手がかりを見つけよう!!
「終わった、のか?」領軍の兵の誰かがこぼした呟きが、静寂の戻った空気に響く。
それを皮切りに、兵達の間から徐々に歓声と、興奮のざわめきが巻き起こる。
「見ろよ、あの錬成獣の数、さすがマスターランクの錬金術師」「大きいカバだな!」「お座りしているとこ、可愛い」「それよりもドラゴンだろ、ドラゴン」「ああ、あれってドラゴンブレスってやつか」「きっとそうだ。物語で語られているやつだ」
そんなざわめきを背に、私はヒポポブラザーズを急ぎ送還していく。
一斉に魔法陣へと吸い込まれていくヒポポブラザーズ達。
実は、魔法陣の一部にノイズが走り始めていたのだ。
そんなこととは露知らず、還っていくヒポポブラザーズ達に向かって再び兵達から歓声が上がる。
私は急いでスクロールの展開を終了させる。
──ここ最近の研究をもとにした新作の結合魔法陣のスクロール、戦闘でぶっつけ本番デビューだったけど、ちゃんと起動して良かった。辺境の豊富なモンスター素材と、カリーンのつけてくれた予算で研究が捗ったお陰だな。ただ、魔法陣の安定に改良の余地がありそう。長時間の展開は、これだとまだ無理だな。
私は内心ほっと胸を撫で下ろしながら、皆の元へと戻っていく。
すると、歓声がいつの間にか、称賛を込めた私の名前の連呼に変わっていた。
さすがに気恥ずかしい。
私が皆の前で立ち止まると、私の名前を呼ぶ声が止む。皆の視線が注がれているのがわかる。私も逆に、こちらを見つめる兵達、そして、アーリの様子を観察する。
──皆、怪我は無さそうだな。それにしても、これってもしかして何か喋ることを期待されているのか? どうしたものか……
「指揮官どの、無事、モンスターの討伐を完了しました」
私は礼の姿勢をしながら、領軍の指揮官に向けて報告する形を取ることにする。
「っ! 討伐、お見事! 最高の働きでした、ルスト師。さあ、全軍、持ち場に戻れ! 仕事だ!」
急に私から話をふられた領軍の指揮官だったが、さすが一軍を指揮する者。報告を上げるという形から、暗に功績を譲りますという私の意図を汲み取って、綺麗にまとめてくれた。
──これで領軍の面子も少しは立つはず。これからも一緒に働く身としては、こういうのは大事だろうし。
「それでは私も後片付けに向かいます。あの大穴は私が責任をもって塞がせて頂きます」
と、巨大ヒポポブラザーの踏みつけによって出来た穴の後始末を受け持つ事にした。
「よろしくお願いいたします、ルスト師」
そう告げると、軍の指揮を取りに向かう指揮官。
入れかわりにアーリが近づいてくる。
片眼鏡越しにこちらを見つめる視線が、どことなく険しい。
「無茶をなさいましたね、ルスト師」
──あちゃあ、ばれてるか。アーリはどんな可能性の未来をその魔眼で見たのかな。
「それでも、これで被害は出なかったから……」と私は指をくるくる回して暗に結合魔法陣の事を示しながら答える。
「たまたま、ですよね。わかって、おっしゃってますよね?」
アーリの追及の手は、残念ながらそんなことではゆるまないようだ。
「ごめん、心配をかけました」
深呼吸をひとつ。そのまま吐く息に言葉をのせて。心配かけた事を素直に謝り、頭を下げてみる。
そこにタイミング良く、セイルークが舞い降りてくる。なぜかそのまま、奴は私の頭の上に着地する。
「うおっ、とと。──セイルーク!」
なんとか体勢を維持。よろけはしたが、倒れるまではいかなかった。セイルークがしぶしぶといった感じで肩へと移動してくれる。
「……ふふ」アーリの口から、思わずもれた笑い声。それで雰囲気がふっと和らぐ。
私はアーリの様子に安堵し、次に肩へと移動してきたセイルークに注意しようとそちらを向いた時だった。
セイルークの体の右上、少し離れた所にピコンピコンと点滅する三角形が浮いているのを見つけてしまった。




