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【本編完結】辺境の錬金術師 ~今更予算ゼロの職場に戻るとかもう無理~《コミックス発売!》   作者: 御手々ぽんた
第二章

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辺境の夜を過ごそう!!

 私はスクロールを取り出し展開する。


「《顕現》アロマカズラ」


 現れたのはローズとはまた違った姿をした蔓型の錬成獣。


「アロマカズラ、いつものでよろしく」


 私の声に反応し、地面を蔓が埋め尽くしていく。広さにして二部屋ぐらいまで大きく広がった蔓が今度は縦方向へと伸び、あっという間に壁が作られていく。

 そして蔓製の簡易住居が完成する。


 ここからがアロマカズラの真価。その名の通り、豊かな香りがその蔓から生えた葉から香り始める。この香りはアロマカズラが出せる百の香りのうちの一つで、弱いモンスターを寄せ付けなくする効果があった。

 私は安直に『退魔の香り』と呼んでいる。柑橘系の香りだ。


 海からは十分離れたこの場所。半魚人達は海からは遠くまで離れない性質がある。その分、他のモンスターがいるのだが、アロマカズラの出す『退魔の香り』である程度は防げる。セイルークがこの匂いを嫌がるのだけが、難点なのだが。


「うん、上出来だ。いつもありがとう」


 私はそう言いながら出来立ての簡易住居に入る。一層爽やかな香りに包まれる。大きく深呼吸を一つすると、タウラ達が帰ってくるまでに終わらせてしまおうと私は夕食の準備を始める。


 ◇◆


 リュックサックから取り出した簡易コンロの上でツインラインホーンの肉が、いい匂いを漂わせている。《転写》のスクロールで焼き具合を確認しながら、私は完璧なタイミングで肉をひっくり返す。


「うん、タンパク質の熱変性具合も良しっと」


 私はガラス容器を取り出すと、アロマカズラに香りの濃縮液を数滴入れてもらう。今回は食欲増進と肉の臭みを消すように、『ハーブの香り』だ。


「仕上げにこの濃縮液を振りかけて、と。うん。錬金術的には最高の出来だ」


 ちょうどそこに川で身を清めてきたタウラ達が戻ってくる。


「いい匂い」とロアのお腹が空いている風の声。


「ああ、ロア。ちょうど今出来た所だ。アロマカズラ、椅子とテーブルをお願い」


 蔓がうにうにと動き、私の声に答えてくれる。ローズで蔓型の錬成獣に慣れているのか、すっかり驚かなくなったロアは直ぐに蔦の椅子に座る。


「ルスト、再び助けて頂き感謝の言葉もない。最初の約定もまだ果たしていないというのに。貴殿には不甲斐ない所ばかり見せているな」


「タウラも無事で何より。色々と話は聞きたいところだけど、先に食事にしよう。冷めてしまうしね」


「それではお言葉に甘えて」とタウラも席につく。


 私達は食事を始める。


「ルスト師の料理って一応美味しいんだけど、毎回これじゃない感がするんだよね」


 ロアは私の焼いた肉をじっくり観察している。

 そっと端を切り取り、口へ。

 ゆっくりと肉を噛むロア。

 不思議そうな顔をしてしきりに首を傾げるロア。しかしその手は止まることはない。

 それどころか、どんどんと食べるペースの上がるロア。ぱくぱくと肉を食べていく。


「私には美味しく感じる。特にこの香りはなかなか良い。前にご馳走になったローズティーも豊かな香りだったが、この肉につけてあるハーブの香りは草原の爽やかさを感じさせるものだ。それに肉の旨味も完璧に閉じ込められた焼き方だ」


 重々しくも誉めてくれるタウラ。こちらも優雅にしかしタウラの手早い動きに合わせて、皿から肉が消えていく。


 タウラの言葉に肩をすくめるロア。


「ありがとう、タウラ」


 私はタウラに感謝しつつ、ロアの何気に酷い言い草はスルーしておくことにする。


 ──これじゃない感って一体なんだ? 完璧に状態を確認しながら火を通したし、後は溶液を振りかけただけなんだけどな。


 私はそんな事を疑問に思いつつで、食事が終わる。一息ついた所で、私達はお茶を片手にこれまでの出来事を中心に情報交換を始めた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 美味いけどこれじゃない感。 きっと調理風景が科学実験めいているんでしょう(笑)
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