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再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜  作者: 長岡更紗


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75.真奈美と登校

 朝、制服に着替えるとちょっとドキドキしてきた。

 久しぶりの学校だ。智樹や一部の奴らは写真を撮って送っているから、俺がつるっぱげなことはわかってる。

 鏡に自分の姿を写し出すと、今までの俺とはやっぱり違っていた。

 髪の毛はないし、体重も戻ってきているとはいえ、制服に厚みが感じられない。もう退院したとは言え、見た目は完全なる『病人』だった。


「……気にしても仕方ないよな」


 髪の毛はこれから生えてくる。運動すれば体だって元に戻るはずだ。

 もしなにか言ってくる奴がいても、堂々としていればいい。俺はなにも、悪いことなんてしてないんだから。


 そろそろ真奈美が来るかなと玄関で待っていたら、母さんがマスクを持ってきた。


「颯斗、ちゃんとマスクしなさい」

「ええ〜?」

「『ええ〜』じゃない! もうしばらくはちゃんとマスクはしておいて」

「ちぇー、わかったよ」


 マスクをすると、更に病人っぽくなるから嫌なんだけどなぁ。

 でも風邪を引いてまた入院は嫌だから、仕方なく言うことを聞く。そうしてマスクを着けると、父さんがニヤニヤと近づいてきた。


「お、そろそろ彼女が来るのか?」

「……多分ね」


 父さんはネクタイを締めながら、玄関から動こうとしない。

 まさか、真奈美が来るのを待つつもりかよ?!

 俺がデレデレしてたら、あとでめっちゃからかわれそうだ。しっかりしとかないと。

 そう思っていたら、ピンポンとチャイムが鳴った。


「はいっ」


 すかさず扉を開けると、そこには真奈美が立っていて。


「おはよう、颯斗!」


 朝日を受けてキラキラと輝く、真奈美の笑顔が眩しい。


「はよ、真奈美」

「颯斗君のお母さん、おはようございます」

「おはよう、真奈美ちゃん。颯斗のこと、よろしくね」

「はい!」


 あれ? 母さんも真奈美もニコニコ顔だ。思ったより、二人の仲は良好そうだぞ。


「おはよう、真奈美ちゃん」


 そして後ろからもう一人……父さんだ。


「あ、颯斗君のお父さんですか? 初めまして、おはようございます!」

「へぇ、しっかりしたかわいいお嬢さんじゃないか。やるなぁ、颯斗!」

「うるさいなぁっ、もう」


 俺は父さんのお腹のあたりをグイと押しやって、家の中へと押し込む。父さんは「褒めてるんだぞー」と言いつつ、しょぼしょぼと戻っていった。

 振り返ると真奈美は笑顔で俺を見ている。かわいいと言われて少しご機嫌のようだ。


「行こう、颯斗!」

「おう。行ってきます!」

「行ってらっしゃい」


 母さんに見送られて、俺は真奈美と家を出た。一緒に帰ったことはあるけど、一緒に登校は初めてだ。

 真奈美は俺の顔を見て、嬉しそうに微笑んでいる。

 嫌じゃないのかな、ってふと考えてしまった。隣にいるのがいつもの俺じゃなくて、つるっぱげの明らかに病人の姿で。

 真奈美とはずっと会っていなかった。だからこんな俺の姿を見て、内心ショックを受けてるんじゃないか……そんな風に、不安になってしまったんだ。

 俺は無言で真奈美との距離を少し取った。今の俺じゃ、隣に並ばれるのが嫌かもしれない……そんな風に思って。

 けど距離を空けると、その分真奈美が近寄ってくる。また俺は距離を取る。真奈美は近寄ってくる。

 ちら、と真奈美を見下ろすと、「どうしたの?」と彼女が首を傾げて見上げてくれた。嫌じゃ……ないのかな。


「颯斗、あのさ……手、繋がない?」

「手?」

「綺麗に洗ってきたから! い、嫌ならいいんだけど……っ」


 真っ赤に顔を染めて、右手をブンブンと左右に振っている真奈美。嫌がっているかも、なんていうのは、俺の勝手な思い込みだった。

 そうだよな。真奈美はずっとこの日を待っててくれたんだもんな。


「ん」


 俺はその真奈美の右手をパシっと取って、手を繋いだ。恋人繋ぎってやつは、恥ずかしくてできなかったけど。それでも真奈美は嬉しそうに笑ってくれている。


「颯斗、顔真っ赤だよ?」

「うるせー」


 人のこと言えないだろと言おうとしたけど、真奈美はすでに平常通りで。クスクスと笑う彼女がかわい過ぎて、顔に昇ってきた熱を冷ますのに苦労した。


 校門をくぐって校舎に入ると、鞄から上履きを取り出す。

 そういや俺の下駄箱はどこだっけっかな。中学二年になってから三ヶ月しか使わなかった下駄箱だから、記憶を呼び戻すのにちょっと苦労した。


「颯斗の席はね、今一番後ろに置かれてるよ」

「まさか、花瓶とか置かれてないだろうな」

「そんなことするヤツいたら、私がぶん殴ってるよ!」


 真奈美は俺の冗談に、本気になって頬を膨らませている。

 実際、真奈美ならやってくれそうだと思うと、少し嬉しかった。



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