ハルハマーと立ち話!!
「誰?」
警戒を解かないロア。タウラも剣を構えたままだ。
「ああ、ええと。こちらはハルハマー師。私が錬金術協会に入った時からお世話になっていたんだけど──」
「ハルハマーだ。よろしくな、べっぴんの嬢ちゃん達。ルストはなぁ、朴念仁の研究バカだが、なかなかいい男だぞ」と私を指差しながらそんな事を言うハルハマー。
「……何か誤解してますよね、ハルハマー師」
「何を言っとる。お前が朴念仁の研究バカで、女っけがからっきし無かった事の、どこに間違いがある? まあ、それもわしが左遷先を辞めた後で、女っけがからっきしって部分は随分と変わったみたいだがな!」
「えっ、ハルハマー師も辞めてたんですか!?」
私は思わず反論するよりも、驚きが勝ってしまう。
「おう、もう辞めて一年は経つな。あんな所で飼い殺しなんて真っ平ごめんよ。なんだ、もしかしてルストも協会を辞めたのか?」
「はい、学生時代の友人に仕事に誘われて。すいません。連絡もせず」
「いいさいいさ。連絡をしなかったのはこっちもさ。それにわしに義理立てして、あんな所で無駄に腐ってるよか、よっぽどいいさ」
「ありがとうございます。そう言って頂けるとほっとします。本当はハルハマー師の遺してくれた基礎研究科を守りたかったのですが、力足りずで結局、基礎研究科は解体となってしまいました」
「そうか、それは随分と苦労をかけたようだな。なーに。大事なのは人さ。組織なんて、人がいてなんぼのもんよ。ただの器に過ぎん。だから気にするな。それよか、お前さんの研究はどうなった? 辞めた後は?」
「はい、実は辞めた後の方が研究は進展してます」
「ほう、そこは是非とも詳しく──」
「ごほんっ。ルスト師? その話は、長くなるのか」
とタウラの咳払い。
「いや。えっと少し、なるかな──?」
私のそんな返事に、にっこり笑ってこちらをじっと見つめるタウラ。
無言の笑顔。
顔の造形が整っているばかりに、迫力がある。
思わずそらした視線の先には、こちらは無表情のロア。眼鏡ごしに見つめてくる瞳が、冷たい。
そんな私の肩を、バシッと叩きながらハルハマーが笑い声をあげる。
「は、は、は! 愉快愉快。頑張れよ、わこうどっ! さあ、立ち話もなんだ。お茶でもご馳走しようかの。それと、わしがここに居る理由も説明してやろう」と最後の台詞はロアとタウラに向けて告げると、すたすたと歩き出すハルハマー。
私はその提案に乗って、その場から逃げるようにして、ハルハマー師のあとを追う。
ロアとタウラもさっきまでの雰囲気はどこへやら、いつもと変わらぬ様子で、私たちについてくるのだった。




