-19-『最後の一撃は切ない』
ディクロスの勝どきが上がるなか。
そこには――誰もが忘れている存在がいた。
間柱の横に潜み、息を殺す人影。
戦いに決着するところを見届けた撮影役のエメリアはリモコンの操作し、ドローンの追尾モードのスイッチを押す。
そして、壁際に落ちている【キラーポーン】を拾い上げた。
「はぁ~」
長いため息を漏らす。
自分が飼っていたコダヌキが魔王なのもショックだったが、魔王が勝って終わりなのはもっと最低だ。
皆が見ている動画は魔王退治の動画だ。
古参の投稿者の一人としては視聴者の期待を裏切るわけにはいかない。
幸か不幸か。
隠れていたエメリア以外は地に倒れ伏しており。
ディクロスは戦闘が終わって勝利の余韻を味わい、高笑いしている状態にあった。
嘆くようにエメリアは首を大きく左右に振る。
そしてむんっと拳を握りしめて決意した。
スカートからそろそろと足を伸ばし、大股かつ忍び足でこっそりとディクロスに近づき、「暗黒の時代の到来よ!」とか「これからは魔将などいらぬ!」とか威勢よく吠えて隙だらけな背中に。
ぶすっと魚の骨を刺した。
「あっ」
「さいなら」
ひらひらと手を振って別れの言葉。
罪悪感はなく、闘争心もなく、事務的にサッとコトは終わった。
「あっ、あっ、あっ、ぎゃああああああああああああああああああああああああ!」
悲痛な叫び声が舞い、ディクロスの身体は明滅した。もがき苦しみ、バタバタと激しく動き、転倒してのたうち回ったが肉体の崩壊はとめようがなかった。
光球が弾けるように力が放散していく。
眩しい光が辺り一面を照らし、ディクロスの姿は跡形もなく消滅して静かになった。
ペルシャナル、ブラドリオ、ドイドル、レイセン、ドッド。
新魔王、再起した勇者、三魔将の面々は一連の出来事を苦しげな顔で眺めていたが、一様に何か言いたげな物悲しい表情を浮かべていた。
ドローンは依然として変わりなく宙に浮かび、現場を撮影している。
エメリアはツインテールを振って顔を向け、営業スマイルでにっこりした。
「以上、実況者のエメリアちゃんでした。それじゃあ皆さん、ごきげんよう。バイバーイ」
こうして。
よみがえった魔王ディクロスは倒され、世界は再び平和を取り戻したのだった。
史上最悪の魔王退治と評された今回のライブ動画は人間界でも魔界でも、関わりのなかった亜人界でさえも人を馬鹿にしてると大不評を博した。
どんなに評判が悪かろうが、周知されれば再生数は伸びに伸びる。
結果として一種のネタ動画として『グングン動画』で君臨したが、それはひとときの隆盛を得ただけで終わり。
時間が過ぎれば人々にも忘れ去られ、多くの動画と共に埋没するのだった。




