんが怖い顔でまくし立ててくる。そんなに怒って言わなくても、ちゃんと理解はできてるんだけどな。


「まぁまぁ母さん、颯斗だってみんなと旅行にくらい行きたいだろうさ。修学旅行にも行けなかったんだから」


 隣で聞いていただけの父さんが、ようやくここで口を開いてくれた。

 父さんは結構甘い……いや、俺のよき理解者だから、きっと味方になってくれるはずだ。


「だからって、子どもたちだけで行かせられるわけないでしょう。しかも石川県だなんて、遠過ぎよ!」

「んー、じゃあ俺が颯斗たちを引率するよ。それなら母さんも安心だろう?」

「は、はぁ!?」


 母さんの鬼のような仮面が、ぐにゃりと歪に崩れた。

 俺は余計な口出しはせずに、心の中で父さんを必死に応援する。


「なにを言ってるのよ、女の子もいるのよ!」

「修学旅行だって女の子がいるだろう」

「そ、そうだけど……でも個人的な旅行と修学旅行じゃ違うじゃない」

「そうか? 引率する大人がいるなら修学旅行とそう変わらないだろう」

「でも……」

「行かせてやろう。マツバ君の墓参りには、俺もいつか行かせてあげたいと思ってたんだ」


 最後の父さんの言葉に、母さんはグッと言葉を詰まらせている。

 俺と父さんがじっと母さんの目を見つめると、根負けした母さんが大きく息を吐いた。


「……お母さんは、旅行の費用は出しませんからね。自分たちでなんとかしなさい」

「ホントに!? 母さん!」

「真奈美ちゃんのご両親が納得するかはまた別ですからね!! お母さんは知りません!!」

「うん、わかってる。ありがとう母さん!!」


 俺が礼を言うと、母さんは不機嫌顔でプイと台所に戻っていった。


「よかったな、颯斗」

「うん、ありがとう父さん!! 俺の今まで貯めてた小遣い、全部使っていいから!」

「まぁ夏のボーナスも残ってるし、大丈夫だ。で、友達は誰を呼ぶんだ? 車で行くから、四人までしか乗せられないが……」


 多分、電車で行く方がお金が掛かるからだろう。そこについて文句を言うつもりはない。

 俺含めて四人も乗せてもらえれば十分だ。


「うーんと、智樹と……真奈美が来られるなら、真奈美の友達を一人呼んだ方がいいかな」

「そうだな。友達が行きたいって言ったら、父さんに教えてくれ。友達のご両親には、父さんが直接行って挨拶してくるよ」

「え!? そこまでしてくれんの??」

「親としてはどんな人間が引率するのか、見ておきたいだろ? 大丈夫、仕事用のスーツで行くから、きっと信頼してもらえるさ」


 ちゃんと色々考えてくれてたんだ。ニッと笑う父さんが、やたらかっこよく見える。


「父さん、スーツ着ると真面目に見えるからな!」

「見えるだけだけどな! ってなに言わす!」


 父さんのヘッドロックを食らって、ギブギブと手を叩きながら伝える。

 その横で香苗が恨めしそうな目でこっちを見ていた。


「いいなぁ、お兄ちゃんは……香苗も旅行したかったなぁ〜」


 そう言われて、罪悪感が芽生えてしまった。置いていかれるのは、そりゃあ嫌だよな……。


「ごめんな、香苗。お土産買ってくるから」

「まぁ、また今度家族で旅行しよう! 母さんが怒るような旅行より、みんなで笑って行ける旅行の方が香苗もいいだろ?」

「父さん、そんなこと言ってお金は大丈夫なのか?」

「うっ……ま、まぁ家族旅行なら、母さんも家計からお金を出してくれるだろ……」


 最後の最後で威厳のなくなってしまった父さんだけど、香苗はそれで一応の満足は得られたみたいだ。


 それから俺は真奈美と智樹に旅行の打診をして、真奈美の友達も一人誘ってもらった。

 全員の家に父さんと一緒に挨拶をしに行くと、父さんの真面目なスーツ姿に安心したのか、最終的にはみんなの両親も許可してくれたんだ。


 俺はマツバの弟の敬吾に日程を伝えて、向こうで会うことになった。

 これでようやく、マツバと会う約束を果たせるな。

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