道路事業を手伝いへ出発しよう!!
「ダメだ、さっぱりわからないぞっ!」
私は自分自身の情報を転写のスクロールで確認していた。
セイルークと契約してから数日間、あのときの原初魔術の事を調べようと手をつくしてきたが、一向に進展はない。
「あの時の契約で、私の何かが減ったのは確か、なんだよな。あれが数値だったとして、一桁分は、数値が減ったんだ。しかし、私の身体情報で目ぼしい変化は見られない。ふーむ」
転写のスクロールは対象の物質情報を読み取ってスクロール上に転写している。
魔素などの物質的でないものの検知にペンデュラムを使っているのもそのためだ。
「あの時私の傷口から溢れた物は、魔素でも無かったんだよな。つまり非物質で魔素とは別の存在が、この世には少なくとももう一つはあるってことだ」
全く未知の現象に推論を重ねていくのは、楽しいがもどかしくもある。
そのもどかしさの大元であるセイルークはと言えば、すっかり慣れた様子でヒポポに遊んで貰っている。
天気もよく、外に出たそうなセイルークに付き合って、私も天幕の外に椅子をしつらえ、そこに座っていた。
目の前の天幕と天幕の間のスペースではヒポポの尻尾にじゃれつくセイルーク。さっきはおいかけっこのような事をしていた。
「はあ、いくらお願いしてもあの半透明のプレートを出してくれないんだよな、セイルーク。あれは契約の時限定なのか。はたまた何か別の要因が……」
「ルスト師」とそこにアーリの声。
「あっ、アーリ。もう時間か」
私は慌てて片付けを始める。アーリに道案内をお願いして、道路整備の手伝いにいく予定だったのだ。とはいえ準備はばっちり完了している。
リュックサックを背負い、ヒポポにまたがる。アーリも後ろへ乗り込む。
「セイルーク、ちょっと出掛けてくる。ローズのところで待っててね」
私が出発しようとすると、ふわりと羽ばたき浮かび上がったセイルークが私の肩の上に飛び乗ってくる。空を飛ぶためか、その体は非常に軽い。
その口吻で軽く私の頭をつつくセイルーク。
「ついてくるつもりか?」
「キュッ」
私は仕方なく、そのままヒポポを走らせはじめた。
◆◇
荒野を駆けるヒポポ。頬を過ぎる風が気持ちよい。
セイルークは並走するようにして空を飛んでいた。日の光がその真っ白な体で反射され輝いているかのようだ。
「綺麗ですね」とアーリがヒポポの後ろに座り、セイルークが飛ぶ姿を見ながら話しかけてくる。
「ええ、本当に。ドラゴンがこんなに優美な生き物だとは思いませんでした」
「数百年ぶりにそのドラゴンと契約を交わしたのです。流石、ルスト師です。錬金術だけでなく、やはり幅広い見識をお持ちなのですね。見ていましたが私たちには何をされていたのかも、さっぱりでした」
アーリの声に含まれる称賛の響き。しかし、私は少し気まずい。さっぱり解っていないのは、私も同じなので。
「あーいや。そんな大した事はありませんよ。たまたまです」
私は言葉を濁して答える。彼女達には半透明のプレートの件はざっくりとしか伝えていないのだ。
全く未知の、自分の目にしか見えていなかった物。せめて繰り返し出すことぐらいは最低限出来なければどうしようもない。
それは私が夢を見ていた、と言われても反論できないぐらいあやふやな物に過ぎないので。
「キュッ~」
セイルークは、そんな私たちの事など気にしてない様子で、ただただ気持ち良さそうに空を飛んでいた。
──まあ、セイルークが楽しそうにしている姿を見れたのはいいんだけど。
私が上を見ながらそんなことを思っていると、そこへアーリの注意がとぶ。
「ルスト師、モンスターが来ます!」
振り向くと、アーリの片眼鏡越しに、その魔眼に魔素の煌めきが見えた。




