試行錯誤してみよう!!
私が驚いて、自分の手とその半透明のプレートを交互に見ていると、白ドラゴンが一声鳴く。
「キュッ!」
するともう一枚、同じような半透明のプレートが現れる。今度は白ドラゴンの目の前に。サイズも少し小さめだ。
タイミング的には明らかに、鳴き声に反応してそれは現れていた。
じっとこちらを見上げてくる白ドラゴン。お座りをして尻尾が緩やかにパタパタと床を叩いている。
──なんだろう。何かを期待されている感じがする。
私は試しに自分の前の半透明のプレートに、指を再び近づけてみる。
白ドラゴンの尻尾のパタパタが少し速くなる。
手を引っ込める。
パタパタがゆっくりになり、首を傾げる白ドラゴン。
「これに触れてみろって言っているのか?」と思わず声に出して訊きながら、私はそっと半透明のプレートに触れる。
「ルスト師は何かに触れているのか?」「魔眼でも何も見えない」「ロアの透視は認識阻害の術式もすり抜けるのに。これが原初魔術……?」とカリーンの問いかけに、ロア達が答えている。
私は頭の片隅で彼女たちの話を聞きながら、意識の大半は目の前の事に集中していた。
全く未知の事象に、好奇心のまま心踊っていた、とも言える。
全くの未知の文字列だが、配置には明らかに規則性がみられる。
そして何よりも、目の前の白ドラゴンの仔は、この文字列を理解しているのだろう。
ある一文に私の指が来たときに、尻尾のパタパタとした動きが一層激しくなった。
その一文は、二つの部分で構成されていた。
二文字だと思われる前半の記号と、六文字と思われる後半の記号だ。
──さて、どうするか。これをどうにかするのが契約を結ぶのに必要だと思うんだが……
私は悩む。未知の魔術なのだ。どのような危険があるかわかったものではない。しかし、研究者の性として、結局、好奇心に負けてしまった。
指が、その一文に触れる。
すると後半部分、六文字ある記号が、次々に変化していく。
──これは! きっと数字だな、間違いない。変化の仕方に規則性があるし、同じ記号が繰り返し出てきている!
私が興奮しながら半透明のプレートを見ていると、私側のプレートから白ドラゴン側のプレートへ光らしき何かが移動しているのが目にはいる。何かが向こうへと流れ込んでいるようだ。
試しに指を離す。すると、数字と思われる記号の動きは止まり、光らしきものも消える。
──これはすごい。白ドラゴンの原初魔術で何かの受け渡しが行われているのか!
「キュゥ」と悲しそうな白ドラゴンの鳴き声。多分だが、どうやらまだ足りないようだ。
再び文字列に触れ、何かの受け渡しを継続する。
そして六文字だった文字列が五文字に減った時だった。文字列の変化が止まる。そのかわりに、半透明のプレートの中央部分に二つの新たな文字列が現れる。
どちらも短い文字列だ。
──片方は実行とか確定とか、肯定の文字で、もう片方は中止とかキャンセルとかの否定の文字、だよな。流れ的に。
私は右側に指を近づける。
「キュキュキュ」と首を横に振る白ドラゴン。尻尾も連動して横揺れしている。
次に左側に近づけてみる。
「キュッ」と縦に首を振る白ドラゴン。床をパタパタ尻尾が叩く。
私はそのまま左側に触れる。
半透明のプレートが消える。
そして、私が先ほど左腕につけた傷口から、突然、白い光が溢れ出す。
「きゃっ!」あまりの眩しさに後ろの方から誰かの悲鳴が上がる。
私は驚きすぎて、固まってしまう。そんなことにはお構いなしに、傷口から溢れ出た光が私の首から下げたメダリオンへと集まってくる。
煌々と輝くメダリオン。次の瞬間、光はメダリオンを離れ白ドラゴンへと飛んでいく。
光を受けた白ドラゴンの体が、白銀に輝き出す。
「キューーー」高らかな鳴き声。
白銀の光が収まった時、そこには二回りほど大きくなった白ドラゴンの姿があった。
その姿は首が伸び、全体的にスマートになっている。
ゆっくりと近づいてくる白ドラゴン。
「契約できた、のか?」と私は近づけてくる白ドラゴンを見ながら呟く。
「キュッ」と一鳴きし、これも伸びた尻尾をパタっと床に打ち付ける白ドラゴン。
伸びた首を私に近づけてくる。
そっとその首を撫でてあげる。
ひんやりとした感触。
よく見ると首の中程に、私のメダリオンと同じ模様が刻まれていた。まるで、銀色のアザのようだ。
「名前は、セイルーク、はどうかな」
「キュ」
こうして、私は何かを引き換えにして、セイルークと契約を結ぶことに成功した。




