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再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜  作者: 長岡更紗


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62.ドナーからの手紙

ブクマ34件、ありがとうございます!

 テクテクテク、と三人分の足音が廊下に伝わる。

 南側の窓からは光が入って、めちゃくちゃいい天気だ。外はまだ寒いんだろうけど、病院内でその光を受けると、じんわりと暑くなってくる。

 そんな中で、俺はいくつか作っておいた紙飛行機の一つを裕介に手渡した。


「よし、今度これを飛ばしてみろ、裕介!」

「うんー! えいっ」

「あれ? 飛ばないなー。 じゃあユキはこっちな!」


 裕介に渡したのとは別の形に折った紙飛行機を手渡すと、ユキは無言で受け取って投げる。

 紙飛行機はユキの手を離れ、綺麗な弧を描くように飛んで、清潔室の扉の前に落ちた。俺や裕介の飛ばした紙飛行機は、ずっと手前に落ちている。


「ユキの勝ちだな!」

「もっかいしゅるー!」

「よし、取って来ような!」


 みんなで点滴を押しながら、落ちた飛行機を取りにいく。裕介はようやく病室を出ることができて、一緒に遊びながらのリハビリだ。

 普通の病棟でこんなことをしてたら怒られるだろうけど、清潔室にいる子達はプレイルームに行ける子が少ないから、ボール遊びも紙飛行機遊びも許してくれてる。まぁ、俺が本気でボールを蹴ったりしたら怒られるけどな。


 そうして裕介とユキの三人で遊んでいると、木下さんと田内さんが帰ってきた。木下さんが田内さんを案内して、スポーツジムにあるお風呂に入りに行ってたんだ。

 いいなぁ、お風呂。俺も入りたい。シャワーじゃなくて、湯船に浸かりたいなぁ。

 二人はさっぱりした顔で、にこやかに話しかけてくれる。


「ありがとうね、ハヤト君」

「ありがとう……うちのユキ、大丈夫だった?」

「大丈夫、みんなで楽しく遊んだよ。な、ユキ」


 そう言うと、ユキはコクコクと頷いてくれた。まだ話はしてくれないけど、ちょっとは懐いてくれたみたいだ。

 本当は田内さんは、プレイルームで保育士の先生にユキを見てもらうつもりだったみたいだけど、なにかあったらすぐに看護師さんを呼ぶって約束で、俺がお願いして見させてもらった。

 裕介も俺も、まだ清潔室から出られないしな。折角年の近い遊び相手がいるんだから、一緒に楽しませてやりたい。互いに接触禁止だから気は遣うけど、少し仲良くなれたからよかった。


 二人とも母親が来たので、それじゃあなと飛行機を片付けてそれぞれ病室に戻る。ちょっとだけゲームしてから勉強しようとスマホで遊んでいると、看護師の徳澤さんが入ってきた。その手に何やら、手紙を持って。


「ハヤト君、お手紙来てたよ」

「え? 誰?」


 そう言いながら受け取る。見ると、骨髄バンク経由の手紙だ。


 これって、もしかして……?!


 徳澤さんが部屋を出て行くと同時に、慌ててハサミで封を切る。その中にはまた封筒が入っていて、宛名に目を走らせた。


『僕の骨髄液を受け取ってくれた君へ』


 そう、書いてある。

 間違いない、俺の提供者(ドナー)さんからだ!


「っちょ、返事早くねぇ?!」


 思わず一人声を上げてしまう。この間返事を書いたばかりなのに、もう返事が来たんだ。びっくりして当然だろ。

 提供者(ドナー)患者(レシピエント)のやり取りは、移植から一年以内に二往復だけ。つまり、提供者(ドナー)からはこの手紙で終わりのはずだ。


提供者(ドナー)さん、これが最後だってちゃんとわかってんのか??」


 訝りながら封を開ける手は、ちょっとドキドキして震える。

 手紙を貰えるのって、めちゃくちゃ嬉しい。でも、これが提供者(ドナー)さんからの最後の手紙だなんて、さみしいなぁ……。

 中から便箋を取り出すと、俺は噛みしめるようにゆっくりと文章を目で追った。そこにはやっぱり、丁寧な男の人の字が書かれてある。


『二度目の手紙、失礼します。

 本当は、もっと後で書くべきだとは思ったのですが、いてもたってもいられず、筆を取ってしまいました。

 君からの手紙を受け取りました。嬉しい報告に、思わず涙が溢れました。

 順調に回復しているようで、本当に良かったです!

 君の中にいる僕の骨髄液に、「これからもしっかり仕事しろよ」と伝えておきますね。

 そして、サッカー選手になるという大きな夢を持っているのを知って、胸が熱くなりました。

 ぜひ、叶えてもらいたい。頑張ってほしい。

 僕が君の一番のサポーターであることを、どうか覚えておいてください。

 僕からの手紙はこれで最後になりますが、ずっとずっと、応援しています。

 いつかテレビで君を見られる日を、楽しみにしていますね!』


 手の中の手紙が、カサッと優しい音を鳴らす。

 読み終わった瞬間、胸がガッと熱くなって、走り回りたいような、ブンブン腕を振り回したいような、じっとしていられない気分に襲われた。

 俺の提供者(ドナー)さんが、すげぇいい人でよかった! この人を本当に誇りに思うよ、俺。


 文章は前回に比べて、『俺』っていう存在を尊重してくれているものだったように思う。

 俺からの手紙で、多分、ある程度の年齢の見当をつけたんだろう。『ぼく』って言葉が漢字になってるし、難しい漢字にはふりがなを振ってくれていたけど、今回は一つもふりがなは振られてなかった。


 ああ、俺も早く返事を書きたいなぁ。

 でも書いたばっかだし、俺からの最後の手紙は、一年が経つギリギリまで我慢しよう。

 次も絶対にいい報告をするんだ!

 提供者(ドナー)さんを、また嬉し泣きさせてやる!

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