新人さんにわかってもらおう!!
「ここか。かなり人が多いな。何の行列だろう」
私達はカリーンの新しい仕事場らしき建物の前へと来ていた。
レンガ作りのお屋敷だ。たぶん、庁舎のような役割もあるのだろう。
私は、建物の正面口へと列を作っている人々の方へいくと、最後尾の人間に声をかける。
「すいません、これってなんの行列ですか?」
「うん? 当然領主様にお目にかかって、陳情する列ですよ。あなたもカリーン様に会いにいらしたのでしょう?」
「え、ああ。はい。教えてくれてありがとうございます」
私は皆のもとへと戻ると、その事を伝える。
ロアが不思議そうな顔をする。
「無視して入ってしまえばいい」
そう言うと、並ぶ人々の横を歩いて屋敷の入り口へと向かうロア。
それもそうかと、ロアに続いて歩き出す。
ロアが屋敷の入り口を進もうとした時だった。
屋敷の入り口にいた女性スタッフらしき人に呼び止められる。新規のスタッフなのだろう、見たことのない顔だ。
「入館証のご提示をお願いします」
「持ってない」とロアがそっけなく答える。
「それではあちらの陳情待ちの列にお並び下さい」
「面倒。通して」
「えっ、困ります。規則ですから。入館証がない方は並んで頂かないと」
ロアと女性スタッフの言い争いが始まってしまう。
「ロア、仕方ないよ。規則だって言うから──」
私がロアにそう声をかけた時だった。私達を呼ぶ声がその場に響く。
「ルスト師! それにロアも! 無事で戻ってたのかっ。二人ともお帰り」
それは食料保管庫の責任者のリットナーだった。
ちょうど屋敷から出て、こちらへと向かってくるリットナー。返事をしようとする私達を遮って、ロアと言い争っていた女性スタッフがリットナーに話し始める。
「リットナー様! 良かった。困っていたんです。この人たち、入館証もないのに列に並んでくれなくて──」
「バッ、おまえ! 何を言っているんだ! この人達を誰だか知らないのかっ! え、並ばせようとしていたのかっ!」
リットナーが焦った様子で、私達と女性スタッフを交互に見ながら早口で話す。
「えっ……。はぃ」
リットナーのただならない様子に自信なさげに答えるスタッフ。
「うわ、マジか……。おいおい。こちらはマスターランクの錬金術師でアドミラル領の錬金術研究部門のトップだぞ。しかも俺の弟の恩人だ」
それを聞いて、口もとを手で押さえて、サーッと青ざめる女性スタッフ。よく見たらロアよりも、若そうだ。
「あー。ルストです。よろしく?」
なんとなく自己紹介をしておく。
「で、こっちは、あのアーリの妹だ。当然、魔眼持ちだし、カリーン様の直接の配下だぞ」
リットナーが次にロアを指差して伝える。
「ロア・サード」私の真似をして名乗るロア。悪のりしている感じが少しする。
青ざめていた女性スタッフが、次はしばらく口をぱくぱくとさせている。なかなか言葉が出てこないようだ。それでもようやく、小さな声で私とロアに向かって返事をする。
「チェリ・カーです。この度は大変失礼致しました……」
「チェリさん、知らなかったなら仕方ないですよ。さて、これで中に入れそうですね。リットナーさん、カリーンに報告とお土産があるんだけど、案内、お願い出来ます?」
「ええ! ええ! もちろんっ。こっちだ!」
そう言って案内してもらい、私達はようやくカリーンの執務室へと到着した。




