side リットナー
「ぐっ。おらぁっ!」リットナーは構えた斧で、スカイサーモンの突撃を受け止めそのまま上空へはじき返す。
食料保管庫の責任者である彼は、自分の部下達とともに非戦闘員の避難している食料保管庫の防衛に当たっていた。
「リットナー隊長! 俺が囮に前に出ます!」とスキンヘッド姿の部下の一人が叫ぶ。両手にはめたアイアンナックルをがちんと打ち合わせながら。
「ダメだ! 円陣を崩すな! ハートネス。そして俺はもう隊長じゃねえ、よっ。だぁっしゃあーー!」と答えながら次のスカイサーモンに斧を叩きつけるリットナー。
斧はきれいにスカイサーモンの鼻っ面を捉える。しかし刃が通らない。首をひと振りし、上空へと逃げていくスカイサーモン。
「たく、かってーなー、おい」
「どうします? このままじゃジリ貧ですぜ、隊長」と、ハートネス。
「だからもう、隊長じゃないと────」決して楽観できない状況だからこその、そんな軽口を叩こうとした時だった。何かが天幕の隙間を縫うようにして、飛んでくる。
「なんだあれ……?」「でかい毛玉か」「植物? 新手かっ?!」「いや、まて。スカイサーモンを食ってないか、あれ!」
その、あまりの奇っ怪な見た目に呆然としてしまう部下達。そして、円陣にほころびが出来てしまう。その隙を狙ったかのように襲いかかってくるスカイサーモン達。
リットナーは声を張り上げる。
「気、抜くんじゃねえっ。きたぞっ!」
慌てて態勢を立て直そうとするリットナー達だったが、部下の何人かがスカイサーモン達の体当たりをまともに受け、弾き飛ばされてしまう。
円陣が崩れ食料保管庫への通路が開いてしまう。
「くっ!」身を投げ出すようにして、通路を塞ごうと突進してくるスカイサーモンの前に立ちふさがるリットナー。
斧を構え、衝撃を覚悟し身を固くする。
しかし、何時までたってもやってこない衝撃にリットナーが斧を下ろすと、目の前のスカイサーモンは全て蔓に絡めとられた所だった。
それはイバラの蔦。
その鋭い棘で、その身をぐちゃぐちゃにされながら根本の方へと引きずり込まれていくスカイサーモン達。
自然とリットナーの視線もそれを追ってしまう。
そして、ようやく気がつく。
「スクロールから生えている……? スクロールか! そうかこれはルスト師の──」
「あ、あれだけいたスカイサーモンが一瞬でバラバラ、だと。隊長の斧だって通らなかったっていうのに」と吹き飛ばされ尻餅をついたまま唖然としているハートネス。
リットナーはハートネスに怪我がないか確認すると、引き起こしてやる。
「いやはや、本当に全く、なんなんだろうな。俺たちがあんなに苦労したってのに。こりゃあどう見てもマスターランクの錬金術師ってのは化け物以上、だろ。しかしあのトゲの生えた蔦はなんなんだろうな」とリットナーもハートネスに応える。
「た、隊長」
「だから隊長じゃないって、何度……」
「あれ」と震える指でリットナーの頭越しに空を指差すハートネス。
ばっと振り返るリットナー。
周りの人々の視線も全て自然とそちらへと引き付けられてしまう。
そこにあったのは空を舞う八本のスクロール。その一つ一つからあふれでたイバラの蔦が、空を埋め尽くしていたスカイサーモン達を次々に屠り、ばらし、呑み込んでいく光景だった。




