契約を持ちかけてみよう!!
白ドラゴンを入れていたローズ特製のケージ。それを形作っていたローズの蔦がほどけるように開いていく。
その様子をきょとんと見つめる白ドラゴン。
私は用意していた特製の最高級ポーションを取り出す。
ご飯の時間だと思ったのか、尻尾をバタバタさせる白ドラゴン。
ポーションのボトルの封をあけ、ガラス皿に注いでいく。
目をキラキラさせてそれを見つめる白ドラゴン。
「あんな餌で釣るような感じで契約するのか」「カリーン様、しっ」
後ろでギャラリーがうるさい。私は気にせずに、白ドラゴンの目の前に、慎重にガラス皿を置く。
幼生体とはいえ、相手はドラゴン。その牙は鋭く、檻もなく襲いかかられたら、片手ぐらいなら簡単に持ってかれてしまうだろう。
実際にはぎりぎりでローズが阻止してくれるはずだが、それでも緊張するのは否めない。
しかし、心配は杞憂だった。
特に襲いかかってくる様子もなく。ここ数日何度も同じガラス皿にポーションを入れてあげていたので慣れたのだろう。
いつも以上に美味しそうに最高級ポーションを舐めている白ドラゴン。
──濃縮魔素溶液、少しでも持ってきておいて良かった。最高級ポーションには必須なんだが作るの面倒くさいんだよね。話を聞いて貰うにしても大人しくしていて貰うにしても、これぐらいはしないとね。それにしても錬金術協会に置いてきた濃縮魔素溶液はどうなっただろうな。無事だといいんだけど。
私はそんなことを考えながら、契約の準備を進める。
と言ってもやることはあまりない。おとぎ話と伝承から読み解ける限りだと、契約はドラゴン側の原初魔法になるようなのだ。
つまり、人間側で出来ることは少ない。
ただ、伝承でもお伽話でも、その契約の儀式の始めには必ず人間側が血を捧げているのだ。
と言うわけで私は特製のナイフを取り出す。ツインラインホーンの角を削り出して作ったものだ。
刃には細い溝で、紋様も刻んである。
そのツインラインホーンのナイフを逆手に構えると、自分の左腕をゆっくりと切り裂いていく。
刃先から毛細管現象で私の血が刃に刻まれた紋様へと流れ込む。
ポーションを舐め終えた白ドラゴンが不思議そうに私の行動を見ている。
私はその鼻先に自らの血を吸ったナイフを差し出す。
「名はルスト。生業は錬金術師。契約を望む者だ。私の血を受け取ってほしい」
私の話す内容をじっと聞いていた白ドラゴン。おもむろに、私の差し出したツインラインホーンのナイフに鼻先を近づける。
──あっ、ここ数日携行食しか食べてないや。血にまで匂い、染み付いてないよな?
そんな私の心配をよそに、刃の側面、そこについた私の血をちらっと舐める白ドラゴン。
──なめた! さあ、このあとはどうなる?
羽を広げる白ドラゴン。
まるでそれが合図だったかのように、私と白ドラゴンのちょうど真ん中に、何かが現れる。
それは、半透明のプレート。そこには、見たこともない文字らしき物が羅列されていた。
宙に浮く、そのプレート。
「なんだろうこれ? 初めて見たな」と首を傾げる私。
「何か見えるかアーリ、ロア」「全く。特に何もないように見えますよ」「私も」と騒ぐカリーンたち。
「え、カリーンもアーリもロアもこれ、見えないの?」私が指差した、白ドラゴンとの間に存在する半透明のプレート。
「ああ、何もないように見えるぞ」とカリーン。
私はまじまじとそのプレートを観察してみる。
そっと手を近づけてみる。案の定、手は半透明のプレートをすり抜けてしまう。
しかし私の手がプレートを通りすぎたタイミングで変化が起きた。
プレートに書かれていた文字らしき物が、一部書き変わったのだ。




