合流しよう!!
ヒポポが緩やかな駆け足で、大地を行く。セイルークも二日ぶりの自由を楽しむかのように、空を飛び回っていた。
私は、警戒のためヒポポの上から視線を周囲にむけていた。ここら辺はカリーンの領地外なこともあり、周囲に潜むモンスターも知らないものが多い。
この帰り道で、当初の密かな楽しみであった未知のモンスターの新素材をかなり手にすることが出来た。しかし、実は頭のなかは別の事でいっぱいだった。
崩れ去る前に見た立体構造魔法陣。
その可能性が頭のなかで駆け巡る。
──あの指輪が崩れてしまったのは本当に残念。パッと見ただけだから、その構造は覚えられなかったのが悔やまれる。ただ、なんとなく前にハルハマー師の手伝いで、似たのを見た気がする。たしか、原初魔法か何かだったんだよな。
私が物思いにふける間にもまた新たなモンスターが現れる。それも、すぐさまヒポポの踏みつけと、セイルークの急降下からの牙で排除されていく。
私は新しい素材をなかば無意識に回収しながらも、考え事は止まらない。
──ただ、まあそれはいいや。それよりも、多層式の魔法陣が作れる可能性があるって事だよな。スクロールを重ねる事で。問題は、何枚も重ねると、スクロールの最大の利点である巻くのが難しくなりそうだ。うーん。そこは野営地に帰ったら早速検証だな。忙しくなるぞ!
ひとりうきうきとしていると、ヒポポの注意喚起の鳴き声。
はっと私は前方を見る。
大きい影。その後方には、立ち上る大量の砂ぼこり。
かなりの速さでこちらへと向かってくる。それは、どこか懐かしい感じのする双頭の象の錬成獣だった。
その背には、懐かしい顔が見える。
「ハルハマー師! ロアにタウラも!」
私はヒポポをそちらへと急がせながら、彼らへと手を振る。
「ルスト! ご無事なようで何より。セイルーク、奪還できたのですね。流石です!」
合流するや否やタウラが双頭の象からひらりと飛び降り、こちらへと駆け寄る。
「ルスト師、お疲れ様」とロアもタウラの後ろから顔を出すようにして言葉をかけてくる。
そのロアの視線は相変わらず上空を飛び続けるセイルークへ向けられる。メガネ越しに見えるロアの視線は複雑なものだった。
そこに宿るのは、セイルークの無事に対する安堵と、安堵した自分への不満だろうか。
ただ、ロアは遠視と透視を使っている。瞳に魔素が宿っているのだ。
どうやらセイルークの状態を確認してくれている様子。
最後に、ハルハマーがゆっくりと大地へ下りてくる。双頭の象の鼻二本に両足をそれぞれ支えられて。
「おう、ルスト。お前ならあれぐらいの奴、楽勝だったろ。それでどうしたんだ? その顔は」
と、私の顔を見て急ににやっと笑うハルハマー。どうやら私が新しい発想に夢中になっているのが、ハルハマーにはバレバレだったようだ。
「まあ、色々と収穫がありました。それで、新しいスクロールの魔法陣を思い付きまして。このあと、カリーンのいる場所へ戻ったら早速検証しようと思っています」
そこへセイルークが舞い下りてくる。
「これが! 立派なホワイトドラゴンだ。素晴らしい……」と、ハルハマーはふらふらとセイルークの方へと近づきながら呟く。視線が、じっとセイルークを見つめて離さない。
「そうだ。それでハルハマー師。一度カリーンの所へ来てくれませんか? そしたら一緒にまた研究も出来ますし、セイルークとも──」
「ルスト師、だめ」「ルスト、ストップだ」
私の言葉はタウラとロアによって止められる。
「あー。ごほん。ありがとう二人とも。人事権はカリーンにあるよね。そしてハルハマー師、申し訳ない」
私はハルハマー師へと謝罪する。
「なに、気にすんな。わしだって宮仕えは長かったのだ。それぐらいの事は問題ない。さてそれで、本題だがわしも是非ルストと一緒に行かせて貰おう」
そう告げるハルハマーの視線はセイルークに釘付けだった。




