奪還しよう!!
あけましておめでとうございます!
「よし! これだけ下がれば、届くっ」
使い魔といえ、この世に存在しているのだ。必ず疲労、もしくは劣化をして当たり前だ。
ヒポポの全速力と同等の速度での二日間。
羽蛇も限界に違いない。
私たちは潤沢なスタミナポーションのお陰で大した疲労もない。事前に大量にスタミナポーションを準備していた過去の自分を内心でこっそり褒め称えながら、スクロールを展開する。
上空へと飛んでいくスクロール。
「《研磨》」
極度の疲労状態なのだろう、あきらかに動きの鈍い羽蛇。二日前にセイルークのブレスや私の攻撃をかわしていた機敏さは、すっかり失われている。
スクロールから放たれた金剛石の粉を含む竜巻が、羽蛇の生えた羽を端から呑み込んでいく。
竜巻の中で、ズタズタになっていく羽。
羽蛇が一気に落下し始める。セイルークを抱えたまま。
私は想定通りの事態に、次のスクロールを発動する。
「《解放》重力のくびき《対象》セイルーク!」
セイルークだけが重力から解放される。
しかし、落下は止まらない。
私は締めのスクロールをする。
「《リミット解放》最大出力《対象》定着のスクロール」
私は《研磨》に続き、《定着》も素材加工用にかけていた制限を解除する。
「《定着》セイルーク《空間固定》……いまっ!」
私のかけ声のタイミングに合わせ、定着のスクロールから無数の魔素の糸が溢れ出す。セイルークへと殺到する魔素の糸。セイルークの体が地面すれすれで糸に絡み取られるようにして固定される。
共に落下していた羽蛇の触手がその反動に耐えきれず、ブチブチと千切れる。
そのまま地面へと激突する羽蛇。
落下の衝撃でその体はひしゃげ、バラバラになる。
私は定着のスクロールを解除すると、ゆっくりとセイルークの体を下ろすように重力を操作する。
地面についたセイルークに駆け寄りながら声をかける。
「セイルーク! すまない、助けるのが遅くなった」
「きゅ……」
セイルークの返事。体はやはり麻痺して動かないようだ。私は《転写》のスクロールで手早く状態を確認し、ポーションを取り出す。
ヒポポはその間、心配そうにそっと鼻先でセイルークに触れている。
「最高級ポーションだ。口を開けるよ」
私はセイルークに告げると、だらんと力の抜けた口をこじ開け、ポーションのボトルを突っ込む。
こんなときでもポーションの味を美味しく感じるのか、少し嬉しそうだ。
──セイルークが、人間と同じようにどんなに魔素の濃いポーションを飲んでも大丈夫で本当に良かった……
呪術師由来の毒と呪いが、私の『完全なる純水』製の神気で洗い流されていく。
その効果は劇的だった。
あっという間に体を起こすと、高らかに鳴くセイルーク。
「キュルルルル~」
よほど最高級ポーションが美味しかったようだ。明らかにお代わりを要求している目でこっちをじっと見てくる。
私はお詫びがてら、もう一本セイルークへとポーションを進呈する。
「せめて味わって飲んでくれ。それ作るの、大変なんだから」
と苦笑しながら伝える。
「きゅきゅ」
わかったよ、とばかりに返事をして、私の渡したポーションのボトルを前肢で持ちながら、ちびちびと飲み始めるセイルーク。
「なんにしても無事で良かった」私はそんなセイルークの様子をみてほっと息をつく。
「さて、問題はここはどこか、だな」と私は辺りを見回しながら呟いた。




