寂れた村へ立ち寄ろう!!
タウラの心を無駄に焚き付けてしまったことなど露知らず、私はあのあと、全速力で北に向かっていた。
八本の足を波打つようにして、ばく進するヒポポ。
時たまヒポポにスタミナポーションを飲ませて、自分でも飲む以外はノンストップで進み続けていた。
夜になると野宿で過ごす。
外でヒポポと焚き火を囲んで明かす夜は、なかなか新鮮だ。協会に就職してから泊まり込みと言えば、研究室で徹夜で錬成に明け暮れるぐらい。
こういった星空を眺めながらの、まったりとした時間というのは記憶にない。まあ、どんなに疲れても、固い地面で寝て体がこわばっても、スタミナポーションを飲めば完全に回復するからこそ、夜営を楽しめているともいえるが。
ちなみに食べ物は携行食一択。各種穀物やフルーツを錬成で乾燥、固着させたブロック状の物だ。学生時代に初めて作ったらカリーンに草レンガ呼ばわりされた。名前の由来は草と土の味がするブロックだからと言われた。
カリーンのとんでもないネーミングセンスに呆れたものだ。味だってそこまではひどくないのに。
そうして旅に出て数日後、日がくれる頃に、一つの村が見えてきた。
「確かここが北の辺境に入る前、最後の村だよな。あれ、なんか寂れている?」
私はヒポポの背から村を眺めながら呟く。カリーンから簡単な地図も連絡装置経由でもらっていたので、取り出して確認してみる。
「やっぱりそうだ。トマ村、だよな」
かつてはしっかりとした塀だっただろうものが、手入れを怠っているのか所々綻びが見える。堀も穴、とまではいかないまでも、万全には到底見えない。
「ここっていわばお隣さんになるんじゃないか、カリーンの領地の。大丈夫か、これで」
私はヒポポから降りると、スクロールを取り出す。
「ヒポポここまでありがとう。またあとでねー」
スクロール片手に、ヒポポにお礼を伝える。
「ぶもー」
「《展開》」
私の手から離れたスクロールが、くるくると広がる。
「《送還》ヒポポ」
スクロールから、白い糸のようなものが無数に溢れ出す。その糸が優しくヒポポの全身を包み込むと、一気にスクロールへと引き寄せる。糸にくるまれたヒポポの体がみるみるスクロールサイズまで縮んでいき、そのままヒポポがスクロールへと吸い込まれていく。
完全にヒポポが吸い込まれたところでスクロールをつかみ取りくるくると閉じるとリュックサックへとしまいこむ。
「さて、折角だからちょっとこの村の様子でも見てから行きますかー」
こうして私はカリーンの領地のお隣さんの予定のトマ村へと足を踏み入れた。




