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再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜  作者: 長岡更紗


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48.痛みと恐怖と

ブクマ27件、ありがとうございます!

 痛い。

 そんな感覚で目を覚ました。


 波が、来ている。急がないとヤバイ。


 俺はベッドを降りて、点滴ポールを持つ事もせずにトイレへと駆け込んだ。

 点滴の管は長くしてあるから便座までは余裕で届く。ただこうすると扉を閉められないのが難点だけど。

 先生や看護師さんが入ってくることもあるからなるべく閉めるようにはしてるけど、ここ最近ちょっと間に合わなくなってきた。


「痛ぇ……」


 今日も、下痢便だった。

 夜中にも何度もトイレに行かなきゃいけなくて、寝不足だ。まぁ元々点滴の量が多いから、夜中に何度もトイレに行くのは今に始まったことじゃない。

 けどトイレに行った後も、しぶとく続くこの痛みが眠りを阻害してくるんだ。

 小林先生に言うと典型的なGVHDだと言われた。とうとうきたのか、って感じだ。

 酷くならなければ、GVHDはあった方がいいんだってわかってる。なにも無いよりは少しはあった方が再発率は下がるからだ。

 けど俺は知ってしまっている。マツバがこの症状で苦しみ……そして逝ってしまったことを。


「痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇ……」


 なんでお腹ってこんなにギュウッて痛むんだろう。最高潮に痛い時は、真剣に叫びそうになる。

 俺は耐えかねてナースコールを押した。すぐに看護師さんの声がする。


『どうされましたか?』

「ごめん、あったかい蒸しタオル欲しいんだけど」

『すぐ持っていきます』


 そう頼むと、ナイロン袋に入った蒸しタオルを何本か持ってきてくれた。簡易の湯たんぽ代わりだ。小さな袋の中に入れて渡してくれる。それでお腹を温めると、少しだけ楽になる気がした。


「大丈夫?」

「……痛い」

「トイレは行った?」

「うん。水便みたいなの出た」


 そう伝えると、記録用紙にどんな便が出たかを記入している。移植後は便の状態を細かくチェックして自分で書き込まなきゃいけないんだけど。最近はトイレとベッドの往復で、書き込む気力さえない。

 看護師さんが出て行った後、俺は蒸しタオルの湯たんぽをお腹に当てて包まった。

 あったかい。まぁ二時間も持たずに次のを持ってきてもらうことになるんだけど。


 俺、大丈夫だよな。

 このお腹が痛いのも、すぐ治るよな。

 もし、このまま酷くなっていったら……


 ゾゾゾ、と体が震えた。

 怖い。想像したくないのに、どうしても頭から離れない。

 マツバの書いていた『生きたい』ってあの言葉が、身に染みてよくわかる。

 あの時のマツバは俺なんかよりずっとずっと苦しい状況だったんだろう。もしかしたら死んじゃうんじゃないかって思いが頭を掠めて、めちゃくちゃ怖かったに違いない。

 マツバに助けてって願うのはいけないことだろうか。

 俺だけ生きたいだなんて、自分勝手だよな。

 でも、マツバならわかってくれる気がした。空の上から頑張れって、応援してくれるような気がして。

 思えばマツバは苦しい中でも、ほとんど毎日ブログを更新していた。よくやるな、と今になって思う。俺もマツバにメッセージを送るためにアカウントは取ったけど、ちっともログインしていなかった。マツバが死んでからこっち、ほとんどネットを見ていない。ブログを見ても更新されているわけじゃないから、見る必要もない。

 そう思いながらも、俺はなんとなくスマホを手に取った。マツバのブログを見るのはつらかったけど、実は死んでませんでしたっていう冗談が書かれてあることを期待して。

 けど、やっぱり記事の更新はされていなかった。お悔やみのコメントだけが増えていて、わかっていても心が抉られる。


 もうこの世にはいないんだって。

 あいつは死んだんだって。

 いやでも思い知らされて、俺はブラウザを閉じようとした。


 けど、手が滑ったのか。

 マツバのブログは閉じられず、ページが移動している。間違えてマイページのところを押してしまっていたらしい。既にアカウントを取得している俺は、自分のアカウントページに飛んでいた。

 そして俺は久し振りに見るそのページに、赤文字で『メッセージが一件あります』と表示されているのを発見した。

 運営からなにかのお知らせだろうかとタップしてみる。

 すると、受信箱の中には。


「……嘘だろ……」


 俺は目を疑った。

 そこには、死んだはずのマツバからのメッセージが入っていたんだ。

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