お話しの続きをしよう!!
私とロアは顔を見合わせる。
ロアの眼鏡の奥の瞳に宿る、強い意思の光。それは如実にこう言っていた。「説明するのはルストの仕事!」と。
揺るがないその視線に私は苦笑を返すと、タウラに向き直り、これまでの経緯と私達が新しい街の候補地を探している事を伝える。
「なるほど、な」と何か考え込んでいる様子のタウラ。
「確かに今、王都では不可解で不気味な出来事が続いているのだ。そのせいで人心は不安になり、新天地を求めて騎士カリーン殿の元に身を寄せたい、と考える者が増えているのだろう」と呟くタウラ。
「カリーンが魔族殺しの英雄だから、か。それだけ魔族が現れたと言う例の噂の影響は凄い訳だ。それで一体、王都では実際何が起きているんだい?」
私はそんなタウラの呟きに応える。
「最初は些細なことだった。王都から害獣であるネズミや虫が姿を消していったのだ」と遠くを見るような視線で話し出すタウラ。
「やがて王都にいたはずの野良猫や野良犬が消えていった。最近ではついに人間まで消え始めているらしい」
「らしい、と言うのは?」
「身元の定かではない路上生活者やその一歩手前の底辺の冒険者がある日ふと、消えてしまうらしいのだ。そのため、軍部を中心に調査を進めているらしいのだが、いつどこで誰が消えたのかはっきりしない、と知り合いの信徒の言だ。横流しの不祥事があったのも宜しくなくてな。それと……」と沈んだ口調のタウラ。
「それと?」
「いや、これは行方不明者の件と関係しているのかも不明なのだが、王都では食べ物がいつもより腐敗しやすくなっているようでな。少し放置しておくと、すぐにカビが生えるのだ」
「それは……、かなり深刻ですね。王都の人口を考えると腐敗の速度によっては食料の供給が追い付かなくなりそうだ」
「こういうことに対処出来る、錬金術協会は再建の目処がまだ立っていない。そう言う訳で、徐々に王都から人が流出し始めているのだろう。ルストの名前も盛んに噂されていたぞ。騎士カリーンの治めるアドミラル領には協会出身の凄腕錬金術師がいると。開拓民を蝕む風土病を、着任早々、即日解決したそうじゃないか。しかもまさか伝説と名高いドラゴンまで使役しているとは。今頃、もっと移住希望者が増えているんじゃないか」
そう話すタウラの口ぶりは、からかうものではなく、称賛に満ち溢れていた。
「最新式の情報通信装置が開発された難点ですよね。噂が広まるのが速くなったのは。私は錬金術協会は退職した身なので、もう協会とは完全に無関係なんですけどね」と、少しげんなりしながらも私は答える。
私の口調に感じるものがあったのか、少しトーンを落とすタウラ。
「それでお願いなのだが、しばらくルスト達に同行させてもらえないだろうか」
「それは構わないけど」
と私はロアの方を振り向く。無言のままのロア。
「私達が行くところに呪術師の手がかりがあると?」とタウラの方へ向き直りながら私は訊ねる。
「それはわからない。とは言え、元々明確な手がかりは無いのだ。可能性としては、辺境の先の北の海にあると言われている諸島のどれかが奴の拠点の一つじゃないかと思っていた。しかし、行くための船が失われてしまったからな。後は、この辺境の何処かに隠れている可能性もあるだろう」
「うーん。可能性ってのは、それはあるだろうけど。かなり低そうな気がするけどな」
「それと、例のアーマーサーモンの襲撃が呪術師の仕業だとすると、錬金術師を狙っている可能性もある」とこちらを見るタウラ。
「えっ! いや、でもそれは状況証拠しか無いよね。……狙われているのか?」
と私も思わず考え込んでしまう。
そこに畳み掛けてくるタウラ。
「と言う訳で、しばらくお世話になる」とタウラが頭を下げてくる。
「……わかった。よろしくね」
こうして一行にタウラが加わることとなった。




