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再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜  作者: 長岡更紗


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52.思い出を

 クリスマスイブは、山チョーサンタクロースからもらったプレゼントと格闘して過ごすこととなった。

 その翌日のクリスマスは、守が退院する日だ。

 昼過ぎに園田さんが部屋に入ってきて、扉の所まで行くように言われた。扉の小窓から外を覗くと、斎藤さんと守が立っている。


「今から退院だから、挨拶したいって」


 園田さんに説明されて、俺は頷く。


「そっか。よかったな、守。 退院おめでとう! 斎藤さんも、お疲れ様!」

「ありがと、ハヤトお兄ちゃん!」


 俺の言葉に守は嬉しそうにしていたけど、やっぱり斎藤さんは申し訳なさそうだった。まだ気にしてるのか。素直に喜べばいいのにな。


「本当に今までありがとうね! まだこれから大変だろうけど、頑張って!」

「うん、大丈夫。心配してたほど、体調も悪くないし。元気になったら遊びに行くよ」

「約束ね! 守と待ってるから。あ、園田さんにプレゼントと手紙を渡してるから、後で見てね」

「え?」


 斎藤さんの言葉と同時に、園田さんが手に持っていた袋を渡してくれる。

 こんなの渡されたら、気になっちゃうじゃないか。


「今見ちゃダメなのか?」

「ん? 別にいいよ。それね、手紙とタオルと、もう一つはみんなからの贈り物なんだ」

「……みんなから?」


 疑問に思いながら袋を開けると、中にはタオルの他にアルバムが入っていた。昨日守たちがサンタクロースに貰っていた、あのアルバムと同じ物だ。


「これ……貰っていいのか? 守のなんじゃ?」

「違うよ、それはハヤト君にって。なにか写真があったら入れてあげてほしいって、サンタさんに頼まれてたんだよ」

「……山チョー先生が?」


 そう言われて、アルバムをペラっとめくってみる。

 すると一番最初に、山チョー先生のスマホで一緒に撮った写真が出てきた。俺が院内学級で勉強してる姿の写真もある。

 さらにめくって行くと、リナやさくらと一緒に写っている写真があって驚いた。これを撮ったのは……志保美先生か、沙知先生か? いつのまにか撮られていたのか、三人で遊んでいる写真が何枚かあった。

 次に守や裕介も出てきて、一緒にサッカーしてるところや、リナのために祭りを楽しんでいる写真、それにハロウィンの時の俺の顔がお面で分からない写真もあった。

 その他にも俺が看護師さんや先生と話している時の写真、補助師のオバちゃんが写っているものまで色々ある。

 今までの、病院での記録。

 俺は写真を撮らせてって言うのが少し恥ずかしくて、自分のスマホにほとんど写真は入ってなかった。

 斎藤さんや木下さんたちがたくさん写真を撮っているのを見て、守や裕介のことを、少し羨ましく思ってたんだ。

 もし母さんが一緒にいたら、きっとたくさんの写真を撮ってくれていたはずなのに、それがないことへの寂しさ。病院で暮らしている時間が空白に感じてしまう悲しみ。

 このアルバムは、俺のそんな考えのすべてを吹き飛ばしてくれる物だった。思わず手に力が入る。


「これ……」

「すごいでしょ。志保美先生や沙知先生、木下さんとリナちゃんのママにもデータを送信してもらって作ったんだよ」


 そしてそれをわざわざプリントアウトしに行ってくれたのか。

 退院の準備で忙しかっただろうのに……。


「ありがとう、斎藤さん。マジで嬉しい!」

「お礼を言うならみんなに……それとサンタクロースにもね! 発案者はサンタさんだから」


 なんだよ、山チョー先生……あの勉強のプリントは、このアルバムのための布石かよ! 危うく感動して泣きそうになっちゃったじゃないか!


「わかった、外に出られるようになったらちゃんと礼言っとく。あと、タオルもありがとう!」

「ごめんね、なにがいいのかわからなくて、タオルならあっても困らないかなって」

「うん! わざわざカッコいいスポーツタオルを選んでくれて助かるよ! これ、退院しても部活で使わせてもらうから!」


 俺がそう言うと、斎藤さんは「ぜひそうして」と嬉しそうに笑った。色々考えて選んでくれたんだろうな。それだけで嬉しい。


「じゃあ、そろそろ行くね」

「うん、ありがとう斎藤さん! 守、元気でな!」

「ハヤトお兄ちゃん、ばいばーい!」


 扉越しに手を振り、斎藤さんと守を見送る。

 守は嬉しそうに斎藤さんの手を握り、スキップしそうな勢いで清潔室の扉を出て行った。中心静脈カテーテルも点滴ポールもなくなって身軽になっている。

 また治療に戻ってこなきゃいけないのは確定なんだけど、正月の間は楽しく過ごしてほしいな。


 斎藤さんたちがいなくなって園田さんも出て行った後で、俺はもう一度プレゼントの袋を確認した。すると奥から、一通の手紙がひょっこりと顔を見せた。そういえば、手紙を入れておいたって言ってたな。忘れてた。

 手紙の封を切ってみると、中からは一枚の絵が出てきた。この絵は、絶対に守だな。まだ四歳の守の、一生懸命書いたであろう絵。


「ええーと……は、や、と、お、に、い、ちゃ、ん……あ、り、が、と、う」


 その絵の横に書かれた下手な字を見て、思わず顔が緩んでしまう。


「こちらこそ、ありがとうな。守」


 俺が頑張ってこれたのは、同じように頑張る仲間がいたからだ。みんな俺より小さいのに、一生懸命頑張っていたから。俺もチビ達には負けられないって思いがあったから。

 ペラリと二枚目をめくると、そこには斎藤さんの字で『退院しても連絡とろうね!』と住所が書かれてあった。

 もちろん、俺はそのつもりだ。大人になった守と、入院中の話をつまみにお酒でも飲んでみたいな。裕介やリナたちも一緒に。

 俺は大人になった守達を想像して、一人ニマニマと笑っていた。


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