友の願い、戦友の信頼を背負おう!!
相変わらず、高速で移動しながらも、滑らかで、乗るものに負担をかけないヒポポの走り。
私たちはヒポポの上で、手短に情報交換をする。
「ハロルドの傷、見た?」私は背後の二人にたずねる。
「ええ、あれは剣と槍の傷でした。私の未来視にも、ちらりと。敵は人間の兵士です」
「鎧を着た人間、たくさん」とロアも乗り出すようにして、前方を見ながら教えてくれる。
「やっぱり。ハロルドは、操られていると言ってた。多分敵は軍部の人間、それもハロルドの仲間がいるのかも。カリーンから強行偵察を頼まれたから一当てして行くけど、出来れば人死には無しの方向でいこうと思う」
「ルスト師がそう仰るのでしたら否はありません」
「うん、ロアも」
「──ありがとう」
ハーバフルトンとそこに住まう人々を守るのに、一番安全とは言いがたい、私の提案。
ハーバフルトンの事を思うなら、敵の戦力を離れている間に削るのが最善だ。そして私なら、それが出来る。
しかし、ここまで知らせに来て、気絶する前に託された友人たるハロルドの願い。ハロルドは、迫り来る敵は何かに操られている仲間だから、助けて欲しいと言いたかったのだろう。
それを、その願いを守ってあげたかった。きっとそれはカリーンも同じだと思う。なぜなら、敵の殲滅を言い渡されなかったので。
そして、アーリとロアも、二つ返事で私の希望を認めてくれた。それは多分、二人からの信頼の証し。
だから私は敵の殲滅ではなく、助けるための情報を得るために、動く。
もちろん上手くいくとは限らない。
その場合の責任を負う覚悟だけはしておく。
どうにもならなかった時には、ハーバフルトンに被害が出る前に、私の全力をもって対処する。
その決意を、ひっそりと固めておく。
最悪、大地を、ハロルドの仲間の血に染める決意を。
「キュル」
私の肩からヒポポの頭の上に移っていたセイルークが、私の方を向いて鳴く。どうも心配をさせてしまったようだ。怖い顔をしてしまっていたらしい。
「ありがとう。うん、大丈夫」
私はセイルークにだけ聞こえるようにそっと呟くと、その頭をお礼がわりに軽く撫でる。
「キュ……」
それでもまだ心配そうなセイルーク。
それに答えようとした時だった。
前方、地平線にうっすらとしたもやのような物が見えてくる。
それは軍の行進によって巻き起こされた砂ぼこり。
「ヒポポさんの速度から計算して、軍の平均行軍速度でここからハーバフルトンまで二日半です」
有能なアーリの助言を、ありがたく受ける。
こうして、私たちはハーバフルトンへと迫る敵を発見する。
予言された争乱が、始まってしまった。




