side リハルザム 12
粘菌となった下半身の操作に慣れないのだろう。リハルザムは上半身を前後左右に揺らしながら、よろよろと道を進む。生存本能のままに、自らへの殺意を浴びせかけられた場所から、少しでも離れようとしていた。
その時だった、突然、リハルザムの脳内だけに、聞いたことのない《声》が響く。
『ピンポーン。管理個体ナンバーM-d3152669の転生進化を確認しました。アクセスキーを検索。アクセス完了。転生前の行いをスキャンします。スキャン中。スキャン中』
「な、だれ、だ。なに、を、いてる」と頭の中に響く《声》に話しかけるリハルザム。
《声》はリハルザムの言葉など聞こえないかのようにその言葉をつむぎ続ける。
『スキャン完了。管理個体ナンバーM-d3152669の行動及び精神活動に基づき、称号の授与、スキル付与を実行』
「す、キル? それ、は、なん、だ」
『ピンポーン。飽くなき権力への渇望と手段を選ばぬ執念を検知。称号「魔王へと到りうる可能性」を授与。スキル「スキル習得限界突破」を付与』
「ま、おう、だとっ」リハルザムの人のままの瞳が驚きに見開かれる。
そこへ突然、無数の魔素の銃弾がリハルザムのキノコボディに撃ち込まれる。
連続する僅かな衝撃にリハルザムの体が少し傾くも、魔素はそのまま体に吸収されて、そのキノコボディにはダメージはない。
「魔法銃撃ち方やめ。ふむ、通報どおりですか。やはりあれは魔族ですね。魔素の弾が効かないなら間違いないでしょう。やれやれ。人手不足で駆り出されたと思ったら、これは大物を引いてしまったようです」
銃撃元には軍人たちの姿。そのうちの一人、青白い顔の男の話す声がリハルザムまで届く。
「突撃しますか? ハロルド隊長」
「隊長代理です。それと、あの胞子が毒との情報もあります。属性変化の魔導回路、残っていた物をあるだけ用意しました。装着後、一斉射撃をお願いします」とハロルド。
「イエッサー」
その会話に、リハルザムは身の危険を感じたのか、必死に遠ざかろうと再び移動を開始する。しかしその動きは相変わらず、ぎこちない。
そこへ襲いかかる炎に属性変化した魔法銃の弾。しかしその数は少ない。
どうやらいくつかの魔法銃は魔導回路が暴発した様子。兵士たちのうち、眉の焦げている者が何人もいる。
それでもいくつかの炎はリハルザムの体へと着弾し、その身を焦がす。
「ぎゃ、あ、あ、あち、いいい──」
キノコの体は良く燃えるようだ。
焦げたキノコがポロポロと地面へ落ちる。
その間にも、《声》は話し続けていた。
『ピンポーン。才無き故に燃え盛る嫉妬の炎を検知。スキル「炎熱耐性」を付与』
そこへ再びリハルザムのキノコボディへと撃ち込まれる炎の弾。しかし、今度はその体の表面で炎は弾け、消し飛ぶ。
「あ、あ?」と不思議そうな顔で自分の体を見下ろすリハルザム。
ざわつく軍人たち。想定外の事態なのだろう。攻撃の手が止む。
お構いなしに《声》は続く。
『弱者への加虐行為を検知。スキル「暴虐者」を付与。理無き逆恨みを検知。スキル「防御スキル貫通」を付与』
今がチャンスとばかりに必死に逃げようとするリハルザム。
「ハロルド隊長!」と部下らしき人が叫ぶ。
「見えている! 仕方ない。全員抜剣! 突撃する!」
剣を構え、突撃の構えを見せる軍人たち。
リハルザムは必死に下半身だった粘菌を動かす。
『ピンポーン。汚れ仕事に従事を検知。スキル「完全粘菌化」を付与。転生進化に伴う調整が完了。処理終了します』
急に動きが良くなるリハルザム。
そこへ迫る軍人たちの刃。
急に、リハルザムのキノコボディが下半身部分へ溶けるように吸収されていく。
全身が粘菌状となったリハルザム。迫り来る刃を、その粘菌状態で避ける。その避けたリハルザムの目の前には下水用の側溝が現れる。
躊躇なく、粘菌と化したリハルザムは、その下水の中へと飛び込んで逃げて行った。




