命名式に出席しよう!!
私はアーリと共に広場へと向かう。
カリーンの執務室のある屋敷の前の広場が今回の命名式の会場になるようだ。
近づくにつれて人が増えていく。時たま見かける顔見知りに軽く挨拶をされる。皆、晴れ着や正装を着ていた。特に女性陣は気合いが入っているようだ。
元から野営地で働いていた人の多くが、退役軍人だ。その習わしとして、カリーンの軍時代からの部下だった人は、正装として軍服に勲章をつけているようだ。
前を行くアーリも普段の装いとはかなり印象が異なる。ただ、アーリは軍服ではなかった。多分、出身地の西方の正装なのだろう。彩り鮮やかな刺しゅうが全面に施された、民族衣装をまとっていた。
広場に到着する。
カリーンの屋敷の前にしつらえられた演壇。
即席にしてはかなり立派な見た目だ。限られた資材で上手く作られているのがわかる。
「あの演壇、センスがいいね。誰の差配なの?」
私がアーリにたずねる。
「私です」ちょっと恥ずかしそうに、少し誇らしげにこたえるアーリ。
──ほう、意外な才能があるもんだ。
私が感心しながら他の群衆に混じって演壇の見える場所で立ち止まると、アーリから声をかけられる。
「ルスト師? そこで何をしているんですか?」
「え、いや演壇が見えるから、場所はここでいいかなって」
「何をおっしゃっているんですか。私達はあちらですよ」
どこか呆れた様子で演壇を指差すアーリ。
「こちらに控えておくスペースがあります。ついてきて下さい」
そう言って演壇の横へと向かうアーリ。
「あ、私も演壇の上なのか。うわー」
小声で呟きながら、しぶしぶアーリのあとを追いかける。
着いたのは周囲から簡単に囲いで目隠しされたスペース。
椅子がならび、テーブルの上には飲み物と軽食が用意されている。
飲み物はお茶以外にもエールまで置かれていた。
まさか飲んでる人はいないよなと思っていると、声をかけられる。
「ルスト! 遅かったな。お、その勲章、懐かしいな」
正装したハルハマーだ。その手にはエール。
──うわ、飲んでるよ。まあ、ハルハマー師、酒好きだからな。
「ハルハマー師。ええ、この勲章も今ではすっかりいい思い出ですよ。ところでカリーンとの話し合いはどうなりました?」
私はハルハマーと、とある魔道具を共同開発した際に貰った勲章を軽く指で弾きながらこたえる。
「おう、バッチリよ! そのかわり、お前んとこの錬金術研究部門でお世話になるぜ。ああ、ルストが上司になるからな。敬語の方がいいか」
「いいですよ、そのままで。でも良かったですね。ハルハマー師が住んでいたあの地下の遺跡はどこの管轄になるって言ってました?」
無言でこちらを指差してニヤッと笑うハルハマー。
「ああ、それならハルハマー師も存分に研究を続けられそうですね」
「ああ、お蔭様でな。おう、そうだ。カリーン様から伝言だ。錬金術研究部門の正式名称、考えろって言われていたんだろ? このあとの命名式で、それも発表しろってさ」
「ええ! 聞いてませんよ!」
肩をすくめるハルハマー。
「今、伝えたろ。これからのワシの職場にもなるんだ。格好いいので頼むぞ。じゃあワシはちょっくらあいさつ回りでも行ってくるわ」
そう言い残して立ち去るハルハマー。
私は生返事を返す。
必死になって、名前を考えながら。




