決断しよう!!
私はリハルザムの逃げた先をちらりと見る。
──追うべきか、ここで皆と野営地の防衛に徹するか。
その間にもカリーンが指示を飛ばし始める。
「あの翼の生えたアーマーサーモンを、仮にスカイサーモンと呼称することにする! アーリとロアは先行し、野営地へと襲いかかってくるスカイサーモンへの牽制と戦闘能力の調査をっ! 生き残ることを最優先! 私は戦闘指揮及び非戦闘員の避難指示に向かう。ルスト師──」とこちらを見つめるカリーン。その為政者としての目で問いかけてくる。──リハルザムを追うのか? と。
ここで奴を逃すことが将来の禍根となりうる事。それが、私が防衛から外れることで発生するであろう人的被害より大きくなる可能性を理解しての、問いかけの視線だった。
私はしかし、逆にその瞳を見て、決断する。もしここで被害が出てもカリーンはその悲しみ、後悔を、上に立つものとして自分一人で抱えるに違いない。そして絶対にそれを誰にも見せないことが、容易に想像出来てしまって。
だから、カリーンにそれ以上言わせないために、私は遮るようにして言葉を発する。
「私も、野営地の防衛に! リハルザム程度なら、いつまた来ても、どうとでもなります」と残る事を伝える。
「──わかった。ルスト師はスカイサーモンの殲滅の準備を頼む」
「了解!」
──殲滅、ね。なかなか無理難題を言うね。その命令、全力で果たしてみせますか。
と、そこでアーリが叫ぶ。
「だめです、ルスト師っ。リハルザムは、ここで殺しておくべきです!」
私が答えるより先にカリーンの怒声が飛ぶ。
「アーリ、黙れっ! 準戦時下の命令だぞっ。自らの任務を遂行しろっ!」
うつむき唇を噛むアーリ。
「イエス、マム。先発します!」とロアと一緒に走り出すアーリ。
その背中に、私は内心、謝る。
──すまない、アーリ。君の見たであろう未来を信じてない訳ではないんだ。しかし、私は君たちを、そして野営地の皆を守りたい。
私は気持ちを切り替えると、自らの天幕に向けて走り出した。
途中、走りながら見上げると、スカイサーモンが二手に別れていくのが見える。一部は下降し、この野営地へと。
そして一部はそのまま空を飛び続け、王都方面へと向かっているようだ。
──敵が、分散した? 私たちにとっては朗報だが。王都に何かあるのか?
立ち並ぶ天幕越しに、下降してきた一部のスカイサーモンがすでに野営地へと襲いかかってくる様子が見える。
そのスカイサーモン達を迎撃するアーリ達の姿も、見え隠れする。
──一秒でも早く、準備を済ませなければっ!
◆◇
全ての算段をつけて、私は天幕から出る。
ちょうどそこへ襲いかかってくるスカイサーモン。
丁度、真正面から。
川でアーリ達と見かけた個体より明らかに大きくなっている。その身を覆っていたアーマーの一部が変型し、遠目に翼のようになっているようだ。魔素のきらめきがその翼に宿っている。
──ふむ、大気に満ちる魔素をあの部分で捉えて揚力を得ているのかな? 興味深いな
そんな事を考えている間に目の前まで高速で迫るスカイサーモン。
その時だった。足元からイバラが飛び出す。
私の体を守るように、イバラの壁が一瞬で形作られる。そこへ飛び込んできたスカイサーモン。かなり重たいであろうスカイサーモンの高速の衝突でも、びくともしないイバラの壁。逆にスカイサーモンの体がひしゃげ、頭が半ば潰れている。
残ったスカイサーモンの体に、イバラが棘を突き立て、絡みつく。
ズタズタに引き裂かれ、細切れに成りながら、スカイサーモンの血肉が地面の下へと引きずり込まれていく。
「ありがとう、ローズ」
私はローズにお礼を言うと、最もスカイサーモンの姿が多く見える、中央広場へ向かった。




