報連相をしておこう!!
「──と言う訳なんだ」と私は白ドラゴンの件をカリーンに報告していた。
「ドラゴンか。ほとんど伝説の存在じゃないか。もし本当にそれがドラゴンだとしたら、発見自体が数百年ぶりなんじゃないか?」
驚いた様子のカリーン。
「そうなるね。まあ、まだ確実なことはわからないけど。ただ元々助けたときから、かなりの知性を持っているようには感じていたんだ。ドラゴンの可能性はかなり高いと思う」
「ふむ。だが、草レンガを匂いだけで拒否したからって知性があるとは言い切れないぞ」
「それは一例だって。と言うか皆が何でそこまであの携行食を忌避するのか良くわからないんだが。まあそれは置いておくとして、知性の高さについてはこれからより詳細に調べていくよ」と私は苦笑しながら答える。
「それで、どうするかは既に決めているんだろ、ルストの事だから」
「ああ、野に帰すことも考えたんだけど、本当にドラゴンなら契約が結べるはずだ」
「それも数百年前の話、だろ。おとぎ話の類いじゃないのか」とあきれ顔のカリーン。
「おとぎ話や昔話には真実が含まれている、と私は信じている。何にしても実施する時の予防措置は完璧にするつもりだ」
「わかった。許可しよう」
「ありがとう! カリーンならそう言ってくれると──」
「ただし!」とビシッと指を突き付けてけるくるカリーン。
「立ち合わせて貰うからな。必ず、呼ぶように」
「了解。……カリーン、立ち会うのって、面白そうだからだろ?」
「そうだ。何が悪い?」と言うと、がははと男のように笑うカリーン。
──まあ、カリーンは元々こういうのが好きな奴だったな
私はそんな事を思いながらカリーンの天幕から退出すると、準備を始めた。
◆◇
「それで、何でまたロアとアーリもいるんだ?」
ようやく全ての準備が終わり、カリーンに連絡をした。
そうして立ち会いに現れたカリーンの後ろには二人の姿もあった。
「見張り」と言葉短く答えるロア。
その目は鋭く白ドラゴンを見据えていた。手にした槍が、ピクッと動く。
──そういえば、ロアは初めて会ったときから目の敵にしていたよな。トカゲが嫌いなのかな。
「ロア、やめなさい。問題は起きないはずよ。ごめんなさいね、ルスト師」とアーリが謝ってくる。
私はヒラヒラとアーリに手を振って、気にしてない事を伝える。
アーリの片眼鏡の奥の瞳に、きらめく魔素の輝きは見えない。
未来視の魔眼は発動していない様子。白ドラゴンと戦闘にならない可能性が高そうだと、内心ほっと息を吐く。
「わかりました。でも、ロアとアーリの二人はヒポポの後ろに居てください」と私は天幕の中で足を折り畳んで座っているヒポポを指差す。片付けてがらんとした天幕の中でもヒポポは少し窮屈そうだ。
「うん、二人だけか? 私はいいのか?」とカリーンがにやにやしながら聞いてくる。
「カリーン様はこの中でも一番頑丈だと思いますよ?」とお辞儀をしながら言ってみる。
「違いない」と笑い声を上げるカリーン。
そんな私たちの冗談めかしたやり取りをロアとアーリは不思議そうに見つめていた。
「それでルスト師、契約と言うのはどうやるんですか? やはり錬金術で?」と話が途切れたタイミングでアーリが聞いてくる。
「いや、その子が本当にドラゴンなら、生半可な錬金術は弾かれるはずだ。とはいえ、それをこえる威力の物だと流石に無事では済まない、と思うんだよね」
「え、それじゃあどうするんです?」と不思議そうな顔をするアーリ。
「アーリは、原初の魔術についてはどれくらい知っている?」
「詳しくはありません。命にまつわる血を媒介にしたもの、ぐらいの知識しか」
「私も詳しくはないんだけど、たまたま先輩でそちらの系統を研究していた方が居てね」と私は基礎研究課の論文を転写したスクロールを掲げながら伝える。
「調べれば調べるほど、数百年前の有名なドラゴンと人との逸話と、原初の魔術には通じるものがありそうだったんだ。そもそも原初の魔術自体がドラゴンの──」
「はい、ストップ!」と割って入ってくるカリーン。
「ルストはそこまで。アーリも不用意に話を振るとこうなるからね。止めないと、ここから長いよ」
「な、なるほど。──いえ、でも大変興味深そうでした」とちらっとこちらを見て付け加えるアーリ。
私は肩をすくめると、ローズの方をむく。
「それじゃあ始めますか。ローズ、お願い」
私の頼みに反応して、ローズの蔦が天幕の入り口を、そして壁と言う壁を覆っていく。
私はそれを確認するとゆっくりと白ドラゴンのケージへと歩み寄っていった。




