表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜  作者: 長岡更紗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/92

40.放射線治療

 俺は、とうとう放射線治療の日を迎えた。

 今日から三日間、放射線治療科に通うことになる。マスクをしっかりとして病室を出て、補助師のオバちゃんに放射線治療科まで付き添ってもらった。


「よろしくお願いしますっ!」

「よろしくね、颯斗くん。怖いことはないから、リラックスしようか」


 放射線治療科の先生は日下(くさか)っていう名前だ。看護師さんも大勢いて、全員穏やかに迎えてくれる。

 放射線治療の手順は、事前に一度ここへ来たから知っている。放射線を照射する位置なんかを決めるために、頭とか胸囲とか腹回りとか腕とか足首とか色々測られたんだ。

 もっと無機質で冷たい所かと思っていたけど、治療する部屋の途中は絵が飾られてあったりして、温かな雰囲気だった。


「DVDあるけど、なんか見たいのある? トライモーたんとかあるよ」


 おお、DVDなんか見られるのか! でもトライモーたんは幼児向けだからな……守や祐介なら喜んだだろうけど。


「うーん、他にはどんなのがあるんだ?」

「キューブルマンとか、ペチャパイヒロイン奮闘記とかどう?」

「んじゃ、ペチャパイヒロインで」

「おっけー」


 そう言って、看護師さんがセットしてくれている。どこにモニターがあるのかと思ったら、天井に大きく映し出された。プロジェクターだ。


「わ、すげー」

「じゃ、こっちに寝てくれる?」


 放射線治療専用の台に乗せられ、位置を細かく調整される。狙った所と違う所に当たると大変だからな。

 体の部位で薄いところは少なく、厚い所は多く照射するんだろう。だからあんなに細かく測定してたんだ。さすがにちょっと緊張してきた。


「特に痛みもないから、心配しないでね。そして何度も言うけど、治療中は絶対に動かないこと。もしも咳き込みたいとかクシャミが出そうとか、そういうことがあったらすぐに言ってね。部屋には誰もいないけど、モニターでずっとチェックしてるから」

「うん、わかった」


 やっちゃダメなことだって言われると、なんでかしてしまいそうになるんだよな……頼むから咳もクシャミも出るなよ。

 俺は今のうちに喉をンンッと鳴らしておく。わぁ、ドキドキしてきた。


「大丈夫かな?」


 日下先生が苦笑していてちょっと恥ずかしかったけど、「大丈夫」と答える。


「じゃあ、閉めるからね」


 そう言って先生たちは出ていき、広い治療室に俺一人となった。部屋は薄暗くなり、天井にペチャパイヒロインがクッキリと映し出される。


『今から始めるよ。動かないでね』


 姿の見えない日下先生の声がどこからか響いてきて、体に緊張が走る。リラックスって難しいよな。

 照射点を決める赤外線が俺の体を見定めている。目だけで追っていたけど、もしかして頭も動いちゃってるかもしれないと思い、天井に集中することにした。

 ペチャパイヒロインは割と好きなアニメだ。小学校の時は結構ハマっていた。久しぶりだなー、懐かしいなという思いで見ていたら、『終了でーす』という声が響いて来た。

 え、もう終わり??? と俺は一応動かずにジッと待った。

 部屋が明るくなって、先生や看護師さん達が続々と入ってくる。


「颯斗くん、お疲れ様。今日の午前の分は終わったよ。また夕方ね」

「ええ? 呆気なくない? ずっとこんな感じ?」

「そうだよ。動くなって言われるのがつらいだけで、なんともないでしょ」

「うん、全然なんともない……」

「じゃ、とりあえず診察室に来てくれるかな」


 俺は治療台から降りると、先生の後について診察室に入った。診察室も子どもが喜びそうなイラストや物が置いてある。放射線治療科なのに、子どものことを意識してるのがわかる部屋だ。


「よく頑張ったね、お疲れ様。動かないでいてくれたおかげで、今回の照射は上手く行ったから安心してね」


 いや、お疲れ様って……俺、寝てただけだし。しかもアニメ見ながら。


「どう、気分悪いとかない?」

「いや、全然……いつもと変わらないけど」

「なら良かった。でもこれから吐き気とか出てくることもあるから、注意してね。今、補助師さんを呼んでもらったから、必ず補助師さんと戻るように」

「わかった」


 しっかりと返事をした俺に日下先生はにっこりと笑って、「あれを颯斗くんに」と言った。

 うん? なんだろう。

 すぐに看護師さんがなにか袋を持ってきて渡してくれる。


「なにこれ?」

「頑張ったご褒美!」

「え?」


 中を見ると缶ジュース一本と、ちょっとしたお菓子が入っている。


「わ、いいの?!」

「どうぞ。部屋に戻ってから食べてね」

「ありがとうっ!」


 お礼を言うと、先生も看護師さん達もニコニコと嬉しそうに笑っている。

 放射線治療科って、すっごくほのぼのしてる所だ。最初に想像していた怖いイメージとは全然違った。自然と顔が笑顔になる。そんな場所。


「颯斗くん、お迎え来てくれたよ」


 振り向くと、補助師のオバちゃんが迎えに来てくれていた。俺はもう一度お礼を言って、オバちゃんと一緒に小児病棟へと向かう。


「どうだった、ハヤトくん。気分は悪くない?」

「気分悪いどころか、すっげー良いよ! プロジェクターでアニメを見られるし、寝てるだけだし、ジュースももらえるし、めっちゃ楽しかった!」


 俺の言葉に、オバちゃんは声を上げて笑っていた。

 いや、本当にこんな治療なら何度だってやれるよな。また行くのが楽しみだ。

 俺は自分の病室に戻った後、もらったジュースの缶を開けて、お菓子を食べながらゴクゴクと飲みほした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ