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再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜  作者: 長岡更紗


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32.移植の説明①

 それからほどなくして、別のドナーに決まったと連絡があった。最終同意も交わして、前回のようなイレギュラーはないと思うから大丈夫だとも言ってもらえた。

 やっぱり前に決まったはずのドナーさんは、事件か事故にでも遭ったのかもしれない。もしかしたら病気にでもなったのかなと思ったけど、正式なドナーになるためには色々と健康上の検査もするらしいから、その線は薄いだろう。

 ドナーを断られた時には憎悪しか生まれなかったけど、今ではその人が無事であることを願うことできた。


 そして今日はようやく、先生とコーディネーターさんの説明を受ける日だ。父さんと母さんも呼ばれて、カンファレンス室という所に通された。


「移植コーディネーターの赤井です。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 赤井さんと父さん達が頭を下げる中、小林先生が「どうぞ座ってください」と促してくれたので、俺はさっさと着席した。大人達もゾロゾロと椅子に座り、先生からの説明が始まる。


「颯斗くんのお父さん、お母さん、遠い所をありがとうございます。早速ですが、移植についての説明をしていきたいと思います」


 父さん達はコクリと頷いていた。その顔が妙に神妙で、なんだかちょっと可笑しかったけど。


「まず日程なんですが、移植は再来月……十二月の七日に行う予定です。放射線治療はその前の十一月の二十八日と二十九日と三十日に行います」


 出た、放射線治療。俺はよく理解してないけど、確か体に良くないやつだよな。


「放射線治療……それって、大丈夫なんですか……?」


 母さんがふわっとした質問をしている。治療なんだから、大丈夫に決まってる……んじゃないのか?


「予定しているのは、朝晩に二グレイ、それが三日でトータル十二グレイという放射線量です。今回はミニ移植という方法を取るので、放射線治療はフル移植に比べて圧倒的に少ないものの、影響がまったくないかと言われるとそうとは言い切れません」


 相変わらずズバッというよな、小林先生……。らしいっちゃらしいんだけど、もっとオブラートに包んでくれないと、ちょっと母さんが心配だ。


「影響っていうと……?」

「大きくなってからの二次ガンや不妊ですね。でも、これは統計が取れていないのでなんとも言えないです。比較的新しい治療のため、この治療を受けた子どもたちが大人になった時にどうなったかという結果がまだ少ないんですよ」


 不妊はまぁ前にも聞いたけど、二次ガン……かぁ。この治療をすることで、他の所にもガンができるリスクが高まるってこと? 白血病を治すのがとりあえずの優先事項だから仕方ないっちゃ仕方ないけど……

 俺がそう考えて眉を寄せていると、母さんが心配そうに目だけでこっちを見ていたので慌てて取り繕った。


「放射線治療やらないと移植できないんだろ?」

「そうですね。悪い物を根絶させてからでないと移植はできないので」

「だったらやるしかないし。放射線治療、受けるよ」

「ありがとう、颯斗くん」


 まったく、どうなるかもわからないことであんまり心配をかけさせないでほしいよな。まぁ、医者はちゃんと説明しなきゃいけないんだろうけど。


「放射線治療後にドナーさんから提供してもらった骨髄を、颯斗くんに移植します」

「移植って、手術なんですか?」

「いいえ、カテーテルから中に入れるので、いつもの点滴と変わりないですよ。特に親御さんが来ていただく必要もありませんし」

「そ、そうなんですか? でも私は来ますけど」


 母さん、移植の日にきてくれるのか。点滴と同じって言ってるから、別に来なくても……と思ったけど、やっぱり大切な日に来てくれるのは嬉しい。


「ドナーさんのことについては、赤井さんの方からお願いします」

「あ、はい。今回颯斗くんに提供してくれる方は、関東に住んでいる二十代の男性です」


 赤井さんがさらっと教えてくれた。

 あれ? ドナーの情報は、言えないんじゃなかったっけ。まぁ個人を特定するには無理な情報であるには違いないけど。


「骨髄は採取後、二日以内に移植しなければいけないので、六日がドナーさんの採取日になっています。骨髄の運搬は私も同行して、責任を持ってお届けします」

「ありがとうございます、よろしくお願いします」


 母さん達が頭を下げるのに合わせて、俺も頭を下げた。関東の……どこかわからないけど、そこまで取りに行くって大変だよな……。


「えっと、前にドナーに手紙が書けるって聞いたけど?」

「ええ、書けるわよ。移植から一年以内に二往復のやり取りだけね。大抵は移植が終わった直後と、その後しばらくしてから経過を知らせるために送る人が多いかしら。もちろん、個人の特定に繋がる情報は書いてもらっちゃ困るから、ちょっとチェックが入るかもしれないけど」

「チェックされんのか……まぁいいけど。母さん、今度レターセット用意しといて」

「うん、わかった」


 ドナーと手紙のやり取りができる。それを考えるとちょっとワクワクした。どんな男の人なんだろう。でもボランティアで提供してくれるっていうんだから、きっといい人に違いない。

 母さんもドナーが確定したことで、本当に嬉しそうに赤井さんと話している。


「ご本人に直接菓子折り持ってお礼に行きたいくらいです」

「そう言われる方も多いんですが、これは規則ですから……」

「わかってるんですけど……ドナーの方って結構大変なんでしょう?」

「そうですね、事前に健康調査や採血にも何度か通ってもらわなくてはいけませんし、当日は麻酔をして何時間かかけての骨髄採取ですから」

「そんな頻繁に病院に行かなきゃいけないんですか? 男の人だったらお仕事とか……大丈夫なのかしら」

「今は骨髄提供の際に出る医療保険というのもありますし、それに加入していれば少なくともお金の心配はないかと思いますので、あまりお気になさらないでくださいね。心配よりも感謝の方が、ドナーさんたちは喜ばれますから」


 赤井さんの説明に、母さんは納得したように頷いている。

 感謝ならもうすでにいっぱいしてるけど、手紙を書く時にはその気持ちを前面に押し出そう。


「そのドナーさんの血液型なんですが……」


 次の説明に入ろうとした赤井さんの言葉を、小林先生が「そこからは僕が」と止めた。

 そこで止める意味がわからず、俺達は先生の顔を見た。

長くなったので分けます。

中途半端ですみません。

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