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再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜  作者: 長岡更紗


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74.久しぶりの我が家

 家に帰ってゴロゴロと過ごしていると、香苗が飛んで帰ってきた。

 それはもう、玄関の扉をぶち壊さんばかりに入ってきて、俺に抱き付いてくる。


「お兄ちゃん!! おかえりなさいっ!!!!」

「っぶ、ランドセル下ろせって!」

「こら香苗、手洗いうがいしなきゃ駄目でしょう!! お兄ちゃんが風邪引いたらどうするの!!」


 母さんの怒号に、香苗はハッとして飛び下がると、ランドセルを放り投げながら洗面所に向かって走っていった。

 相変わらず騒がしいなぁ、うちは。

 でも、それがなんだかホッとする。


「お兄ちゃん、なにして遊ぶ!?」


 手を洗った香苗がまたドタバタとやってきて、キラキラと目を輝かせた。


「んじゃ、なんかゲームでもやるか?」

「うんー!!」


『先に宿題!』という母さんの声を無視して、テレビをつける。二人でゲームをするのも久しぶりだ。

 香苗と協力しながらステージをクリアしていく。そこじゃない、あっちだこっちだとギャーギャー言いながらやっていると、母さんに「うるさい、静かにやりなさいっ!」と怒られてしまった。

 晩御飯前になると、一旦ゲームをやめて香苗の宿題を見てやった。そのうちに父さんも帰ってくる。


「ただいまー!」

「お父さん、おかえり!! お兄ちゃん帰って来たよ!!」


 やっぱり香苗がドタバタと出ていって、俺もその後ろに続く。なぜか父さんに会うのはすごく照れ臭かった。


「おかえり、父さん」

「颯斗、退院してきたか……よく頑張ったな! おかえり!!」


 そう言って父さんがガバッと迫ってきた。逃げようとしたけど捕まって、腕の中に抱きしめられてしまう。


「やめろって、恥ずかしいっ」

「親子の愛情表現だろー?!」

「助けてくれー、香苗ーっ!!」

「お父さん、お兄ちゃんを離せー!!」

「いたた、殴るな、香苗っ!」


 香苗のポカポカ攻撃によって、無事に救出された。殴った方も殴られた方も、そして俺も、廊下でケラケラと笑う。


「ちょっと、汚い手で颯斗に触らないでちょうだいっ! 手を洗ってくるっ!」

「おっと、そうだった!」


 母さんに注意された父さんは、慌てて洗面所に行った。


「颯斗も香苗も手を洗ってらっしゃい。ご飯よー」

「「はーい!」」


 狭い洗面所で三人、ぎゃあぎゃあ言いながら手を洗うと、食卓に着く。

 目の前には、具沢山の豚汁と、牛すじの土手煮。あと肉じゃがとタコの酢味噌和えに焼き魚が並んでいる。


「わー、俺の好きなのばっか!!」

「なんだ、いつもと同じじゃないか」

「これがいいんだよ、父さん!」


 久々の母さんの手料理。それが食べられるってだけで、なんか込み上げてきた。

 母さんを見ると、嬉しそうに目を細めていて。

 俺が退院したら食べたいって言ってたの、覚えてくれていたんだな。まぁ予想通り、ウニの軍艦巻きはなかったけど。


「いっただっきまーす!」

「どうぞ、ゆっくり食べてね」


 あれもこれも早く食べたくって、慌てて食べていると喉に詰まってしまった。父さんに背中を叩いてもらう。そんな俺を見て母さんは呆れていて、香苗は大笑いしていた。


「だからゆっくり食べなさいって言ったのに……」

「だって、めちゃくちゃ美味いんだもん!」


 そう言うと、母さんは困った顔のままで、口元だけ嬉しそうに歪ませている。

 やっぱり、家族揃って食べる母さんの手料理は最高だ。


「颯斗、学校はいつから行くんだ?」


 父さんが土手煮を口に運びながら尋ねてくる。それに習って、俺も土手煮に手を伸ばしながら答えた。


「うん、明日から」

「明日!? もう少しゆっくりしてもいいんじゃないか?」

「家にいても暇だし、先生も学校行っていいって言ってたし。早くしないと春休みになっちゃうだろ?」

「うーん、そうか……朝、送ってやろうか?」

「いいよ、そんなの。歩けるんだから歩いて行くって」

「でもなぁ……」

「それに……彼女と行くつもりだし」


 俺がボソッとそう言うと、父さんの顔はニヤリと笑った。やっぱちょっと照れ臭い。


「なんだそうか! 父さんはお邪魔虫だったかー!」

「そ、そんなじゃないけど」


 ご飯を掻き込むように食べて、気恥ずかしさを紛らわす。


「彼女の名前、なんだったか?」

「真奈美ちゃんよ、結城真奈美ちゃん」


 俺が答える前に、母さんが口を出してきた。


「そうかー、今度父さんにも紹介してくれよ、颯斗!」

「そ、そのうちな……」


 そのうち、真奈美を家に連れて来なきゃいけないのかな。父さんは嬉しそうだけど、母さんの反応が今一よくわかんないんだよな。

 真奈美を家に連れてくるのは、まだ先の話になりそうだ。


 ご飯を食べ終えると、俺は真奈美にメッセージをした。

 今の時間なら、部活も終わって家に帰っているだろう。

 俺は無事に帰ってきたことと、明日から学校に通うということ、迎えに行くから一緒に学校に行こうって提案をした。

 でも真奈美は、逆に俺を迎えに行くと言い出したんだ。病み上がりだから、遠回りはさせられないって。俺がなにを言っても聞いてくれなかったから、結局真奈美が迎えにきてくれることになってしまった。

 女の子に迎えにきてもらうって……ちょっと、なんだかな……

 まぁ真奈美の気が済むなら、それでいいか。


 俺は教科書を揃えて鞄に突っ込み、明日に備えた。

 八ヶ月ぶりの学校だ。なんだか少しそわそわする。みんなに会うのが楽しみだ。

 俺はニヤニヤワクワクしながら、布団に潜り込んだ。

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